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月刊読み聞かせ熊谷「やたらと吠える縞馬」#15


■朗読ラジオ劇脚本無料公開

「やたらと吠える縞馬」作/熊谷拓明

「ちょとまてよー…
あんなに確かめたアボカド戻すのかよ、結構親指めり込ませてたよね?
ってことはなんなの?硬いのがよかったの?でも親指の圧力が凄かっただけかもしれないし、あの調子じゃメロンまでつぶせるぜあれ。

どんな風にしつけられてあーなったんだろ…育てられた時はアボカドに親指突っ込む子供じゃなかったんかなー…
とにかく僕はあんなことはせずに、今日まさに食べ頃なアボカドを選ぶんだ。

うぁ…
想像以上に多くのアボカドに親指を突っ込んだ様子だ…
僕に残された選択肢がこんなにも限られてるとは…

わ…どれも今日じゃない気がするなー
でもあの親指が数ミリ入ったアボカドを食べるわけにはいかない。
くそっ
こんなにアボカドって言ってたら、アボカドのかアボガドなのかわからなくなって来た。
さぁ、アボガド!
いや、アボカドよ!
どれだ?どれが今朝買ったアラスカサーモンと、2日前から冷蔵庫にいるモッツァレラチーズと今夜共演するアボカドなんだ!

ぐぅーーー。
おまえだ!」

近所のスーパーでアボカド選びに白熱した、島袋遼馬が有料レジ袋に大切そうにアボカド一つを忍ばせ、隣のパチンコ屋のあたりにさしかかったとき。ここ数年すっかりお馴染みとなった突然の雨、
スコールが島袋遼馬と有料レジ袋に忍んだアボカドを襲った。
慌てた島袋遼馬はパチンコ屋の駐輪場のひさしに身を滑らせる。

「まじかー、降るんだ今日。
ベランダの洗濯ものも終わりましたね…
どうにかなってんのかな地球が…
アボカドに指を突っ込むおばちゃん。
突然降り出す雨。」

♪始まりはいつも雨を口ずさむ。


雨宿りする島袋遼馬が、もうわからなくなり、はじまりはいつも雨を口ずさんだ時、パチンコ屋の隣にある八百屋の若大将が、雨の中の島袋遼馬に見向くこともせず、りんごの入ったダンボールを二箱抱えて、なるべくりんごに雨がかからないよう、体をかがめて走って行った。

2つ積み重なったダンボールの一段目のフタが、雨でヘタっていたのであろうか、1つのりんごを雨が降りしきるアスファルトへ吐き出した。

びしゃびしゃ音を立てて転がるりんごに気が付く事なく、若大将は店にシュルっと消えていった。

鼻歌が少し残る顔で転がるりんごに目をやった島袋遼馬は、雨のアスファルトへ飛び出しりんごを拾うと、隣の八百屋へ走り出す。

「おにーさん!
おにーさん!
りんご!りんご!」

りんごを右手に掲げて雨に打たれる島袋遼馬を八百屋の若大将は驚いた様子でむかえると、りんごを大切そうに受け取り、店に並ぶきれいなりんごと1個と、プラスチックケースに仲よく詰められたさくらんぼを一箱、しきりにそんなつもりではないと恐縮する島袋遼馬に渡して礼をした。


♪りんごの花びらがー(鼻歌)

「アボカドは今日は無理だ。
あんなに頑なにタネかかえちゃってんだから、どんなに薄く切ってもシャッキシャキだろな…
アラスカサーモンはきっとこのアボカドを待ち切れないだろうし、僕だって今日はアラスカサーモンとモッツァレラチーズとアボカドの気持ちだけど、明日はどうだ…

りんごとさくらんぼ…
ありがとう。
優しい若大将。

僕はりんごとさくらんぼが食べられないんだ。
どんなに、それが優しさだとしても、これを食べると僕の喉は腫れ上がり、もしかしたら呼気が出来なくなるかもしれないんだ。
こんなアレルギー持ちの僕にりんごとさくらんぼを渡すのは、もう暴力ですよ…

シャッキシャキのアボカドと、
雨と、りんごとさくらんぼ。

いっつもだ。

求めるものにはもとめられなくて、
求めないものがコロコロ転がってくる。

これを喜べば幸せになる?

だって、喉が腫れるんだよ。

それでも喜ぶのかい?

どうなんだ。

それでもわがまま言わずに喜べってのは、それは、それも暴力だよ。

暴力ってのはどこにでも転がってるなぁ…

あ、あのアボカドを半分に切ったまま冷蔵庫に放置しとくのも暴力なんかな…

あれ、どしよ。
人にされたら嫌なことは。人にしないのが世の中の鉄則…」

そう言うと急いで冷蔵庫からアボカドを取り出し、フォークで丁寧に種を砕き皮を剥いた。薄く、薄くアボカドをスライスして、それでもまだ固いのでオリーブオイルでアボカドを炒めて塩を振った。

焦げ目の少し付いたスライスアボカドの上に、アラスカサーモンとモッツァレラチーズをめんつゆで和えたものが乗る。
島袋遼馬オリジナル料理、焦がしアボカドに海と草原を乗せて。が完成した。

すっかり雨も上がり、
綺麗に光る町を窓から眺め、オリジナル料理を頬張る島袋遼馬は今日一番の穏やかな表情をしている。

おわり。


「やたらと吠える縞馬」朗読/熊谷拓明↓↓↓

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