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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第11話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で、
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。
 

第11話「うららかな男」作.熊谷拓明

「すみません、ここがあなたの席だったの知らなくて」

「こちらこそギリギリにすみません。でも何度見回してもやはり18のBはここしかなくて」

「すみません、あれ…僕もやっぱり18のBなんですよね」

「ほんとですね。あなたのチケットにも18のBって…」

「どちらまで?」

「福岡です」

「僕もです。…そもそも他の便のチケットで飛行機乗れないですものね」

「ですね。これ同じ席が2枚販売されちゃったのかな」

「ありますかね。そんな事」

「ないとは言えないかも知れませんね」

「まぁ、確かに聞いた事があるような気がしますね」

「とにかくすみません、ここの席は、どうぞお座り下さい」

「いやいやいや、でもあなたのお席も18のBですから、
僕だけが18のBに座るのは申しわけない」

「いやいや、大丈夫です。どうぞ、ぜひ。
僕ちょっとどこか空席はないか聞いてきます。」

「あ、だったら僕が。」

羽田空港から福岡に向かう機体の中、二人の立ち往生を、はっきりと迷惑な表情を作る他の乗客たちが、手荷物と自分をなんとか縦1列に並べて通過したり、手荷物を天高く掲げて、二人の顔を交互に確認しながら通過してゆく。

「大丈夫です。僕が。」

そういうと男は、自分の18のBを右のパンツのポケットに押し込み、手荷物と自分をなんとか縦に並べて、乗客の波を逆らって進み始めた。
周りの目とは対象的に終始幸せそうな彼の目は、数メートル先の早朝のシニオンを目指している。

てきぱきと出発準備を整える彼女は、男の話に丁寧に耳を傾けると、もう一度チケットを確認させてくれと伝え、男の左のポケットから取り出した福岡行のチケットに目を落とす。

「6のD」

まさに男が彼女にチケットを見せるその体が、腰を降ろしたその先に−6のD−が男の着席を待っている。

1年前の今日。
男は福岡に越した幼馴染に会うために、初めて福岡に向かった。

札幌で22歳まで過ごした二人は、同じタイミングで上京した。

何をがあるわけではない、札幌ではだめだった事など何もなく、ただ、東京は別の場所だったのだ。 
「何をする」ではなく「東京に行く」が理由としえ通ってしまうのもまた、「東京」だった。

札幌にいる時とたいして変わりのない距離に住んだ二人だが、22歳という年齢と東京という錯覚が二人を遠ざけ、東京にごまんといるであろう北海道出身者の中の二人として埋もれていく。

そんな日々から必死で息継ぎをする水泳初心者のように、互いの誕生日になると辛うじて、新宿西口で待ち合わせ祝い合う数年を過ごしたが、それすら日々に埋もれていったのは27歳の夏だった。

それから2年もすると埋もれている先で、埋もれている事をわすれて過した先の32歳の夏。
新宿のモツ鍋屋の店長をまかされていた彼が福岡の本店勤務になる事をうけ、5年ぶりに新宿西口で待ち合せた夜。

校庭のジャングルジムの頂上から、誤って彼を突き落とす形になり、右腕を骨折させてもらった日、男は一晩中泣いたのは、もう彼と一生遊べないと思ったからだった。

ずっと、大人になっても、いつしか酒を飲み交わして互いの家族を褒めあって…
そんな大人になると疑わなかった彼と、今日を境に合えない絶望に小さな体で沈んだ夜。男はずっと、ずっと泣いたんだ。

福岡に行く朝、男はあのジャングルジム事件の日の自分自身をそっと連れて家をでる。

もう、泣かなくて大丈夫。

今年もあいつと酒を飲む。

乗客の迷惑な目にさらされながら、18のBに座る男に詫びに向かう男の目はもちろん、幸せそうに揺れていた。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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新作ダンス劇
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