布団に行きな
ソファーを背もたれに
床で寝落ちする君と
その胸の上にページを開いたまま
伏せられたハードカバーの小説
「布団に行きな」
いつもの風景。呆れて言葉が出る。
返ってくるのは、いつも適当な返事。
動く気配はない。
「布団に行きな」
もう一度、うながしてみる。無視される。
もう、ほっておこう。
そう、思った時、見たことある場面だなと
ふと、思い浮ぶ母の姿。
「布団に行きな」
呆れた母の声が記憶に木霊(こだま)する。
「布団に行きな」
ああ、私も何度も言われてきたな。
「布団に行きな」
布団に導くその言葉には
「風邪引かないでね」
が込められている。
「布団に行きな」
今夜も呆れ顔の言葉が
世界中にあふれ
愛を伝えている。
「ねぇ、布団に行きな」