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茨城県民が遠く離れた山陰に通いまくって381系やくものPVを作った話
昨年クリスマスの記事の続きを書こうにも、あまりに思いが溢れてしまいどうにもならなくなっているのだが、ここで1つ別の記事を書こうと思う。
最後の国鉄形特急電車で知られる、381系やくも。岡山から伯備線で中国山地を越え、山陰地方の鳥取県米子・島根県松江・出雲市方面を結ぶ。1982年から活躍しており、新型車両の導入が発表され、リバイバルカラーの実施も相まって爆発的な人気が出ている。そんな381系やくものPVを、走行区間と遠く離れた茨城県民である自分が作ってしまった。
381系やくも、そして山陰との出会い
小さいころから国鉄形特急車両の雰囲気が大好きな自分と381系やくもの出会いは2020年3月。コロナの騒ぎが少しずつ始まっていながらも、外出の自粛が求められていなかった当時、たまたま連休が。当時埼玉に住んでいた自分は、最初地元茨城へ行こうとしていたが、「不必要な自粛ではなくて、対策をしっかりして楽しいことを」という理念で、あこがれのサンライズ出雲ややくもに乗りに行ってみようと決めたのだ。
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計画を立てていた時は「縁結び?知らねえ!出雲大社は行かなくていい!」などと斜に構えていた自分だが、結局訪問し、その場所のすばらしさに感動。初の緊急事態宣言を乗り越えた同年9月にはウエストエクスプレス銀河のチケットを手にすることができ、また出雲を訪問。このころにはすっかり神話のふるさとと、381系の虜になっていた。
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そんなわけでやくもの走る山陰と自分にできたご縁。2021年になると、職場で急に異動が決まる。大したことはないのだが、コロナ禍も重なり、自分に自信が持てなくなった。また出雲大社を訪れ、活力をもらったりしたのも深く記憶に残っている。
2022年2月。山陰観光連盟のツイッターに、検査中の381系の画像と共に「どんな仕上がりになるのでしょうか」という文言が。胸騒ぎが止まらなかった。早速翌日、国鉄色リバイバルの実施が発表。国鉄形車両がクリームと赤の塗装をまとって走るのをまた見られるとは思わなかった。
そんなわけで、381系が引退する日が来たら、今まで撮りためた185系、189系、485系、583系の動画と合わせて、「国鉄形特急車両総集編」みたいなPVを作れたらいいなと思い、山陰へ通う日々が始まった。
381系やくもの魅力
やくも号の魅力と言えば、「国鉄形のモーター音」とか、「電気釜のフォルム」とか、「変態連結」(先頭車の後ろに運転台の無い車両をつなげる)などがあげられると思う。もちろん自分も最初はそうだった。しかし自分にとって一番の魅力は、乗務する車掌さんの放送だ。
「まもなく列車は丹田峠を貫くトンネルに入ります。岡山県と鳥取県を跨ぐ峠であると同時に、瀬戸内側の高梁川水系と、日本海側の日野川の分水嶺でもあり…」
「右側に見えます山は国立公園の大山です。高さが1709m、中国地方の最高峰として知られ、その姿の美しさから、別名伯耆富士と呼ばれています。」
「城下町、松江市のシンボルである松江城。その天守閣は国宝に指定されています。…情緒ある街並みは、見る人の心を和ませてくれます。」
そして最後には「大山のご案内でした、ありがとうございました。」と爽やかに締める。
基本的に車掌が1人乗務なやくも。381系には自動放送がないので、停車駅が比較的多いながらもその都度放送、自由席の改札と、最大7両の巡回をする。ただでさえ忙しいのに、合間合間で、沿線の魅力を伝えてくれる。かつてから寝台特急などの乗務がある米子車掌区、岡山車掌区の皆さんの、伝統的な放送を聞きながら、381系の静かながら懐かしい走行音、振り子独特の揺れを味わえるのがとても楽しいのだ。
どうしても乗り鉄・撮り鉄で訪れた場所って、観光せず帰ってしまいがちなのだが、車掌さんたちの地元愛に溢れる案内に心を打たれ、やくもの走る山陰という場所が好きになった。
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山陰へ通う日々
そんなわけで、2020年3月・9月、2021年8月、2022年3月・5月・10月、2023年2月・3月・4月・6月に出雲を訪れた。2022年初頭まで埼玉、その後地元に戻ってからは水戸からサンライズや新幹線で山陰を訪れた。金が溜まらない。
仕事やプライベートで悩んだ時、なんなら心を病みかけた時も、やくもと出雲の神様に会って、自分はどう過ごすべきか考えたりもした。
Twitterで国鉄色とゆったりやくも色の混色が急遽走っていると知った時、サンライズをネットで予約して、水戸駅までひたちに飛び込み、東京駅で6分の乗り換えできっぷを受け取って、サンライズに乗ったりもした。
185系ややまどりで親しんでいた電子音の鉄道唱歌チャイムがスーパーやくもに搭載されると聞いたときは、一人で大声で喜んでしまった。毎回毎回、忘れられない思い出ができた。
PV、できちゃった
2023年6月。スーパーやくもと国鉄色の混色が運転されると聞いて、初夏の景色と変わった連結の姿を撮りに行った後。脳内には松江駅の発車メロディにもなっているSaucy dog氏の「優しさに溢れた世界で」がループしている。「動画もたまったし一回試しに作ってみるかな」と操作していると、意外と曲調に似合う映像がどんどん出てきて、気づけばPVが1本できてしまったのだ。国鉄車両の他形式と合わせて、引退までに何とか…と思っていたのだが、引退前に381系だけで、完成してしまった。そのPVがこちら。
381系デビュー50周年記念PV【優しさに溢れた世界で】 - YouTube
前述したSaucy dog氏の「優しさに溢れた世界で」を使ったこのPV。メンバーに松江出身の方がいらっしゃり、ここでも地元にちなんだPVにできた。
完成して数日。改めて見てみる、花、自然、人など「381系やくもの走った世界」が伝わる映像になったのではないかと思う。正直自分は普通の撮り鉄みたいに列車の編成写真をしっかり撮るような技術がないから、その場の雰囲気が伝わるものを撮ることにしているが、それが功を奏したと自負している。
個人的にお気に入りポイントは2つある。
まず0:30頃から。歌詞は少しどんよりした気分で仕事へ行き、穏やかな休日への思いを馳せている。この動画を撮った時は、せっかく山陰を訪れたものの曇りが続き落ち込んでいたが、歌詞にぴったりの雰囲気。そこからやくもの車内、駅に入る381系の姿へつながる点が気に入っている。
2つめは3:10頃から。先ほど載せた写真と同じ、梅と大山と381系の姿。たまたま撮影地と撮影地の間を歩いているときに見つけた場所だが、この景色、角度、列車の速度が相まって、とても爽快な動画が撮れた。ちょっと傾いてるけど… そして中海を背景に走るスーパーやくもと、その車体と同じ色の花々、さらに春爛漫の景色を走る381系が次々と映し出されるのも好きだ。
「積み上げた一瞬はきっと報われないこともさ多分あるんだろうけど 踏み出した一歩は今日も大切な誰かを思い浮かべていた」
自信を持って撮ったカットも、たまたま出会った一瞬も、無駄足かと絶望したカットも、すべてに意味があった。そんなことを感じた。
早速見てくれた友人が連絡をくれる。見てくれたことを知れるだけで嬉しいが、自分の伝えたかった世界観が伝わっていることを知り、こんなに幸せなことはなかった。
もし自分と知り合いで、PVを見たという方がいれば、「見たよ」ひと言でいいから連絡してくれるとありがたい。
なお、国鉄色の運転開始記念式典などで撮影した動画については、報道などでも取り上げられるイベントであることを承知している人がほとんど思われるから、モザイクの必要がないと判断しているのでご了承いただきたい。
引退するまでの時間がどれくらいかはわからないが、決して長くはないはずだ。その日が来るまでにまたどんなエピソードに出会えるか、どんな形でその雄姿を後世に残せるか。また381系やくも、出雲の神様に会いたくなったら、サンライズに乗って、山陰を訪れようと思う。
長文にお付き合いいただきましてありがとうございました。
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