【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第18話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載！
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が６０分の１人小説ダンス劇として上演致します

第18話「しずかな男」作．熊谷拓明

西武新宿線、西武新宿駅で下車、先頭車両の先頭の降車ドアからいつものようにスマホをポケットにしまいながら、１番近くの自動販売機で、乳酸菌を増やすといわれている小さなヤツを買う。
それを胃に届け！とばかりの勢いで体に流し込むと、改札を出る前のゴミ箱に、スルッと投げ入れ改札を出る。

駅ビルの階段を降り、広場にいくつか設置された喫煙スペースには、愛煙者達が至福の時間を過ごしている。
朝の心地良い空気と、副流煙との両極の共演は、都会へ出陣する覚悟を決めるトンネルのようで、背筋をストンとさせられ、それが少し自分で毎回可笑しい。

大ガード下の住人達に、うつろな目で見送られながら通りに出ると、張り切った空が午前から気温を上げ、それを受け止めてアスファルトも負けじと唸り、それに挟まれると、つい先ほどストンとした背筋から、ジリジリ汗が流れ落ちて、あっという間に戦意を奪われるのだ。

新宿小田急に向う人の波に、なかば強制的に放り込まれ、せめて汗だくの背中面で人にぶつからないように、神経を集中させる。
右肩を前に突き出しするりと人を交わして、すぐに背後に意識を向けるが、しかしすぐに前からやって来る。
今度は左肩を前に突き出しするりと抜け、また背後が気になる、また前から人が押し寄せ、危機一髪でするりと抜け出すと、さながらジーンケリーのようなターンを決めてしまい、「ふぉっ」が口から飛び出る。

人が初めて踊りを踊った日の事はわからないが、今日は僕が初めて踊った日だ。

小学校の体育館の時間に朝顔になったり、風になったりする授業は踊りだったのか？
とにかく、誰かから強制されるわけでもなく、踊ったのはやはり今日が初めてだ。

スニーカーの靴紐が解けている。

さっきの人生初のターンで自分で踏んだのだろう。
少し体温が上がったのか、頬が熱くなりながら、まだまだお押し寄せる人の波から、通りの脇に、今度は踊ってしまわぬよう、そっとそっと避難した。

地下歩道への下り口を覆っている屋根が、突然地面から湧き出た麓に座って靴紐を結ぶと、急に人間らしい疲れが出たようで、汗がオデコの生え際から吹き出た、Ｔシャツの右袖を左手で引き寄せて汗を拭った時、驚くほど優しい目が見えた。

暑さを口から垂れ下がる舌から懸命に逃し、それが笑っているという人間の勝手な解釈にも、腹を立てることなく、全てを受け入れるその目に受け入れられたい気持ちになった。

里親を探す活動への支援金を集めている、と同じフレーズを誰とも目を合わせる事なく連呼する女性の隣で、彼は全てを受け入れていた。

どうしたら幸せになるのか？すでに幸せのなのか？
自分を幸せにするのも難しい我々が、彼を幸せに出来るのか…
幸せにする。。。
なんだか図々しく感じて、少しへらへらしながら、屋根麓から立ち上がると、やはりいつもと変わらぬ景色が広がった。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう！

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表

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