徒然なる想い その四〜カメラで見る生物の赤外線放射〜
皆さん、こんにちは。
最近めっきり寒くなって参りまして、こちらの方は雪が降るようになってきました。
さて、今回こそ生命の定義づけを行います、と言いたかったのですが、残念ながら記事がまだ仕上がっていません。記事を仕上げるのにまとまった時間が欲しいものの、まとまった時間が中々取れない状況にあるため、記事を公開するのはもう少し先になりそうです。本当に申し訳ありません。遅くとも今年中には公開致しますので、もう少々お持ち下さい。というわけで、今回の記事も少し変わり種の内容にしたいと思います。最後までお付き合い頂けると幸いです。
今回は題名にもある通り、生物の赤外線放射をカメラで捉えるというものです。分かっている方からすれば常識かもしれませんが、この地球上の生物は赤外線放射という形で熱エネルギーを体の外に放射しています。例えば、私たちヒトも赤外線を放射しており、パンデミックの影響により急速に普及した放射温度計などはヒトの赤外線放射から体表面温度を計測する仕組みになっています。他にもサーモグラフィーなどでこの原理が応用されており、気が付いていないだけでヒトの赤外線放射は様々なところで利用されています。では、なぜヒトから赤外線が放射されているのかという話になりますが、これは物理学の観点から見れば別に不思議なことでもありません。どういうことかと言うと、この宇宙の全ての物質は常に熱を吸収するとともに、熱を放射しているということです。ヒトであれば太陽光を浴びれば暖かく感じるわけですが、これは太陽光に含まれる赤外線を吸収することで体を構成する分子の振動エネルギーが高まることに起因しています。つまり、光を吸収することで体を構成する分子の振動が大きなり、我々はその分子振動を熱として認識するようになります。また、熱力学の基本的な原理から系と外界は熱平衡になろうとするため、熱を持つ物質は常に熱を放射します。このエネルギー量は黒体という理想的な物体であればステファン・ボルツマンの法則に従うため、温度に依存することが分かります。これらのことから、生物は光を通じて熱を受け取るとともに、体内の温度に依存した熱エネルギーを放射していることが導かれます。よって、全ての生物は常に赤外線放射を行っていることになり、ヒトが赤外線を放射していることも別に不思議なことでもないわけです。尤も、仮に絶対零度(-273.15 °C)の世界に住む変温動物であれば、理論上赤外線放射はなくなりますが、そのような生物は今のところ確認されていないため、”全て”の生物がエネルギー量に違いはあれど赤外線を放射していると言えます。
以上のように生物は赤外線放射を行っているわけですが、残念ながら私たちに赤外線は見えません。私たちは可視光線という限られた範囲内の光しか受容することができず、紫外線や赤外線といった光は一切認識できません。ちなみに、夜行性のヘビでは赤外線を受容する器官が備わっているため、赤外線を認識することができます。私たちもヘビのように赤外線を受容する器官を持てば、暗い場所でも赤外線放射を元に活動できたかもしれませんね。しかし、実際のところはヒトに赤外線を受容する器官もありませんし、また赤外線を受容する細胞が眼球にあるわけでもありません。そのため、どれだけ頑張っても赤外線放射を直接捉えることはできません。……ところが、私たちが普段使っているもので赤外線を捉えることも可能なのです。そう、カメラを通して間接的に赤外線を捉えることが可能なのです。そうは言っても、最近はスマートフォンのカメラを使うのが当たり前になっており、スマートフォンのカメラの場合は赤外線を検出しない仕様になっている方が多いのではないかと思います。ところが、iPhoneの前面カメラ(内カメラ)を使うと赤外線を捉えられることを最近見付けました。背面カメラ(外カメラ)は可視光線しか捉えないようですが、前面カメラに切り替えると赤外線を検出できるようになります。実際にカメラを通してアルテミア(甲殻類の一種です)という生物を撮影したものが図 1 です。暗闇の中にうっすらとピンク色の光が見え、これがアルテミアが発する赤外線になります。また、ヒドラという生物を撮影したものが図 2 になり、これもまた暗闇の中で赤外線を放射していることがお分かり頂けると思います。このようにスマートフォンのカメラを使うことで、生物が放射する赤外線を捉えられるようになります。ちなみに、有名なリモコンの赤外線放射や我々の皮膚から放射される赤外線もカメラでしっかりと捉えられるので、是非皆さんも行ってみてください。また、今回はiPhoneの前面カメラということで、Androidのカメラに関しては確認できていないのですが、機種によっては撮影可能ではないかと思いますので、その辺りの情報も頂けると幸いです。
図 1 アルテミアの赤外線写真
図 2 ヒドラの赤外線写真
今回は全ての生物が赤外線を放射しているということで、その赤外線放射を普段我々が使うスマートフォンのカメラで捉えられるということを紹介させて頂きました。普段我々が意識していないだけで、暗闇の中にも光は存在することを感じ取って頂けたのなら幸いです。一寸誇張した表現になりますが、この世は我々の目に見えないものも含めて光に溢れており、見えない光をカメラで観察するというのも面白いのではないでしょうか。また、今回は生物の赤外線放射をテーマにしたため敢えて写真を掲載しませんでしたが、リモコンの赤外線放射は光量も多く非常に確認しやすいと思いますので、一度試して見ると面白いのではないかなと思います。最後になりますが、今回も最後までお付き合い頂き有り難うございました。次回の記事もお付き合い頂けると幸いです。