ぎっくり「首」
痛みで泣き叫んだことはありますか。
私はたった20余年の人生で2回、泣き叫びました。
一度目は子供の頃、アレルギー検査か何かで指先に針を刺された時――マ多分これは刺される前の恐怖感から来ていたものもあったとは思うのですが――で、二度目は
ぎっくり首
①発端:肩凝り
高校生だったある日の私は、趣味のお絵描きを本格的に学びたいと唐突に思い、芸大を志しました。
この時点で既に高校2年目の冬。
「ブルーピリオド」など、芸大受験を未経験の人でも理解できるようなコンテンツが溢れる現在、芸大受験がどれだけ難しく苦しいものかは皆さん既にご存知かと思います。
半端な時期、なんなら遅すぎる時期に対策を始めた私は、講師からは合評毎にけちょんけちょんのぎったんぎったんにされ、デッサンの実技模試では下から数えた方が早いことに絶望を覚えながらも絵を描き続けました。
毎度、緊張や萎縮から肩にガッチガチに力が入り、手も紙も鼻くそも黒鉛で真っ黒にしながら――デッサンをやり続けた人は分かると思いますが、デッサン描き終わってふと鼻をかむと大抵ティッシュは真っ黒です(ですよね?)――、何枚もデッサンを生産しました。
それは即ち、代々肩凝りに悩まされる家系に生まれ落ちてしまった私への死刑宣告です。
私は人並みの画力を手に入れ、案の定、肩を壊しました。
②因子:接骨院
さて、無事に肩と引き換えに芸術の道への片道切符を手に入れた私は、デッサンをする機会が格段に減りました。
しかし、デジタルイラストを専攻したために、画板に対して垂直に保っていた腕を下ろすことができたのも束の間、今度はブルーライトを浴びすぎて眼精疲労も常に抱える羽目になってしまいました。
堪らずマッサージ屋に行くと、
「あの、御神輿担いでるおじさんと同じくらい、肩が隆起してます……」
19歳のいたいけな少女にかけられた言葉が「おじさんといっしょ」。
ショックを受けた少女は、しかし単位を犠牲にすることもできず、おじさんと同じ肩を持ったまま絵を描き続けました。
さすがにこのおじさんをマッサージで紛らわすのも限界を迎え、根本的に治そうと通い始めた接骨院。
そこには同人活動に理解のある鍼灸師が働いていました。
絵を描く苦労もよくよく理解してくれ、保険適用のマッサージの他、針による治療も進めてくれました。
「肩、辛いですよね」
「猫背気味なので、頭を支えるために腰の方もガチガチになってますよ」
「上半身全体的に針を打っていきますね」
文字通り、針のむしろな私。
始めはびっくりしましたが、今までよりよっぽど効いている気がして、おじさんとの別れを色濃く感じます。
少し寂しいですが、このままおじさんが去ってくれれば今後
首 が 痛 い 。
③決定打:うとうと
さて、1回目の針でやたら痛くなった首にも針を打ってもらい、痛みが和らいだ私です。
今日は大学主催イベントの前日リハーサル。
友人の手伝いのため体調も万全に整え、張り切って向かいます。
手伝っている友人の出番も終われば、あとは予定調和に行われている他の人のリハーサルを眺めるだけ。
調子が良すぎて、これまで話したこともない後輩と談笑した後、消えかかっているおじさん(※肩の隆起)と一緒にうたた寝でもしようかと、椅子に座りました。
…
……
…………
そろそろリハーサルも終わる頃でしょうか。
うとうとしていた私は控え室の様子でも見に行こうかと、目を開き鎖骨に引っ付くほど引いていた顎をあげた瞬間
ウーハッフッハーン!! ッウーン! ずっとマッサージぐらいしてきたんですわ! せやけど! 変わらへんからーそれやったらワダヂが! 接骨院通って! 文字通り! アハハーンッ! 命がけでイェーヒッフア゛ーー!!! ……ッウ、ック。絵描かん人ら! あなたには分からないでしょうけどね! 筋骨隆々とした、おじさん(※肩の隆起)引き連れて、本当に、「誰が按摩しても一緒や、誰が按摩しても」。じゃあ俺がああ!! 接骨院通って!!
この身体を!
――野々村竜太郎元議員「号泣会見」より
リハーサル中だったため声はもちろん出せませんでしたが、混乱具合は全く同じです。
頭を起こした瞬間、寝違えレベルMAXの痛みが私の首を襲い、座り姿勢が良くなかったのかと広いところに寝転びに行こうとするも、寝転ぶのにも首が痛すぎて涙が出る始末。
恐らくこれは頚椎捻挫。
首の筋肉に溜まった疲労やふとした動きが原因で起こるものだそうですが、私は信じたくありませんでした。
だって、疲労が溜まるような行動は、鍼治療くらいしか思いつかなかったのです。
保険適用外の鍼治療はそれなりに値が張ります。この若さで手を出すとは思いもよらなかった鍼治療に、決して安くはないお金を出し、やっと普通の肩を手に入れたと思ったのに。
初の針のむしろ状態に「びっくり」してただけなのにまさか「ぎっくり」首になるだなんて。(すみません)
④地獄:地獄
夜間診療をやってる整形外科は近くにはなく、総合病院の救急外来に父の運転する車で向かいました。
甲斐甲斐しくドアの開け閉めまでしてくれる父。
俯くことも仰け反ることも、傾くことすらできない私は奇妙な体制でたっぷり20秒は掛けながら、助手席へ乗り込みます。
心配そうにドアを閉め、優しい言葉を掛けながらシフトレバーをドライブに入れる父。
そんな父がアクセルに足を置くや否や
ウグッブーン!! ゴノ、ゴノ身のブッヒィフエエエーーーーンン!! ヒィェーーッフウンン!! ウゥ……ウゥ……。ア゛ーーーーーア゛ッア゛ーー!!!! ゴノ! 身の! 肩ガッハッハアン!! ア゛ーー身体を! ゥ変エダイ! その一心でええ!! ィヒーフーッハゥ。一生懸命通って、若い身体に、縁もゆかりもない接骨ッヘエ鍼治療に、金出して! やっと! 普通の肩に!! なったんですううー!!!
――野々村竜太郎元議員「号泣会見」より
車内でひっきりなしに襲い来る痛みは本当に地獄にいるかのようでした。
ミステリーでしか聞いたこともない金切り声とも悲鳴とも付かぬ悲痛な高音を、私は口から発し続けていました。
逃げ場がなく、真横で悲鳴を聴かされ続ける父は最早私より辛かったろうと思います。
形容するならまさに、地獄。
その後も私はブレーキの度、アクセルの度に
ウーハッフッハーン!! ッウーン!(以下略)
とあまりの痛みに泣き続け、人生で二度目の「痛みに泣き叫ぶ」という実績をアンロックしたのでした。
最後に
思いもよらぬ、ふとした動作で「ぎっくり首」は起こります。
ピッチピチのナウでヤングな20代でもやらかしました。
私の知り合いのお姉様やお兄様方(どちらも60代)も、意外にも多くの方が「ぎっくり首」を患ったことがあるようで、これを読んでくださったあなたも例外ではないかもしれません。
本当に、本当の本当に日々気をつけながら、ストレッチなど適度に行いながら健やかにお過ごしください。
「ぎっくり腰」というタイトルでまたnoteを書くことがないことを切に願います。
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