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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第13話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第13話「ゆらやかな男」作.熊谷拓明

ずっとこうしていると、もしかすると自分も空になったような気がしてくる。

耳の後ろを少し固い芝が刺すのを少し前まで気にしていたが、今はその痛みも含めて耳の後ろであって、ふくらはぎを小さな石がじわじわと刺激していたが、その小さな石たちをふくめて、ふくらはぎなのだ。

目の奥に雲が垂れ下がってきて、脳みその右の方に届いた時、頭の先から10メートルほど先のコンビニで買った酒を飲んではしゃいでいる二人の男の声も、右足の先から3メートルほど先の風に吹かれるシャトルを追いかけて汗を書くバドミントン親子の声も、右脇腹から20メートルほど先の大きな通りを行き交う休日の車達の走行音も、全てが耳に届かなくなった。

別になんにもなかった。
いつもと変わらない、楽しすぎるわけでもないし、特に腹が立つ事があったわけでもない。
きっと有り余る時間を楽しむ余裕が、少しなくなっていたのだろう。朝起きて一度もテレビをつけず、冷蔵庫のジーまでもがうるさく聞こえ、顔を洗ってその水分で寝癖をなおすと、財布も持たずに家を出ていた。

通り過ぎる賑わいを、自分の呼吸音でかき消して、右足と左足から伝わる振動を脳内でBGMに変換しながら1時間弱歩いただろう。
公園に着いた時には、冷蔵庫のジーも、休日の平和テレビの事も恋しく思うほどに、なぜ歩いてここに来たのかもわからなくなっていた。
コンビニで酒を買って騒ぐ男達が羨ましかったが、もはや当時の心境が他人のような朝の自分が、財布を持他ずに家を出た。

そんな朝の自分と、今さら気まずい空気になっても仕方がないので、コンビニに背を向け、小高い丘に目を向けてみる。

急に後頭部にできた寝癖を、なおせていない事が気になって、ゆっくりと右手で撫でてみる。
少し爪を立てて髪を解くように動かすとなおるのか、朝の洗顔水分が残っているわけもなく、寝癖の上を右手が何度も往復するだけで、近強く寝癖はその場を動かない。

空が今日の気温の全てを、この体に押し付けるのが、急に窮屈に感じたので、その空から極力離れた結果、ここに仰向けになり、酒を飲む男達は3回コンビニに追加調達しに行って、バドミントン親子は実はリフティング親子の頃から知っている。

気温はまだまだ上がり続け、目を開けていると、脳みそが焼けてしまいそうで目を閉じる。
まぶたの裏からでも鮮明に青く、強く、ずっとそこに居る空に、全く勝ち目がない事はわかってたのに、穏やかな顔を広げながらも、さらにその力を見せつけられているようで、ついに僕は二足歩行の動物に戻る。

耳の後に刺さる芝も、ふくらはぎを刺激していた小さな石も、全てが一体になった気がしていたのに、離れてみると、やはり芝は芝、小さな石は小さな石、そして二足歩行の男は1人になった。

人間らしい動きが急に懐かしくなり、ポケットに両手を突っ込んでみると、右手にパスモが刺さって知らせてくれた。

触っただけでは残高はまではわからないので、少しドキドキしながらコンビニでレモンサワーを買うのとにトライする。全財産を注ぎ込んだレモンサワーを大切に口に運びながら、強く広がる空に追われるように家路につく。

後頭部の寝癖に芝が一本絡んでいて、きっとそれもしばらくは男の一部になる。

終わり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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