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茶飲みともだち

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男女の友情はある説。友達以上でも以下でもないスナとミイの、10歳からはじまる短くて長い物語。【一話(前・後編)完結形式/不定期更新】
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#80年代

1987:さよならのハニー&レモン[後編]

(連作短編「茶飲みともだち #07)    秋は文化祭の季節である。  さいはての小さなまちに暮らすしがない公立高校生にとって、文化祭は人生のすべてを賭けた一大イベントだ。普段は冴えないやつが突然ステージ上で輝きはじめ、全校生徒六百人の頂点に君臨することだって、けっして夢ではないはずだった。  ほんの、数週間前までは。 「お好み焼き、どーっすかー」  教室前の廊下をうろうろしながら、ジャージに花柄エプロン姿のマサがやる気のない声で呼び込みをする。僕も同じスタイルで、通り過ぎ

1987:さよならのハニー&レモン[中編]

([連作短編]茶飲みともだち:#06)    ノーザン・カウンシル。僕らのバンド名だ。  文化祭のバンドリストに登録し、放課後は毎日三宅家を訪れ、倉庫で練習をした。コピーする曲を何度も聴きなおし、修正するを繰り返す。マサは歌詞カードの英語にカタカナをふりながら、とにかく耳で覚えていった。キーボードと管楽器のメロディラインをカバーするのは無理があったものの、なんとなくかみあったり形になってくると、どうしようもなく胸がおどった。  たったの三曲。でも、偉大なる三曲だ。  そんな

1987:さよならのハニー&レモン[前編]

(連作短編「茶飲みともだち」#05)  秋は文化祭の季節である。  さいはての小さなまちに暮らすしがない公立高校生にとって、文化祭は人生のすべてを賭けた一大イベントだ。ずっと平凡に思われていた女子が眼鏡からコンタクトに変えて、おニャン子メンバーに引けを取らないかわいさであったことが知られ、男子の間で争奪戦が繰り広げられることはよくある話。だから、普段は冴えないやつが突然ステージ上でギターをかきならし、全校生徒六百人の頂点に君臨することだって、きっと絶対によくある話。けっして

1980:最強戦士の休息ココア[前編]

(連作短編「茶飲みともだち」#01)  市役所勤めの父とスーパーでパートをしている母、五歳年下の妹というごくごく平凡な団地住まいの我が家にとって、金髪の若いシングルマザーはかなりのインパクトがあった。 「隣に越してきた渋谷です。栄町の美容院で働いておりますので、お気軽にいらしてください。あと、よろしければこれ、どうぞ」  派手な風貌は美容師だからかと納得した僕の母は、都会でしか手に入らない箱菓子に気を良くし、「砂川です。こちらこそよろしくおねがいしますね」と、手放しで歓迎し

1980:最強戦士の休息ココア[後編]

(連作短編「茶飲みともだち」#02)  朝、なんとなく一緒に登校するようになった。  いつも渋谷トモミが早く、僕が遅く家をでていたのだが、どちらからともなく時間をずらすようになり、やがてお互いの距離が百メートルという僅差にまでなった。そうして、肌寒い日が増えてきたころ、とうとうお互いが並ぶ時間差になった。 「……うす」  無言もおかしいので、なんとなく挨拶をする。 「うす」  渋谷トモミはにこりともせず、ミントの香りを漂わせるガムを噛みながら言った。  へんなやつだ。辛くて

1984:海と花火と流星のシトロン[前編]

(連作短編「茶飲みともだち」#03)  人口約二万人。北国のさらに北のさいはてのまちにも、肌寒い夏が訪れた。 「明日から夏休みです」  杏色のジャージ姿で市立病院を訪れた僕は、ベッドに横たわっている人物に向かって、もらいたてほやほやの成績表を広げる。 「全科目、ほぼ三です」  小学生のころから通っている習字教室の村井先生は、顔をくしゃりとさせて笑った。 「とても立派です」  先生はすっかりおじいちゃんなのに、ずっと年下の僕にも常に丁寧な言葉で接してくれるのだ。 「ありがとう

1984:海と花火と流星のシトロン[後編]

(連作短編「茶飲みともだち」#04)  村井先生の家に来たのは、半年ぶりだ。  習字教室は二年前から閉められていたのだが、僕はときどき訪れていた。奥さんが出してくれる手づくりのお菓子と、ココアなんかの飲みものも目的ではあったけれど、先生と話すことが楽しかったからだ。  家族とも、学校の友達や先生とも違う。美しい字を書いて、質問すればなんでも答えてくれる先生は僕にとって、漫画や小説に登場する大魔法使いみたいな存在だった。  それになにより、数年来の茶飲みともだちでもある。