【みんなで選ぶ一人小説ダンス劇】毎日連載「〇〇な男」第31話
ダンス劇作家「熊谷拓明」が、この度の緊急事態宣言が解除されるまで ダンス劇小説を毎日連載!
もっともいいねを集めた作品を、収束後どこかの会場で
熊谷が60分の1人小説ダンス劇として上演致します。
第31話「たからかな男」作.熊谷拓明
右の太ももが熱くなってきた。
いつもは左ふくらはぎから熱くなってくるのだが、今日はバランスがいつもと違うらしい。
少し昨日の夜から、腰がだるく、あまりだるい腰を使わないようにしているので、利き足でペダルを強く踏み込むことで自転車を前に進める意識が強くなっているのだろう。
梅雨が例年より気配をけしながら、確実に近付いて来ている朝は、両耳を耳の形状をなぞって吹き抜ける風が、この所の夏日で油断していた身体を冬に引き戻すような厳しさを帯びている。
いつものコースをいつものようにが目的であり、理想なのだが、急な水道管工事に遮られ、左折を余儀なくされたあたりから、自転車を漕ぐのがただの運動になってしまい、より風の冷たさを感じているのだろうか?
いつもと違う路地に現れた小さなコインパーキングに隣接さられた自動販売機の、温かいお茶が目に止まり、どうせもうただの運動になってしまった、今朝のサイクリング。家に帰るより先にこいつを飲んでやろうと、2台並んだ自動販売機のまだ温かいお茶が整備されていない方の前に自転車を置き、目的の温かいお茶のある自動販売機の前に立った。
いざ温かいお茶を目の当たりにすると、温かい缶コーヒーが私を誘った。
悪くはない、しかし今日は近所のコーヒー屋にコーヒーを飲みに行く日だ。ここで130円払ってこいつを飲む訳にはいかない。
しかし一度誘われた気がした、こいつからなかなか目を離せなくなっていると。
隣に置いた自転車から声がした。
「お兄さん、申し訳ないね。ちょいとこの子をどいてくんないかね。」
自転車のサドルとペダルの間の20センチ程の辺に囲われた三角の隙間に上半身を突っ込んだ、おそらく60代くらいの男性が、綺麗に揃った白髪の後頭部から私に話しかけていた。
男性の手にはすでに冷たいペットボトルのお茶が握りしめられていた。
どうやら冷たいお茶を選んだ時は自転車が停まっている事に気が付かず、受け渡し口に出てきたペットボトルのお茶を取る時に奇跡的に自転車の三角に無意識に上半身を突っ込み、お茶を受け取り立ち上がる時に、初めて自分の状況に気が付いたようだ。
私は不謹慎にも緩む頬をなんとか隠し、
「申し訳ありません!大丈夫ですか?」
とたずねる。大丈夫ではない。
「私の方こそ申し訳ない。お兄さんのこの子が見えなくてね。」
「いえいえ、私がこんな所に自転車を置くのが悪いんです。今すぐよけます。」
「すまんね。」
「自転車を押さえてるので、ゆっくり戻れますか?」
「……」
「すみません1度お茶預かりましょうか?」
「いや、大丈夫じゃ。」
「あたま気を付けて下さいね。
あの1度受け取り口から手を離せますか?
あ。。。そちらから抜けますか?
じゃ、私は自転車をゆっくり引き抜きますね。」
「そうしてくれるかね?」
「はい!
ちょっと腰が引っかかるかもしれません。
大丈夫ですか?」
「若いときから体型はかわっとらんから、おそらく。」
「わかりました。
お!ほんとだ大丈夫ですね。」
「……」
「どちらの足から抜きますか?
左ですね。ちょっとこちらからも足押しますね?
すね打たないように気を付けて下さい。
凄い。じゃ最後まで右足も押します。」
「いやーー。お手数おかけしました。朝からいい運動だった。」
「本当に申し訳ありませんでした。」
「いやいや、私の不注意です。」
「申し訳ありません。お体大丈夫でしょうか?」
「問題ないよ。無事お茶も手に入れて。良い朝です。」
男性の濃い紺色のスラックスは、私の自転車のチェーンの油でかなり黒ずんでいる。
クリーニング代を彼は受け取るだろうか。
もちろん、クリーニング代など惜しくないほどの、なんだかいい朝である。
おわり。
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最後までお付き合い頂きありがとうございます。
もし、この話がダンス劇になったら、どんな動きでどんな声なんだろう。。。
僕も今はわかりません、皆さまが選ぶダンス劇。
一緒にワクワクを感じて頂けたら幸いです。
期間中、サポートボックスよりサポート頂けたみなさまのお気持ちは、選ばれた作品をダンス劇として上演する準備資金として使わせて頂きます。
必ず劇場でお会いしましょう!
踊る「熊谷拓明」カンパニー
熊谷拓明
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■新作ダンス劇
「舐める、床。」
2020年12月10日〜13日@あうるすぽっと
詳細後日発表
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