【コラム】劇場とアンケート
7年前ダンス劇を上演し始めた頃。
それまでの自分の観劇経験からなんの疑いもなく、アンケート用紙を作り、お客様が書いて下さったアンケートを毎公演後に全て目を通しておりました。
熱いメッセージを頂けば嬉しいし、酷評されてももちろん勉強になる。
中には「本番前の楽屋がうるさすぎる」や「受付の方の誘導が下手すぎる」等の作品以前のご意見も頂き、お恥ずかしい気持ちになることもありました。
楽屋がうるさい事や受付のスタッフの事に関しては、お客様が劇場に入った瞬間から僕たちの作品が始まっているのだという、今思うと当たり前な事を理解していく事で改善して行く事が出来た。
作品に関してのご意見も、嬉しい事も、厳しい事も同じだけ気になって、作品のバランスを考えた事もある。
作品の性質上、踊り、言葉のバランスはその都度違うし、お客様が心地よく感じるバランスも人れぞれである。
いつしか何処かに向かって、誰かに向けて作品を作りつつある自分に気が付ついた。
僕の場合は何処へ向けて、誰かへ向けて作品を作るという目的で始めたわけではなく、己が面白いと思う物を作る事が最初の目的であったため。
3年ほど前にアンケート用紙をお客様に配るのをやめた。
個人的には、客席のお客様の温度とより濃く対話して舞台に上がるようになった気がする。
独りよがりはよくない事ですが、作品を作ることはやはり独りよがりな事であり。
お客様の意見が気になるからではなく、好きな事くらいしっかり突き詰めたらいいじゃないかと自分に活を入れ進めばよい。
上演する側も色々な想いや、考えの上で作品を作っているのでアンケートが大切なツールになる現場ももちろん沢山あるが、次回公演の告知をするためメールアドレス等を知りたいだけのアンケートであったとしたらあまり僕は好きでない。
僕たちは接客業をしているわけではない、大切なのは嫌われる事にも、好きになってもらう事にも責任をもち活動を続ける事なんだと思う。
そして僕の作品を観て何を感じて下さったならばそれを劇場に置いて行くのではなく、劇場の外に連れ出して頂きたい。
劇場に入った瞬間から作品が始まり、劇場を出ても終わらない作品になりたい。
ダンス劇作家
熊谷拓明