【コラム】声帯から始まる『踊る』
□声に嘘のない人の踊りを好む
昨年とあるインタビューを受けた時に、自分の作品にキャスティングする演者の基準を聞かれ、僕はすぐに「声に嘘のない人を選んでいる」と答えた事がある。
40才にもなると、だんだん年下の方が周りに増えてくる。気を使われる事が増えてくる。しかし明らかに普段の1オクターブ上の声を出したような声で挨拶されると、なんだか悲しい気持ちになる。
会った瞬間から嘘をつかれている感覚に陥り、いやいや僕なんかあなたにそんな声で話しかけてもらうような人間じゃないんで...と妙に申し訳ない気持ちにすらなって、そこからのコミュニケーションが取りにくくなってしまう。
このタイプの方に僕から話しかけようものなら、驚くようなボリュームで返事をされて、それに少し驚いた周囲の方々に僕が詫びたいくらいの状況になるのだ。
「僕は君が僕に話しかけられる前に、隣のお友達に今日ここに来る途中の間でムカついた話をしていた時のその声の方が好きなんだ!」と思うのだが、なかなかその声で話しかけてもらえない。そんな中で言葉使いは区別していても、トーンがずっと変わらない人に出会うと、男性も女性も無条件にその人の踊りが見てみたくなる。
声が高くなくとも、やはり自分を偽っている声というのは耳なじみがあまり良くなく、心地の良い声で心地の良い動きをしてもらえるようになるまでに導けるのか...
が億劫になってしまうのだ。
女性の場合はノーメイクがとにかく好きで、ノーメイクで現れてくれるその心意気に感謝であり、その心意気で作品に出てくれるならとても安心して振付、演出が出来る。
きっと僕は沢山嘘をついて演出するが、演者には極力嘘をついてほしくない!というわがままな自分に自分に許可をだしながら、嘘のない声を探している。
□声帯から動きを見つける
「声」は外に何かを伝える目的で使われる場合が多いが、声を出すときに動いた「声帯」から他の筋肉に動きを伝達させて体を動かす役割も果たす。
「歌うように踊る」なんて指示があるとする、それに対して歌うように踊れるようにリハーサルをするのではいつまでたってもが「歌うように踊ろうと頑張った踊り」にしかならない。本当に歌ってみてどんな筋肉が動くから気持ちがいいのか、気持ちよくないなら、どんな音でどんな言葉を歌うのが自分の体が心地よいのかを探す作業こそが「歌うように踊る」という指示に対するリハーサルのやり方だと思う。
(※歌うように踊って!という指示を出すときは大抵気持ちよく踊って欲しい時だ)
「あーーなんて日なんだ。。」と何度も声に出してみると、
この台詞の動きとして頭を抱える事が、どれだけ不自然なのかがわかる。
「あーーー」は空を見上げた方がよほど発声しやすく、頭を抱えて顎を下げると音に濁点がつく。
空を見上げて今日を嘆きながら踊る。なんて悲劇的で美しい体のラインなんだろう...しかも口を大きくあけてヨダレでも垂れてきたら完璧である。
そしてこの台詞に対する自分の本当の体の動きがつかめたら、もう声を出さなくとも誰がなんと言おうとそれが自分の「あーーなんて日なんだダンス」になる。
□体の動きが声を発する
お手洗いで踏ん張る時に「ファーーー」では役に立たない。
声が先か、体が先か、声帯から他の体の動きを誘導する場合もあればその逆ももちろんあるわけで、窮屈な体の形から発する言葉はやはり窮屈な音や言葉が出る事になる。
ぎゅうぎゅうに体を捻られたらやはり、「ぐぅ..くそっ...誰なんだ俺にこんなことを...」と言いたくなる。
体が本当に仕事をしている時は、本当の台詞しか出ないのである、トイレの個室にこもって「ふぁーーーー」と叫んでもたいした良い成果はあがらない。
しかしこれらを矛盾させることで、人生って一筋縄ではいかないわね!
というシーンにする事も出来る。
後頭部を押さえられ顔を地面に押し付けられているのに、なんとか「あーーー気持ちいいーなー」と叫べるだけの気道を確保しようとするととてもスリリングなバトルのシーンの出来上がりだ。そして、やはり「あーーー気持ちいいーなー」
を言わずに演じると、オーディエンスがそれぞれの想像で感情移入する印象的な場面となる。
□最後は自由にやるのがよい
沢山考えて、感じて、自分の体に聞いてみて。
自分の本当が見えてきたら全部を忘れてみる。
ここまで色々書いてきたが、最後は何も考えずに動く動きこそが、強く何かを訴える力のあるものになるのだと思う。
考え、感じた事は必ず自分の筋肉に蓄積して、全て忘れようとしても滲み出るものになっている。
この先の人生経験でまさかあんな時にこんな声がでちゃうなんて!という新しい経験を積み重なると、自分の本当が変化していき、昔の本当の体と今の本当の体とが入れ替わる時期が来るのだと思う。
生きている限り、本当を見つける作業が出来るかと思うと
「なんて幸せなんだ!」さてこの台詞は本当の声で言ったのか...
ダンス劇作家
熊谷拓明
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