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【コラム】ダンス劇の踊りと言葉の関係

僕のダンス劇の始まりは7年前。

31才でシルク・ドゥ・ソレイユの『Believe』というショーに出演する為に28才から住んでいたラスベガスから帰国して1年が過ぎた頃だった。

大きな規模の舞台に立ち続けたせいか、体温が伝わる距離でパフォーマンスする事が恋しくなり、渋谷でダンスの講師をさせてもらっているスタジオを半日使わせて頂いて、20人ほどのお客様の前でソロパフォーマンスをさせて頂ける事になった。
1人で何をしようか...という時に、なんの迷いもなく台詞を喋りながら踊る事を始めた。

ダンス劇とは踊って台詞を喋ってたまに歌まで歌って...それはミュージカルではないのか?

「ダンス劇とミュージカルの違いは1つの感情を深く伝えるか、事が起こっている状況を広い範囲で見せるかだと思っている。」

例えばミュージカルでは登場人物が哀しみにくれる時、悲劇を嘆く台詞を喋り、さらに切ないイントロが流れ悲劇の台詞が歌になり、その歌にのせ周りのダンサーが踊りだすことで、主人公の悲劇や孤独を視覚的、聴覚的、感情的にうったえてきて我々はその世界にどっぷりと浸る事が出来る。

ではダンス劇では登場人物の哀しみにはどのように観客に伝えているのか?

1人の男が哀しんでいる。しかし男の悲劇など何も関係なく流れていく時間があり他人は彼の哀しみなど気付く事なく違う時間を過ごしている、その中で嘆く男の悲劇を見ている観客は彼に感情移入する事もあれば、無関係に流れる時間に身を任せる事もある。つまり感情ではなく情景を描いているのである。

7年前の1人のダンス劇から現在まで、台詞の量やダンスの量 は変化してきているが、お客様に情景を感じてもらいたいというスタンスは変わっていない。

ここからがダンス劇の踊りと言葉の関係のお話です。

『なんでこんな時代に生まれてしまったんだ...ふ。
どうせこの僕だ、100年前に生まれていても100年後に生まれて来てもきっと同じ台詞を言うんだ...
なんでこんな時代に生まれてしまったんだ。』というなんとも救いようのない台詞があるとする。

しかしこの台詞を吐きながら踊る踊りを振付するときは、
発生源こそはこの台詞にあるのだが、その中で床にうつ伏せになる振付が出てきたとする。
そしたら床が意外と臭かったとする、臭いのは嫌なのでなんとか床から立ち上がる、立ち上がる時に見えた天井のシミに目が向き、しばらく見ているとそれが魚に見えてきて腹が減ったなぁーと思う、減った腹をさすってみるとなんだか少し脂肪が増えたなと感じて、魚が住む天井から目をそむけ空腹を忘れようとするが、ますます空腹でクラクラする...

こんな事を思いながら、伝えながら振付をするんです。

そうして出来た振付と台詞を同時にスタートさせてみたり、しばらく話してから踊り出したり、その逆があったり...

1人の男の身体と言葉が程よく矛盾することで、
先にのべたような周りとの無関係な時間や、彼に興味を持たない世間の様子などが見えてくるバランスをその都度見極めて本番に向かうのです。

目の前で泣いてる男がいて、そいつを慰めようと言葉を探していると、窓の外は天気が良くて、付き合いたてのカップルが仲良く手をつないで通りすぎ、その後ろをパチンコで5万円負けた男がどうやって家賃払おうか悩みながら歩いて、その男とすれ違った女は鞄に離婚届を潜ませ区役所に向かっているかもしれない。でもその日はとても気持ちのいい天気の1日なんです。

そんな程度の希望が見える作品を実現させられる可能性が
ダンス劇にはあると思うわけです。


ダンス劇作家
熊谷拓明

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ダンス劇作家『熊谷拓明』
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