【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第7話
ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で、
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。
第7話「したたかな男」作.熊谷拓明
午前9時20分。
珍しく朝7時前には起きたのに、未だにソファーの端に座りテレビのリモコンで右首をゴリゴリ掻いている。
日曜の朝だというのに、テンション高く働いているタレント達が、ラーメンをすすっては「うお!これはー!」とか、
ふてぶてしい程のハンバーガーに食らいつき、「肉汁がーー!」と叫んでいるテレビがついている。
相変わらず右首をゴリゴリやりながら、肉汁タレントの両手のひらを伝わって、きれいに切り揃えられた両手の小指爪から滴る肉汁を、肉汁を見るそれとは違うテンションで眺めていた。
30年程前は札幌でも立派な「つらら」が、どこの家の屋根からもぶら下がっていて、僕が住んでいた2階建てのアパートの屋根からも、小学生4年生の男の子がスコップを掲げれば届く高さまで伸びていた。
透明なつららが大好きだった僕は、寒さも忘れてその先からたれ落ちる水滴に嫉妬を覚えながら眺めていた。
その隣で5歳離れた妹が、「お兄ちゃん、あのつららとってー」と言うので、「え?つらら好きなの?」と聞くと、「うん」と答えるのだ。
つららが好きなのは、僕だけじゃない事に喜びをおぼえ、
なんだかつららを褒めたい気持ちになった。
そして、僕よりさらに低い所からしか、つららを見ることが出来ない妹の為にも、あのつららを先が折れないように、そしてなるべく高い位置から大切に収穫しようと考えた。
プラスチック製だとはいえ、大人用のスコップをなるべく長く持つのは、なかなかバランスが難しく、そーっとつららに触れなくてはいけないプレッシャーと相まって、なかなか収穫出来ない。
妹には落ちて来るつららを、なるべくソフトにキャッチするのように伝え、数回チャレンジした後、ようやくつららの理想的な高さの点に、僕の持つスコップが触った。
真っ直ぐに落ちるつららが地面で弾ける綺麗な音が、ゆっくり耳に届いた。
その瞬間、この世界にはつららの音しか存在しなく、アパートの屋根ごしに見えるどこまでも灰色な空より早くその音を受け取った僕は、誇らしげに妹を見下ろした。
眩しそうに灰色の空を見上げる妹のこめかみから、ひとしずくの血がゆっくりと落ちていた。
ごくごく小さな傷だったが、母親が仕事から帰るまでにその傷が塞がる事はなく、その日以来「つららの収穫」は禁止となった。
気付けばソファーの上は午前10時40分。
さすがに、Tシャツとトランクスではいられないので、厚手の灰色のスウェットを履いて、雑に顔を洗って歯を磨くと、昨夜から玄関に帰宅したままの、大げさなリュックサックのポケットから財布だけを取り出し外へ出た。
家から2分程で商店街の入口にさしかかる、一見いつもの日曜となんら変わりのない景色に見えるが、飲食店は何処も店先でテイクアウトメニューを広げて、呼び込みをしている。
朝のテレビの影響か、このところずっと店を締めていた行きつけのラーメン屋が気になり、さながら露店が並ぶお祭り会場の景色と化した商店街を奥へ進む。
自動ドアを開け放った和菓子屋や、昼間から外で弁当を売るチェーン店居酒屋のオレンジ色のハッピを羽織った店員を、横目で確認しながら、ラーメン屋の前に着く。
いつもカウンターの僕に気さくに話しかけてくれる威勢のいい彼は、閉じた店のシャッターの前で、いつもの威勢で大量のマスクを売っている。
おわり。
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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。
期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。
必ず劇場でお会いしましょう!
踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明
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新作ダンス劇
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