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病院を探す

2020年7月、医師の判然としないルーズな対応に耐えられず、ステロイドパルス療法をした大学病院に通うのをやめる決意をした私は、脱毛症を診てくれる別の病院を本格的に探すことにした。

というか、実は脱毛症の情報を調べる一貫で、発症以来、病院情報はずっと探し求めつづけていた。

しかし、どこに行っていいのかわからない。

脱毛症を治療する設備が整っているのか。脱毛症の専門医はいるのか。いたとして、その医師は信頼出来てかつ自分の性格に合っているのか…。

病院は行ってみないとわからないところがあり(ネットの口コミも一応あるけれど…)、ある種の賭けである。病気を治したいのに無理やりギャンブルさせられるみたいで腹は立つけど、とにかくもうこの戦いで悲しい思いをしたくない。

そんな時、「日本皮膚科学会作成の『円形脱毛症診療ガイドライン』に名前のある医師が所属する病院に行くのがおススメ」という情報をネットで得た。なるほど。間違いなく専門医のいる病院だ。

調べてみると、家から通いやすい場所にある複数の大学病院に脱毛症の専門医がいることがわかった。脱毛外来も、もちろんある。そこは既にチェックしていた病院だったので「やはりそうか」という気持ちになった。

しかし何だか気が乗らない。

大学病院だからである。

大きな大学病院のほとんどは、まず初診に見る医師が決まっていて、その医師が脱毛の専門医とは限らない。初診を経て、別日に改めて専門医に診てもらう流れになっているようだった。ちょっとまどろっこしい感じがある。

しかも、大学病院はシステム化されていて、全てにおいて、そのような手順やルールがある。患者はそれに従わざるを得ない。必要な手順であり、ルールなのだろうが、これも中々にストレスだ。

さらに言うと、家から通えるその大学病院のいくつかは、数年前に大学受験で女子学生や多浪生を差別していたことが判明していたので、それもなんか嫌だなぁと思った理由だった。

医療の面で言うと、大学病院には利点が多く、また真摯に働かれている従事者の方々がいるのも分かっているのだが、意気揚々と行くぞという気持ちになれないのだった。

しかし、ただ時が流れるのを待っているのも嫌である。

そこで、私は元々アトピー治療で10年ほど通っていた小さな皮膚科クリニックに行ってみることにした。治療はできないとしても、新たな見地を得られるかもしれない。思えば、脱毛症発症時はゴールデンウィーク中でこのクリニックがお休みだったからこそ、色々と奔走することになったのだった。

クリニックは数人の医師がローテーションで入っており、私は特に主治医を持たずに、その時々に症状を診てもらい薬をもらっていた。ホームページの医師の紹介欄で全員の専門をネット検索したが(凄い時代ですね)、脱毛症の専門医は誰もいないので、とりあえずなんとなくのタイミングで、行ってみることにした。その日は、初めて会う医師が担当する日だった。

診察室に入り、経緯を説明してから頭を見せた。医師は立ち上がり、じっくり頭を見たあと、脱毛直後でチクチク残った毛を指して「生えてきている…?伸びてきている毛もありそうかな…?」と言った。今まで何度か書いてきたが、ネットで調べる限り、それらはこのあと抜けるはずの毛である。ネットの情報が間違っていることもあるし、本当に生えてきてくれているのならとても嬉しいが、とりあえずこの医師に対して警戒心を強化した。

医師は席に戻ると「ここは治療の設備がそろっていないので、大学病院に行ってもらった方がいいですね」と言った。やっぱり。

「このクリニックは系列の〇〇医大を紹介することになっているので、○○医大に紹介でいいですか?」

そうなのである。わかってはいたが、このクリニックは○○医大系の先生が交代で来ている病院なのである。そして○○医大には脱毛の専門医はいない(調べ済み)。他の病院を紹介する、という選択肢があったらうれしいなと思っていたがそうはいかなかった。

○○医大の皮膚科医たちは、皆親身である。だからこそ10年もここへ通ってきた。でもそれはアトピーだったからで、脱毛症はどうだろうか…。

「ステロイドパルスを一回やったとのことですが、もう一回がっつりやるという手もありますよ!発症後に速やかに治療をするのが大事なのでね!」

パルスをもう一度やるというのは、あまり考えていなかったが、ネットで調べてみると複数回やっている人もいるので、それもアリなのか…?でも、少なくともこの先生もパルスの時の主治医と同様「(抜けるはずの毛を)生えてきてる」発言するタイプだから要注意なんだよな…。

しかもこの頃、労働条件が悪いのか「近々○○医大の看護士が大量に辞める予定」というニュースを耳にしたばかりだった。いい医療があったとしても、真摯に働かれている従事者の方がいっぱいいるにしても、看護士さんを大切にしない病院には、ちょっと行きづらい。

私は「ちょっと考えます」と伝え、もうお馴染みとなったセファランチン、グリチルリチンといった内服と、外用のステロイド剤とフロジンをもらって帰った。

うーん、やっぱり○○医大にはなんとなく行きたくないな…。どうするか…。

しかし、次の道のヒントもあった。

このクリニックが○○医大の医師で回しているなら、大学病院にいる脱毛専門医もどこかの小さなクリニックにいたりするんじゃないか…?

なぜこのことに気が付かなかったんだろう。大学病院の医師の勤務体系は全く謎だが、とにかく探してみよう、と思い立ち、脱毛外来を担当する医師の名前を一人ずつ検索していった。

すると、すぐに見つかった。家から通えそうな場所にある小さなクリニックに、大学病院では脱毛外来を担当してる医師が曜日ごとに来ていたのである。ガイドラインに名前はないが、脱毛治療の経験がそれ相当の長さでお持ちであることは間違いなさそうだ。クリニックのホームページを見ると、脱毛症の治療が一通りできるよう書かれてあり、大学病院にいきなり案内されることもないだろう。受験で差別をしていた大学病院の医師だが、直接お金が大学病院にいくよりはよかろう(このあたり自分勝手な気もするが…背に腹は代えられないのも、患者の苦しい事実。過去の受験における女性差別、年齢差別は断固許さない。でも、こういった大学病院に行く必要がある人は、あれこれ考えずにすぐに行きましょう。これはこれ。それはそれ)。

こうして、このクリニックに行くことにした。

7月のある日、私は妹と共にクリニックへ向かった。心細すぎたので、病院側までは妹に一緒に行ってもらうことで勇気を絞り出していた。

駅に着き、病院の場所を確認しようとGoogle Mapを開いたところで、ちょっとしたハプニングがあった。所在地と一緒に示される病院のクチコミをなんとなく見たら、「(今まさにこれから診てもらおうとしている)医師に罵倒された」という衝撃的な口コミが挙げられていたのである。

神はなぜ私をこんなにも試すのだ!!!!?????

事前にクチコミは検索したつもりだったが、まさかこんな灯台下暗し的な落とし穴が…。大学病院ホームページの自己紹介コメントはけっこう優しそうだったのに…?

しっかりクチコミを読んでみると「ヒルドイド(保湿剤)を欲しいと言ったら、急に怒られた。ののしられた(大意)」となっていた。確かにヒルドイドを美容目的で求める人が多いことは問題にはなっているので(この書き主は美容目的ではないと主張していたが)、場合によっては怒ることはあるかもしれない。だが、それにしても、本当にこんな言い方をしたのなら、ヒルドイドの件は正しくともできる限り避けたいな、という感じだった。

どうするか…。

クリニックの前で数分迷った。が、時間をかけ悩んだ挙句にここまで来たのだ。とりあえず行ってみようじゃないか、と心を決めた。罵倒されたら、もう今日だけの縁にすればいい。妹には近くのカフェで待ってもらい、クリニックの中に入った。

小さな待合室にあるイスは満席だった。席につけない人もいる。1時間ほど待って診察室に呼ばれた(あとにわかることだが、この日はすいている方だった)。

件の医師はテキパキとした雰囲気で、別の診察室からやってきた。

私は挨拶もそこそこに、発症からの治療経緯と併せて「前の病院で、次の治療は窒素冷却か局所免疫療法がいいと言われたけれども、本当にそれでいいのか…。あまり脱毛症を積極的に診ない病院だったから、今日ここに来た」と伝えた。

医師は「わかった!」と言ったあと、「脱毛症は初めて?」とだけ訊いた。

実は小学生の頃をはじまりに、2、3度は小さな円形脱毛ができたことがあったので、そう伝えた。発症前にストレスがあったかは何も訊かなかった。

それから私の頭部をじっくりと観察し始めた。

「脱毛の残り毛はあるけど、残念ながら発毛はないですね」

そうだよね!?やっぱ生えてないよね!!!

事実としてはかなり残念だが、やっと「生えてきてる」と言わない医師に出会えて心底安堵した。

次に医師は「ちょっと抜きますね」と言った直後に、残った髪の一部を結構な力で引き抜いた。

「抜けちゃうねぇ~」

「抜けたのではなく、抜いたのでは!!?」と内心で強く思ったが、何しろこの人は脱毛の専門医だ。健康な髪ならば抜けちゃわない力加減だったのだろう。もはや完全にこの医師のペースである。

「シャンプーとかしてる?そーっと洗うだけではだめだよ。ブラッシングとかもね。残っている髪を大事にしてるだろうけど、これはもう付いているだけの毛だからね!」

付いているだけの毛!!!!

毎日洗っているのに…と一瞬少し悲しくなるも、「付いているだけの毛」というワードの衝撃が遥かに大きく、悲しみはすぐに吹き飛んだ。これ、脱毛症患者によっては泣いてしまうかもしれない言葉だが、実は私自身も「抜ける運命の毛なのかな…」と思っていたところだったので、ハッキリ言葉にされて痛快な気持ちにすらなった。また、実際にこの後に髪はすべて抜けたので、本当に付いているだけの毛だった。

私はいとこも円形脱毛症で毛がなくなっているので、その旨を伝えると、医師は「うんうん」と聞いていた。それから、ステロイド内服はどうですか?と尋ねてみた。

「コロナが流行ってるから、内服して感染したら重症化する。パルスで効かなかったのならば、内服して生えてもやめたら抜けるかも。(あなたは)抜ける勢いが強いね!」

ステロイドに関しては前の主治医と同じ見解のようだ。

おススメの治療法を訊いた。

「局所免疫療法がおススメ!自費だし通院も大変だけれども。副作用少ないけど即効性はないよ。でもおススメ!紫外線治療も悪くないから、合わせてもいいかもね!何もしなくても生えてくる気もするけどね!まぁ焦らずにね!えーと、残りの毛量は髪10%、眉20%、まつ毛30%かな!(←このあと全て抜けた)」

この「○○!」という口調は私の印象なので、実際にはもっと丁寧な口調だったと思う。とにかく全ての言葉が「!」マーク付きでハッキリと頭に入ってきた。局所免疫療法がいいというのは前の担当医と同じだが、判然とおススメされるのと、ハッキリとおススメされるのでは、こうも説得力が違うのだなと思った。

このクリニックで局所免疫療法をすることに決めた。

「かつらは何か考えてる?時間がかかるから、そろそろ買った方がいいかもね!もし決まってないのなら紹介もできるよ!アデランスとかね!」

治療法や病院について調べるだけで精一杯の私だったが、そうだよな、そろそろウィッグについても検討しなければだよな。でも「アデランスとか」はなんか高そうかも?と思い「まずは自分で調べて見ます」と伝えた。

このあと、医師は「局所免疫療法とはどういうものか」という説明をし(メモに絵を描いての説明)、私は局所免疫療法をする同意書にサインをした。それから医師は次回の診療の日にちを決め、看護士に何やら指示をし、私が「ありがとうございました」も言えないほどの早さで、次の患者さんが待つ診察室へと去っていった。

局所免疫療法とは、化学薬品を使って患部を意図的にかぶれさせ、毛根付近の免疫の正常化を図る治療法だ。医師が去ると、看護士がやってきて、局所免疫療法を始めるにあたり、「感作」という、薬品を体に覚えさせるためのパッチテストを行った。薬品を塗ったパッチを後頭部に貼り、2日間そのままにする。この期間はお風呂もシャワーも入らないように、とのことだった。

処方箋は感作のパッチ部分を外したあと、もし痒かったら塗るためのステロイド外用と、痒いを通り越して痒すぎたり、ただれたり腫れたりした場合に飲むステロイド内服3日分。セファランチンなどのいつもの飲み薬はなし(このクリニックでは出さない方針のようだ)、フロジンもなし。

こうしてこのクリニックでの初診は終わった。初めてちゃんと訊きたいことが聞けた気がする。全てが嵐のようだった。気づけば、叱責も罵倒もされなかった!よかった!(?)

パルスをした病院も、このクリニックも、治療の方針はそれほど変わりはなかった。でも、私の性格から考えると、ハッキリ言える部分はハッキリと説明してくれるこちらのクリニックのほうが、どう考えても相性がいいとすぐに思った。診察室での精神的ストレスが大幅に軽減された。最低限の礼節があれば、あとは知識や経験から率直に話してもらえた方が私はいい。怒られるかも、という前提で行ったので、変な期待もしていないのもよかったのかもしれない。

でも、誰にとってもこのクリニックやこの医師がいい、とも思わない。

例えば、カツラの話。

医師から「カツラは?」と訊かれて、素直に「そろそろ買わなきゃなぁ」と思った私だったが(仕事をしてなかったこともあり、そもそもカツラに気が行くのが遅かった)、ある当事者はブログに「初診でカツラの話をされてとても悲しかった。涙が止まらなかった」と書いていた。この感じ方もまた、切実で尊いものだ。

パルスをした大学病院の医師は決してカツラの話はしなかったし、全体的に何もハッキリとは言わなかった。残っている毛に対して「案外残ってますね」とはポロっと言ったが、「付いてるだけの毛」とまではさすがに言わなかった。ハッキリ言わない医師のほうがいいと思える人も結構いるのではないかと思う(処方忘れとか、抜ける毛を「生えてる」と言うのは、はまた別の話ですが)。

つまり、何が言いたいかというと、病院や医師との相性は本当に人それぞれだということだ。誰かにとっては合わなくても、別の誰かにとってはとてもありがたい存在になる。また、逆もしかりだ。

幸運なことに、私は数回のチャレンジで自分に合う医師に会うことができた。現在も、この医師のもとで絶賛治療中である。いまだスキンヘッドであり、まだ全く治る気配はないが、特に医師に対しては不満もなく通院している。やれることを誠実にやってもらい、治療に納得している。局所免疫療法をはじめて数か月がすぎ、このクリニックで出来る他の治療もわずかしかないが、それをやりきるまではここで診てもらうつもりだ(先生、看護士さん、スタッフの皆さまいつもありがとうございます)。

また、最近は食事療法について積極的に調べ、可能な限り実践し始めた。病院治療が頭打ちになることを視野にいれ、別の道を探し続けている。毛に対しての効果はまだないものの、食事をタンパク質多め、野菜もしっかり、糖質控えめ(米はしっかり食べます)にしただけで、体調がよくなり、不眠がかなり改善した。また、腸活、筋トレなども行っている。このあたりについても、ある程度まとまったら記事にしてみたい。まだまだ実験中。

少しは生えてくれるといいのだが。


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