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【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第16話

ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで     ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します

第16話「窮屈な男」作.熊谷拓明

まだ人通りがまばらな平日の午前9時過ぎ。

空の色を透さないトタン屋根で覆われたアーケド内は、ここ数年で立ち並ぶ店の顔ぶれはガラリと入れ替わり、八百屋は古着屋、眼鏡屋は雑貨屋、食堂は小洒落たバー、喫茶店はフィギュア専門店。
訪れる人の類いも変わり、昭和の器の中で平成が終わりを迎え、令和がごろつき初め、昔ならば朝から何処の店もシャッターを開け賑わったが、住民が変われば時間も変わり、昼過ぎまではどの店も昨夜のガヤガヤをシャッター裏に封じ込めているせいで、アーケド全体が息を吐き出す前の静けさに覆われている。

そんな中まだ引き継ぎ先の決まらない、アーケドの入口から差し入る日差しがかろうじて届く10平米ほどの、ガラリとした空きスペースに男が1人、どこから引きずり出したのか、パイプ椅子に座りタバコをふかしては、足元のブラックの缶コーヒーのフチにサラサラ灰を落てして、肩を落して。

男の煙流れた方から、色気のない前掛けで、両手をがしがし拭いながら、一人の女が煙の主につとめて明るく詰め寄った。

「ちょっと!またいないと思ったら、やっぱりここだよ。
朝から何本吸ってんの?」

「……」

「はははは、何だよ、その顔は。
吸うのが駄目だって言ってないんだよ。
どうせ吸うなら、もっと楽しそうに吸いなさいって言ってんのよ。」

「7本。」

「あら、そらぁ、吸いすぎよあなんた。
何時からいるのよ、ここに。」

「……」

「いいんだよ、あんたの時間だから、あんたが好きに使ったらいいよ。これは、会話ってもんだろ? 「何時からいるの?」「8時だよ」って、これでいいじゃない。それくらいもないとあんた全く会話のない夫婦になっちゃうよ!」

「6時半だよ。」

「はや!あらやだ、あんたそんな時間からいなかった?」

「……」

「そんな悲しい顔しないでよ、そんなに静かなんだから、しかたないわよ。朝から今日午後から雨だっていうから、洗濯急いで、洗い物して、朝ごはんつくってさ、味噌汁の出汁とって、ウインナー焼いた時に、気付いたんだよあんたがいないって。」

「……」

「手が離せないから、洗濯物ちょっと干してって、呼んだらあんたいないんだもん、しばらく独り言よ私の。
今もほとんど独り言だけど。」

「洗濯物干すくらいしか、今の俺にはないからな。出来る事が。」

「何言ってんだよ!いいんだよ。あんなにしっかり働いたんだよ。
ちょっとくらい休んだってバチなんて当たんないよ!」

「家にいなくても、2時間半も、嫁に気付かれない俺だ。
ここの連中も俺の店が閉まったことも誰もきがつかねぇーさな。」

「あんた、最後の日にあんな沢山お客様来てくれたじゃない。忘れたの?」

「最後だけ来やがって。だったらずっと、毎日来いっつんだよ。」

「あらあら、言葉使いが高校生だよ。
みんないっつも来てくれてたじゃない。あんただって、ハンバーグやら、生姜焼きやら、焼き肉やら食べる日あるじゃないのさ。」

「……」

「魚屋のあんただってハンバーグ食べるんだから、みんな毎日毎日魚屋来ないの当たり前じゃないの!
それでもみなさん、来てくれてたよ。話しかけに来てくれたじゃないの。」

「話すだけじゃ食ってけないだろ、芸人でもあるまいし。
だいたい、新鮮な魚の前でべらべらべらべら喋られると鮮度度が落ちるんだよ。」

「なに言ってんだよ!死んだ魚みたいな目してさ!」

「死んだ魚をバカにすんなっていってるだろ。」 

「例えじゃないか。」

「命をくださってんだよ。命になってんだよ。」

「だったら、あんたの命は誰の為よ。ん?
死んだ魚をバカにはしてないよ。
死んだような旦那もバカにはしてないよ。」

「魚と俺は違うんだ。死んでも誰の為にもならん。
生きても誰の為にもならんくなった。」

「だからってあんた、そんなにパカパカタバコ吸ったて今日明日死ぬわけじゃないんだから。
だったら楽しく生きなさいな。」

「……」

「ほら、そんなにタバコ吸ってるから血の巡りが悪くなっちゃって、指が鯖みたい色になってるよ。」

「鯖はこんなにきたねー色してないだろ!海の色なんだよあれは。キラキラしてんだろ。」

「なんだろーと威勢がいいのは良い事だよ。ほら。いい顔してるよあんた。」

「バカにするな、フグみたいな顔しやがって。」

「あら!なかなか手が出せないってことね。」

「……」

「ほら、いつまでもこんな何処で地獄の見張り番みたいな顔してたら、お向いの雑貨屋さんの営業妨害になるわよ。」

「見張ってんだよ。ここは俺の店だから。」

「呆れたよ。魚もないのに、鮮度の悪いおっさんが、プカプカプカプカ煙の吐いて、何が俺の店だよ!ほら、しゃんとしてさ。魚達も聞いて呆れるよ!」

「なぁ。」

「ん?」

「こんなおっさんのどこが良いんだ?」

「はははは、良いとこなんて一つともないわよ。」

「じゃあ、何してんだお前。」

「何してんだろねぇー。自分でもわかんないから人間ってのはさ。」

「魚は俺の事好きだったんかな。」

「ここにいた魚はみんなあんたのことが好きだったよ。」

「……」

「大丈夫。今はゆっくりなさいな。」

「お前はいっつも元気だな。」

「元気じゃない理由なんてないじゃないのさ。」

「いつからそんなたくましくなったんだろな。」

「ははは、女ってのはたくましい生きもんなんだよ。」

「そうか。」

「そうだよ。」

「鮮度は落ちたな。」

「それは仕方がないわよ。子供の頃から足が早かったから。」

入口からの日の入りが浅くなった、アーケド。
遅れて令和元年を迎えた男が、煙を吐いた。

おわり。

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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。

期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。

必ず劇場でお会いしましょう!

踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明

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