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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第32話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。

第32 話「なかなかな男」作.熊谷拓明

「別に好きでこうなったわけじゃないよ。
仕方がなくって事、何度かあるだろ?これくらい生きてると。」

「好きでもないのになんでそうなる?」

「だから仕方なくだろ」

「仕方なくそうなる理由がわからないな。」

「なんでもかんでも理由で片付く事じゃないだろ、人生って」

「そんな所で人生を語ってる場合かよ」

「焦っても仕方ないだろ」

「少しは焦ってくれ。なにをそんなに涼しい顔してんだよ」

「焦って叫んだらなんとかなるか?」

「こっちが安心するよ、そのほうが」

「なんでお前の安心の為に叫ばなきゃならない?」

「俺だけじゃないよ。周りのみんなが安心するだろって」

「なんでこんな状況で周りに気を使わなきゃいけないんだよ」

「ほら、自分でも動揺してんだろ?」

「してない」

「じゃ叫べよ」

「お前、バカだろ?」

「どっちがだよ」

「なんでここで叫ぶ必要がある?」

「恥ずかしいのか?」

「恥ずかしくないだろ今更」

「俺は恥ずかしいよ、ここにいるのが」

「じゃあ、先言ってろよ」

「どんくらい待つかわかんないだろよ」

「すぐに行くに決まってんだろ」

「なんでわかんだよ」

「こんなこと良くある事だろよ」

「俺はこんな光景良くは見ないね」

「聞いたことはあるだろよ」

「まさか自分の周りでこんなことが起こるとはね」

「俺は自分に起こってんだよ」

「だから恥ずかしいって言ってんだ」

「なんでお前が恥ずかしい必要があるよ」

「俺がここからいなくなったら、お前相当恥ずかしいぞ」

「そんな事ないよ、だから先に行ってろって」

「じゃその前にスマホで写真撮るわ」

「ばかやめろって」

「恥しくないんだろ?」

「誰に見せんだよ?」

「フェイスブックかな」

「ばかかって」

山手線渋谷駅に行き交う人々のそれぞれの、その顔のそれぞれの事情に気を向ける事はもちろん不可能であり、あの人数のそれぞれを、自分の人生に少しでも入れ込む優しさを持つ事はおそらくこの職場を離れる事を意味する。

職場を離れるだけではすまず、もう人の顔を見れないのかもしれない。

中学生から憧れた職業。とにかく電車が好きだった。
あの安定感のあるフォルムと景色によって表情を変える寛大さ。そんな頼りがいのある車体から顔を出し、私に手を振る車掌に憧れ、しかし綺麗な憧れが頭から残像だけ残して消えかけた23の夏、目的もなく上京して2年目の夏、品川駅で良い潰れ意識が朦朧とする中で、自動販売機でやっとポカリスエットを手に入れて、綺麗に並ぶ一人がけベンチを3つ占領して口に流し込んだ。
私を置いてきぼりにした山手線電車の後頭部を見て、とても泣いた、酒のせいか、東京のせいか、もちろん自分のせいで、涙がこみ上げた。

25歳で念願の山手線の車掌になり、あの品川駅を通るとあの日の自分を心配な目で探し、恵比寿駅では今までの人生で関わる事のなかった人々の顔を眺め、新宿駅では物悲しくはしゃぐ大人を感じ、渋谷駅では沢山の一人に胸を痛め、池袋では世代と時代が目の前を交差した。

東京は空腹を許さなかった、常に胸も腹も旨いも、不味いもなく、沢山人生を詰め込んでくる。
満腹に喜びを感じた20代が過ぎ、胸と腹に詰めるものを選びはじめた30代が終わり、詰め込まれる事に嫌気がさした43の朝。

電車とフォームの間に腰から下がはまった男を、携帯のカメラで撮影しながらはしゃぐ男。
彼らを自分に詰め込む必要はない。
ただ職務をはたそう。

そして、良い酒を少し飲む。

終わり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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■新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

■オドクマストア
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▽ダンス劇作家のラジオ風味
「踊るように喋る男」
熊谷がラジオ風にお送りする約20分 ※不定期更新
▽ショートショートダンス劇
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