Africa / TOTO
ひとしきり夏が終わり涼しくなってきた頃。
同じ授業を取っていたグループで、帰りに晩御飯に行くことになった。
僕は「松任のキッチンユキに行きたい」と言った。
当時は好き嫌いが多かったので、変な店に連れていかれないよう先制攻撃を旨としていた。
確か遠くの店に何台もの車で行くのは無駄だろう、という話になったのだったか。僕は運転手を免除され、今ひとつ掴みどころのない、澄ました感じの女の子が運転する車に割り当てられた。
すっかり日は落ちて、車内は深海に沈んだ水槽のよう。運転席の彼女がエンジンをかけると、カーステレオから聴き覚えのある歌が流れてくる。
「お、Africaね」と僕はつぶやいた。彼女も何かを言った。
「いいよね、Africa」と言葉を継ぐ。彼女もまた何かを言った。車内で何か青く光っていたことだけを憶えている。
松任に向かいしな国道8号線に入ると、エンジンの回転数が異様に上がり、車がうめき始めた。大丈夫なのだろうか。僕は恐怖心を覚えた。
しかしこの軽自動車はこれが通常モードだそうで、彼女は楽しそうに笑っていた。
夜のドライブは宇宙旅行に似ている。船の外は無重力の暗闇で、逃げる場所はない。
行き交う宇宙船たち。
この船長に任せるしかないな。いつの間にか僕も笑っていた。
あなたの御寄附は直接的に生活の足しになります。