【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第27話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載！
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が６０分の１人小説ダンス劇として上演致します。

第27話「はつらつな男」作.熊谷拓明

右の人差し指を曲げてフックのような形にして、突き出た第2関節でエレベーターの上を何度も押した。

特に誰かに追われているわけでもないのに、なんとか今日は一人がいいのだ、誰なら良くて、誰なら嫌なわけではなく、今日は一人がいいのだ。

家に帰れば一人だ。なぜたった4階までのエレベーターも我慢が出来ないのか。
自分では何も不思議はない。
もう顔の筋肉が動かないのだ。
右の頬骨も左のそれも、ピクリともしないし、させたくない。
きっと無理やり歯を見せて笑う自分に嫌気がさすだろうし、
そしたら、その人の事も少し嫌いになるだろう。
名前はわからないが、一つ屋根の下の16部屋の誰かを少し嫌いでいる事は、きっとパソコンを見過ぎた目の奥みたいに、一人の時間をえぐって来るはずだ。
そしたら、もう、ここを出るしかない。
今日エレベーターで誰かと一緒になっただけで、自分の城を捨て、またあの敷金礼金をなんとかはらって、結局その先でまた一人でエレベーターに乗れるか、乗れないかを、ビクビクしながら過ごすのか。
いや、エレベーターなんかない所へ引っ越すべきなのか…

だいたいなぜ今日はこんなに顔の筋肉が動かないのか、
おそらく、右と左の頬骨を持ち上げて、歯を見せてニカニカする事なんて、誰も求めてはいないのだろうが、そうしているのはおそらく、右の人差し指の第2関節でエレベーターの上を、こんなにも連打している自分を隠す為なのだろう。

みんなのように笑えない自分を嫌いだった事はないが、一人部屋に篭もり思う自分なりの優しさと、この城の外で扱われている優しが、どうもしっくり合わないのだ。

きっと歩み寄り方すら間違っているのだろうが、そこを真剣に考えて歩み寄る労力も持ち合わせていなく、だからせめて、右と左の頬骨を持ち上げて歯を見せて生きている。

戦いというほど大げさなものではないが、しかし、それで自分を守っているという事は、やはりこれがちっぽけな戦いなのかもしれない。

そうだな、戦からやっと開放される時に、ダメ押しのように誰かと乗り合わせるエレベーターが怖くて仕方がないのだろう。

エレベーターがやっと開く、後ろからは誰も来ない。
右の人差し指の第2関節の健闘のかいがあった、つい動かないはずの顔の筋肉がゆるみ、そっと目をつぶった。

完全にエレベーターが開ききるのと、同じ速度で息を吐きながら目を開ける。

同じ回の、頭が２倍くらいに見えるパーマをかけた男が、ヨレヨレのショッキングピンクのTシャツに、グリーンのハーフパンツに、黄色いビーチサンダルで、顎をしゃくって「ども」と発した。

誰が乗っているパターンを全く考えていなかったせいか、
背中の筋肉が急に収縮して、２つの肩甲骨が１つになる勢いでつままれた。

男がいなくなったあと、へその下からこみ上げた物を口からだしてみると、それは不思議な爆笑であった。

おわり。

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう！

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

■新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

■オドクマストア
ダンス劇DVD『上を向いて逃げよう』
着る踊る「熊谷」Tシャツ/踊熊てぬぐい
等の公式グッズをオドクマストアにて好評発売中！
オドクマストア↓
https://odokuma.stores.jp/

■YouTubeチャンネル
踊る「熊谷拓明」カンパニー
▽ダンス劇作家のラジオ風味
「踊るように喋る男」
熊谷がラジオ風にお送りする約20分　※不定期更新
▽ショートショートダンス劇
熊谷の日常を切り取る1分７秒のダンス劇　※不定期更新

チャンネル登録↓
https://www.youtube.com/channel/UC1mT_KwLNpcWxJfsyQ1Abcg

■踊る「熊谷拓明」カンパニー公式LINEアカウント
最新情報やお得なクーポンが手に入る！
お友達追加↓
https://lin.ee/5uLnXnW