この時期にありがちなpart2

前回から引き続き、怖い話的なものをまた

(前の記事から期間が空きすぎたので怪談のシーズンでもなくなってしまいました)

この頃の友人は自分のバイトが休みのたびに「一緒に心スポ行かね?」と声を掛けてくるほどだった

それを断り続けて結局は一度も同行しなかったのは今となっては悔やまれるかもしれない


恐怖の感じ方は人それぞれで
恐、怖、畏なんて使い分けもある

過去に何かが起こったわけじゃなくても、怖そうな雰囲気だけで何かがあったと噂される事も少なくない
事実無根の噂も、積み重なればその地に霊を呼ぶことになるという話も聞いたりする

自分の怖いものは饅頭ぐらいかな
熱いお茶も一緒なら、その恐怖は倍増するであろう。


『白い家と黒い影』


その場所は草木が生い茂る中にポツリと一軒だけあるらしい


友人ら四人が乗った車は山道を走る


日中でさえ薄暗い木陰の中に、それは佇んでいる

なんともおあつらえむきな環境なのだろう、いかにも"何かがいます"と言わんばかりの雰囲気を醸し出していた

「そろそろ着くぞ」
ハンドルを握る先輩が口を開く
前回屋内で穴に落ちて股間を強打した先輩がこの度の運転手だ
何の舗装もされてない山道をぐんぐんと進むと、少しして開けた場所があり、そこに車を停めた
「ここから少し歩くからな」
木々のざわめきしか聞こえない場所だ、小声で話す先輩の声も一段とクリアに聞こえる

前回の反省を活かして、人数分の懐中電灯は事前に用意して
さらに、自分用にと自宅からヘッドライトを引っ張り出してきた
これで装備は万全だ

目的地はここから更に5分ほど林の中を進んだところにある白い建物、ここでは一家心中があったとかなんとか…
実のところ、何が起こったなんてどうでもいいのだ
面白そうな事。それが行動原理だ
二人ずつのペアになって前日の雨でぬかるんだ足元を照らしながらゆっくりと向かった

何事もなくその家の前に着いたが、間近で見ると思っていたよりもボロボロで
恐怖よりも悲壮感が勝つような出立ちをしていた
二階建て4LDKで家財などはなく、よく見るハリボテのような
ガワだけが残ってるような状態だった

先行したペアは想像よりも何もなかったので既に飽きてきて、先に戻るという
仕方なくこちらは「二階を少し見てから戻る」と伝えて、上階へ昇った

二階のふた部屋にも何もない
真夜中に誰もいない、何もないボロい家の部屋が逆に怖く感じて
早々にこちらも車へと戻ることにした

ヘッドライトと懐中電灯で足元を照らしながら進む
すぐ隣には闇が広がる
今し方歩いてきた後方から物音が聞こえる
破裂しそうなぐらいにバクバクと大きな音を立てる心臓

いやいやいやいや、さすがに気のせいでしょ?と、ゆっくり後方の道を照らす
「よかったー、なんもないじゃ…」
そう言い終わる前にトントン、と肩を叩かれた
どうかしたのかともう一人に尋ねると、彼は茂みに向かって指をさす
その方向を照らそうとすると腕を掴まれ静止させられた
再び鼓動がうるさいぐらいに鳴り始める

闇に溶け込む黒い影、ギラリと光る二つの眼球


嗚呼、この黒いシルエットはそうだ間違いない

そう、ヒグマだ。


毎年、必ずテレビで流れる注意喚起の話を思い出す
「熊と遭遇した際には目を合わせながらゆっくりと後退りをして逃げよう
決して慌てずに、自分の荷物をその場に置いて熊がそれに夢中になってる間に、熊が視界からいなくなるまで後退りで距離を取ろう
背中を向けて逃げてしまうと襲われるので、絶対にしない事」

脳内に出てきた事を全て無視して全速力で背を向けて走った
熊の存在を伝えてくれた相手を置いて、真っ先に走り出した
数秒遅れて後ろから足音が聞こえて少し安心したが、その瞬間
足元のぬかるみで盛大に転んだ
地面へ吸い込まれていくような感覚だった
あの時間は人生で一番長い数秒に感じた
「あ、これで死ぬんだ
バカなノリで心霊スポット巡りして熊に殺されるなんて笑い話にもならない」
倒れ込んだ自分の横を駆け抜けていく人影、自分も見捨てるように走り出したのだから置いて行かれても仕方ない
そう諦めの思いが湧いてきたが、生存本能というのか体はまだ動いた
どの距離まで迫っているのかもわからない、追ってきているのかもわからない、天地がどちらかもわからない
ただ足に力を入れて上体を起こし、前へと再び駆け出した
もうどれぐらいの距離を進んだのかもわからない
身体中、靴の中だって泥まみれだ
それでもここで命尽きるよりはマシだと無我夢中で走り続けた

顔を上げると車の明かりが見えた
自分が乗ったらすぐに発進できるようドアを開けて待っている

逃げ切った、ついに車に乗れた

車を汚してあとで先輩に怒られるんだろうな、とやっと他のことを考える余裕もできた
「お前あそこで転ぶとかマジかよw」と帰りの車内ではそんな話で盛り上がった
床が抜けて股間を強打してた先輩にイジられるのは意味が分からなかったが
命が助かったので差し引きしてもお釣りが来るレベルだ

僕たちはあと何度、こんなバカみたいなことをするんだろう
もう森の中だけは勘弁だ、と身体中にできた擦り傷をみて心の中で思った。


to be continued…


いいなと思ったら応援しよう!