【コラム】隠さない経験、ふりかざさない経験。
高校を卒業するタイミングで、この先どうダンスと関わるかをしっかりと悩んだ時期があった。
先輩や先生の沢山のアドレスが体に引っかかってはすり抜け、染みわたり。それらの破片を拾い集めて沢山のヒントを頂きました。
進学をせずダンスを選びたかった僕はこの時期、色々な方にここからの自分の可能性や選択肢についてお話しを聞かせて頂く事が出来た。
札幌でまだ3年しかダンスを習っていない僕に、周りの大人たちは実に親身に沢山のお話しをしてくれた。
東京にまずは出てみたらいい。とか、海外に行ったらいいんじゃないか。とか、まだ3年もう少し何かと安心な地元でバイトをして学び続けるべき。とか。
幸運にも皆さんが共通でかけてくれた言葉は「最後は自分で決めなさい」だった。
本当にその通りだ。最後は自分で決めるのだ、そしてこの年齢の「最後」は往々にして最後ではない。
結局の所札幌の師匠がうちのスタジオでインストラクターになるかい?
と、とんでもなくありがたいお誘いを頂き僕は18歳の誕生日に初めてレッスンをさせて頂く事になる。
目の前にやるべき事を置いてもらおたおかげで、僕はしばらくの間札幌のスタジオでレッスンをして、イベントや発表会で振付をさせてもらったり、出演をしたり。
所謂ダンスに関わってお金を頂く生活をスタートさせたのだった。
周りの方に力を貸して頂いた決断は、またちゃんと悩み、決断しなくてはいけない時期をプレゼントしてくれた。
21才の時に札幌にいながら東京の現場でダンスをさせてもらえる機会ができ、僕は半年ほど札幌と東京を行き来する生活をしたことがある。
東京で踊るとそこには東京で踊っている人々がいて、その環境から今まで出会ったことのない価値観に出会い、僕はいちいち影響を受けていた。
そんな生活を終え札幌での生活に戻った僕を待っていたのは、自分の中で消化しきれていない東京で感じたダンスで仕事をするという事への新たな憧れや焦りだった。
大いに焦りとにかく東京に行かなくてはいけない。
そう思い続ける日々がやってきたのだ、目の前の事に集中が出来ない状態では物事がうまく回るはずもなく、それらを環境のせいにしてしまう「他力本願」の精神に支配されていた時期である。
結局のところその後東京に移動して活動するのだが、
ここらも長く長く焦りや、嫉妬に支配される日々が続くのである。
今になって当時を見返すと、何処で踊ったところであの熊谷少年にはなんの魅力もなく、空を見上げてはあそこまで飛びたいと戯言を口に出し、何もせずに寝て暮らすような男が髪を金髪にしてプライドだけは高く、技術は低く。
東京で踊ろうと、アメリカで踊ろうと、とにかく不満な目をいつもしていた僕にラッキーが寄り付くほど世の中は甘くないという事が、長いやさくれ時期に学んだ一番大きな事であるのは確かである。
僕の経験はあくまで僕の物、それをふりかざさず必要もなければ、何かを志す若い世代の人達を僕の言葉で傷付ける権利などあるはずがない。
長く続けていると、自然とその現場での最年長になる事も出て来て、こんな僕にでも意見や助言を求めてくれる後輩世代の方々も出てくるのだ。
彼ら彼女らはいつだって、その時点での最大の受け皿で精一杯悩み、そして進もうとしている。
僕からするとそれだけでもう良いのだ、おじさんは胸が熱くなるんです。
そこでさらに助言を求められても、その姿にすでに尊敬すら感じる僕が言える事は何もないのが実際の所である。
しかし、何もないよ。というのもそれも真実ではないような気がしていつもとても悩むのだが、普段自分の事であまり悩まなくなった自分には、そんな時くらいちゃんと悩むチャンスを与えられたのだと感謝して取り組むようにしている。
どう踊っていったらいいのか、どう変わっていけばよいのか、どう変わらずにいるべきか、何をやるべきか、それぞれの不安をしっかりとなげかけてくれた時僕が言えるのは、
僕もしっかりと不安である事、そして今までの経験から不安や悩みがなくなる人生はない事、そして何をどうやっても正解である事をゆっくりと伝えるようにしている。
「悩み」や「不安」という言葉から連想する色や匂いを今までと違うものにしようとする努力や発想を持てたら、こんなにワクワクすることはない。
次がわからないから「不安」でワクワクするのだ。
僕はこんな経験をしたから偉いとも思わないし、経験上で誰かにものを言う事もない。
今その状況が正しいのだと伝える事が大切であって、否定や矯正をして自分の過去に当てはめるより、誰かの不安に一緒にワクワク出来る大人でありたい。
決断は大きくても小さくても日々迫られ、僕らは選び生きている。その連続の一つ一つはとても大切な尊いものだが、一つ一つには罪もなければ間違いはないように思う。
大切なのはどんな道を歩くかではなく、どんな顔で歩くか。
明日も出かけに顔をチェックをして家を出ようと思う。
ダンス劇作家
熊谷拓明
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