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娘の自由研究で気づいた大人たちのあたたさ

娘は2021の夏休みを忘れないだろう。
それは、私にとっても、親として大切なことを伝えられた特別な夏の終わりになった。 

夏休みも一週間で終わるという夜のこと。 

中三受験生の娘。部活動が終わり、私の中にある「娘」と「受験生」という言葉の一致感が増していくと同時に、そこに寂しさも混じっていた。この間、小学校を卒業したばかりと思っていのに、もう、高校生になるのか…と。

頭では理解していたが、時の早さに追い越され、記憶の中の娘との解離に愕然となったりする。あの頃は足元でチョロチョロとしていた娘を真っ直ぐ歩ませようと、つないでいた手は、もう、離れたままでも自分の意思を持って前へ歩んでいけるんだ。
後ろから支えることはあっても、もう手を引くことはないんだなと女性になっていく娘を頼もしく感じることが多くなっていた。 

受験生の夏休みはハードだ。昼間から塾に出かけ、遅い時間に家に帰ってきてからの一人の夕飯。その後、大体、ダラダラする。しかし、この日は、いつもと様子が違った。
帰ってくるなり、妻に不満をぶちまけていた。これは下手に触れると不機嫌が倍増しそうだと直感し、私は見てみぬふりをする。
娘はテーブルに着き、並べられた夕食を前にしたとたんしくしくと泣き始めた。
「自由研究をやらないといけなくなっちゃた。
先生、何であんなこと言うのー?」 

つい先程まで、平常心で受験勉強をするために押し込めておいたであろう本心が、その言葉に吐き出したとたんに涙と共に溢れ出した。もう、ご飯を食べるどころじゃなく、泣きじゃくる娘を抱きしめる妻のTシャツが濡れていった。 

あれ?自由研究やってたじゃん??
私は混乱していた。先日、「今はSDGsだね」とか言って、SDGsをテーマに自由研究しているのを見ていたから。 

妻に聞くと、今朝、オンライン登校があり、担任の先生から「○○さん、今年も自由研究を楽しみにしている」みたいなことを言われたようで乱れているらしい。

と言うのは、娘は小学校1年生から中2まで夏休みの自由研究を「今と昔」というテーマで八年間続けていて賞をもらったりしていた。きっと、担任の先生は今年も同じテーマでやったのだろうとコミュニケーションを取るつもりで声をかけたのだろうが、生真面目は娘は、先生が期待しているのにやってない…焦りでいっぱいになっていた。 

「内申点下がるかも」
「夏休みが終わる」
「休み明けのテスト」
「時間がない」…。 

父親の私が見ても、先生の言葉が不安定な娘の「恐怖」を助長しているのがわかった。 

実は、夏休みが始まる前から、今年の自由研究をどうしようかと悩んでいた。妻と私で「受験生だから、課題になってないことは、無理してやらなくていいよ」と伝えていた。「今と昔」のテーマは毎年、やりだすと大変だったからだ。私たちとしたら、少しでも受験勉強の負担になることを減らしてあげたいと思ったし、娘もそれに同意していた。その代わり、調べやすそうで内申点にも良さそうだという淡い期待もあって「SDGs」を調べることにしたのだった。 

娘の涙を見ながら、私はどこか悔やんでいた。もしかしたら、私たち親が、娘の思いを遮ってしまっていたかもしれないと。義務教育の期間である八年間続けてきたことを最後の年にやらないという選択を与えたことは、彼女の続けてきたという自信を奪ったのかもしれない。受験勉強を理由にしても彼女にとっては、悔しい選択だったのかもしれない。 

娘の涙を眺めながら、不甲斐ないと娘に詫びる私もいた。 

どんなポジティブな言葉を言っても
「時間がないもん。もう、ダメだー」
と泣きじゃくる姿を見て、親として手伝えることは全てやろうと覚悟が決まった。 

そして、その日は夜中まで妻と娘と三人で、8年分の自由研究を振り返りながら最後に何をやろうかと話し合った。 

今までは「今と昔」を調べてきたから、今度は「未来」を考えてみようと。8年間の総まとめとして、みんなが期待する未来を調べてみようということになった。 

コロナだし、時間もないし、今から話を聴いて回るのも難しいから、SNSでアンケートに答えてもらおうということになった。これは私が娘に出来る唯一の勤めだと思い奮起した。

未来に対して、何を聞くかを娘に考えさせ、アンケートの文章を挨拶文を作らせた。そして、私の挨拶文を加えてアンケートを作った。


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【アンケートのお願い】
中学3年生の長女、○○が自由研究で幅広い年代の方にアンケートをお願いしています。 

小学校1年生から中2までの8年間、「今と昔」というテーマで自由研究を提出してきました。自由研究、最後の年なのですが、受験生ということもあり、親としても勉強に集中して欲しいと無理することないよと伝え、今年はやめると決めていました。 

しかし、夏休みも後半になって、続けてきた自由研究を最後までやりたいと、半泣きで相談してました。 

今と昔を調べてきたから、最後に「未来」を考えたいということに。
そして、「未来に私が出来ること」を皆さんの話を聞いて、考えたいとアンケートを取ることになりました。 

親バカな私ですが、娘が自分の意思でやりたいと訴えてきたことに最大限、協力したいと思いました。 

無理なくで、やらなくても大丈夫ですので。
協力してもらえたらありがたいです。 

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【アンケート】

私は「今と昔」というテーマで小学生の頃から中学まで毎年、自由研究を行って来ました。 

今年は受験生で、コロナのこともあり、できるかわからないからけれど調べようと思ってます。質問に答えてくれるとうれしいです。 

①あなたが子供の頃と比べて、今の子供達と変わったと思うことはありますか? 

②子供の頃と変わって欲しくないことは何ですか? 

③変わって良かったと思うことは何ですか? 

④私たち子供に期待する事は何ですか?


年齢は何十代ですか? 

10代、20代、30代、40代、50代
60代、70代以上 

お忙しいと思いますが、答えてくれるとうれしいです。 

              ○○○○ 

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私はこのアンケートを協力してくれそうな友人、知人を30件ほど選んで送った。フェイスブックなどで回答を募る方法もあったが、回答が多すぎてもまとめるのが大変かなと思ったし、何よりも期限が短かったから、娘の自由研究という超個人的なお願いを、大勢の人を巻き込んでお願いするのも悪いなと思っていた。 

だから、LINEやフェイスブックのメッセンジャーを使い、直接メッセージで送って、個々にお願いした。

しかし、ここからが奇跡的だった。 

ダイレクトメッセージを送った人、それぞれが友人や家族に共有してくれたりして、次から次に回答が届く。届く度に、娘に転送していった。私はその回答を読みながら何度も泣いた。みんな思いがあたたかい。真剣に娘の未来を思い、回答してくれているのだ。その設問に向き合っている時間を思うと熱くなった。その中には、娘へのあたたかな応援メッセージも添えてくれる方々もいて、私たち家族も一緒に肯定してくれているようで救われた。

最終的には120件の回答が集まっていた。3日ほどでこれだけの人に回答してもらえるなんて、全く想像もしてなくて、驚いたのと同時にこのSNSの時代だからこそ出来たことだと時代の恩恵を感じ、日に日に世の中が良くなっていることを認識させてもらえた。 

120個の回答。その一つひとつに、その人の歩んできた人生があり、大切にしていることに触れることで、私が豊かになっていった。娘の宿題だったのに、娘以上に私が学び、幸せを感じていた。 

「大人って、あったかい」
これが私の自由研究の気付きだ。 

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「私たち子供に期待する事は何ですか?」

という質問に、20代から80代のどの回答にも「願い」や「祈り」のようなあたたかな思いがあった。普段は話すことのないけど「未来への願い」がどの人にもあるんだって知った。そして、それがそれぞれの中にある「希望」なんだと私は受け取って、「大人っていいじゃん」「実は結構、熱いじゃん」って感動していた。 

そして、大人たちが、もっと、子どもたちへ自分がここまで生きてこれたからこそ伝えられる「願い」を伝えられる機会があったらいいなと思った。 

そこにある言葉は同じような言葉かもしれないが、その言葉にある背景は違う。
ポジティブな言葉も、ネガティブな言葉も、様々な背景から出てきた言葉だからこそ、誰に引っ掛かるかわからない。受けとる相手だって、様々な背景があるから。 

「大人よ、もっと、語っていい」 

そんな風に思った。 

しかし、そこには、未来を創る子どもたちへの敬意があってこそだと思う。 

昔はこうだったから、こうした方がいいという、正論を振りかざした逃げ場のない、一方的な話だったら、私は聞く気がない。そんな押し付けは、1ミリも役に立たないから。 

昔は大変だったけど、今だって大変なのは変わらない。 その反対もしかり。
そのマインドが相手への敬意になる。

「今と昔」
変わったけど、変わらないもの。 

そこに大切なものがある。 

私にとっても、娘が大切なことを教えてくれた、忘れられない夏休みになった。 

今回、アンケートの協力をしてくれた皆様、本当にありがとうございました。

コロナで夏休みが延長されたこともあり、おかげさまで自由研究を期日に提出、出来た!


「もし、間に合わなくても、評価にならなくても提出する。もう、自分の趣味みたいなものだから」と笑っていた娘にとって夏休みの延期は娘への神様からのプレゼントだ。

「神様は頑張ってる人を見てくれてるね」
そんな話を家族でした。


娘の晴れやかな笑顔にこの娘の親であることに誇りを感じていた。

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