カクテル「雪国」を生み出した井山氏の偉業
2021年5月10日、伝説のバーテンダー井山計一氏が天国に旅立った。
私は2回井山氏のお店バーケルンにお邪魔してカクテル”雪国”を堪能したことがある。
様々な有名なバーに行った中でもケルンでの思い出はトップクラスの思い出である。
そんな貴重な体験をさせていただいた井山氏に思いを馳せながらネット上の書き込みを見ると
誹謗中傷とまではいかないが非礼な事を匿名性を生かして堂々と述べている方もいて物凄く落ち込みました。
「井山氏が成し遂げた事はバーテンダー界では偉業であり、もっと井山氏の事を日本の人々に知って欲しい」
私の自己満足な自慰行為なのかもしれないが書かずにはいられませんでした。
以下に井山氏の偉業を記載したいと思います。
<目次>
1.カクテルの歴史
2.カクテル雪国はなぜすごいのか?
3.なぜファンは遠い所まで行って、井山氏に会いに行ったのか?
1.カクテルの歴史
古くから世界中でお酒に何かを加えて飲むという事はあったのですが、皆さんが言うカクテルが始まったのは19世紀末に製氷機の登場からです。
最初はアメリカで流行りの飲みスタイルとして広がりを見せ、そこからヨーロッパに流行が広がったそうです。
日本は明治初期に伝わったそうですが、本格的に広がりを向かえるのは大正時代のカフェ文化あたりだったと記憶しています。
既に皆さんがパッと思いつくカクテルは明治~昭和初期位までに考案されています。
2.カクテル雪国はなぜすごいのか?
(雪国レシピ)
ウォッカ・・・・・・・・・・・2/3
ホワイトキュラソー・・・・・・1/3
ライムジュース(コーディアル)・2tsp
ミントチェリー・・・・・・・・1個
砂糖・・・・・・・・・・・・・適量
(tspとはバーで使うバースプーン一杯の単位です)
カクテルグラスの淵をレモンで濡らし、砂糖でスノースタイルにする。
材料をシェイクして注ぎ、ミントチェリーを沈める。
要は、ウォッカとホワイトキュラソーという2種類のお酒に甘さを足してシェイク。それにチェリーと砂糖で飾りをつける。
本当にシンプルなカクテルです。
このカクテルがすごい理由を以下に記載します。
①考案されたのが1959年(昭和34年)
カクテルの歴史で述べたように、現在皆さんが飲まれるスタンダードカクテルは昭和初期までに考案されています。
後発のカクテルでありながら世界にも知られるという稀な存在なのです。
②シンプルなレシピはとっくの昔に考案しつくされていた
これは①とも重複する内容ですが、スタンダードカクテルは2~3種類のお酒を混ぜるというシンプルなものです。
シンプルゆえに発見~世間への浸透も早かったわけです。
後発で2種類を混ぜるカクテルを見つけ出し、世に広めた。これはバーテンダー界にとっては偉業なのです。
③材料は手に入りやすいもので構成している
考案当時は大東亜戦争(太平洋戦争)から復興をしている途中の日本、材料は決して満足に揃う訳ではありません。
既に井山氏は山形県酒田市に店を構えていました。
東京ならともかく、地方都市に揃うお酒は限られています。
井山氏は日本のバーやキャバレーの様な飲み屋で大体ある材料に注目して雪国を考案したわけです。
④見た目の美しさ
カクテルはカラフルでSNS映えするオシャレな飲み物であると思います。
雪国はその名に違わず、白色にミントチェリーのグリーンが沈んでいるというシンプルな美しさを持っています。
本来カクテルのチェリーはマティーニの様に爪楊枝に挿したものをグラスに添えるのが定番でした。
それをあえてグラスに沈める発想をしたところに井山氏の非凡さが見られるのです。
⑤カクテルコンペティションに地方の人間が優勝する
世に出たのはサントリーの前身の会社開催のカクテルコンペティションでした。
これはバーテンダーの競技会の傾向なのですが大都市の繁華街で腕を磨いた人が優勝する傾向にあります。
ライバルの多い激戦区で揉まれるわけですから今現在も銀座を代表格に大都市の名だたるバーには競技会で華々しい成績を収めた方が在籍しておられます。
いかに昭和34年という時代に優勝する事の凄さがある訳です。
3.なぜファンは遠い井山氏の店まで行ったのか?
昨年末くらいまで現場に立ち続けた井山氏。
井山氏目当てにファンは全国各地から何度も何度も通う。
その理由は、井山氏が雪国の考案秘話を筆頭に昭和初期のバー文化、当時の人々の生活ぶりを何十年と語り続けた結果
古典落語の様にいつまでも聞き飽きないトークにブラッシュアップされたからなのです。
そしてスタンダードカクテル考案者でご存命の方は井山氏だけだったのではないでしょうか?
2重の意味で貴重な体験を出来るからこそファンは足繫く通ったのです。
もっと井山氏について語りたいですが、私が書くよりも映画「YUKIGUNI」を見て頂く方がはるかに分かりやすいです。
今現在コロナウィルスの蔓延により映画館での上映はままなりませんが、必ず見るチャンスが来ると思います。
私は既に見ているのですが、井山氏がバーに立ち続ける理由やこだわりなど
プロのバーテンダーとしての生き様をヒシヒシと感じる素晴らしいドキュメンタリー映画です。
長々とした文章をお読みくださりありがとうございました。
井山氏のご冥福を心よりお祈りいたします。
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