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「この子らを世の光に」糸賀一雄の言葉の重み
障がい福祉に携わる方であれば、一度は聞いたことがある名前ではないでしょうか。
糸賀一雄(いとが かずお)とは
糸賀一雄(1914年~1968年)は、日本の社会福祉の発展に大きく貢献した人物です。特に、障害者福祉の分野で革新的な取り組みを行い、「近江学園」や「びわこ学園」の創設者として知られています。
「この子らを世の光に」
糸賀一雄の有名な言葉「この子らを世の光に」は、彼が1952年(昭和27年)に近江学園(滋賀県に設立された知的障害児のための施設)の設立10周年を迎えた際の記念誌に記した言葉として知られています。
言葉が生まれた背景
近江学園は、戦後間もない1942年(昭和17年)に開設され、当時、知的障害のある子どもたちに対する社会の見方は「救済すべき存在」「生産性のない者」という否定的なものでした。そうした時代に、糸賀一雄は「障害のある子どもたちも、社会を照らす光になれるのだ」という理念を掲げ、教育や福祉のあり方を根本から変えようとしました。その理念を「この子らを世の光に」という言葉で表現しました。
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私と糸賀一雄の出会い
私が糸賀一雄の名前を知ったのは、社会福祉士の資格取得がきっかけでした。その当時は、残念ながら私にとっては受験勉強の数あるキーワードの一つでしかありませんでした。
最近知ったのですが、私が社会福祉士受験時に働いていた障害児者の施設が実は、糸賀一雄が理事として関わっていた施設だったのです!!
その当時は全然知りませんでした。時代も違うし、福祉の世界を全く知らない未熟な新人だったので、恐らく知る術もなかったのでしょう。今思えばもっと色々学ぶこと、吸収できることがあったかもしれません。
家族会との交流を経て
受験のキーワードでしかなかった糸賀とその理念が自分の中で腹落ちしたのは、障害児者の家族会運営に関わるようになってからでした。今でこそ、障害者総合支援法によって障害児者には様々なサービスが制度として確立されています。
しかし一昔前には、就労支援事業所も、グループホームも、放課後デイサービスの制度もない中で、障害児者の親たちが必死になって地域や行政と掛け合って道なき道を切り開いてきた歴史がありました。そんな親たちから語られる糸賀一雄や「この子らを世の光に」という言葉はとてつもなく重厚で、説得力のあるものでした。
家族会運営に関わっていた密な時間が、私の支援者としての在り方を形成したと思っています。このご縁がなければ、私は今も異業種から来た福祉経営のビジネスマンのままだったかも知れません。
現代の課題にも言及?
原点に立ち返りたいとき、糸賀一雄の書籍を読み返します。その時に驚かされるのが、昭和30年代~40年代に執筆されたとは思えない視点と課題意識です。
昭和43年に出版された『福祉の思想』の中では、当時のポリオウイルスが国内で蔓延した時の社会福祉協議会(以下社協)の対応について言及しています。全国民が恐怖に陥った感染症に対して、社協は殆ど他人事のように何も対策しなかったという主旨の意見を述べているのです。この感染症対策こそ、住民の大きなニードであると。
この視点は、先般の新型コロナウイルスの対策にも繋がるのではないでしょうか?今や何事もなかったかのようになっていますが、ほんの数年前まで全国民が新型コロナで集団ヒステリーのような状況に陥っていました。その時、社協は何をしていたか・・?勿論、個々の職員、専門職は一生懸命走り回っていたと思われます(私も一生懸命頑張っていた社協の職員を沢山知っています!)。しかし、組織として地域の為に一体何をしていたのか、あまり国民の意識には残っていないのが現実ではないでしょうか?この当時、障害児者の福祉が施設⇒地域に移行していく中で、糸賀は社協、地域作り、訪問支援等の課題について鋭い言及を行っているのです。
日々勉強
先日、私が理事として携わっている法人の理事会の中で、久しぶりに糸賀一雄の名前を聞きました。糸賀一雄というワードを聞くと、私は今でも背筋を伸びる心境になります。「勉強しないと!」と新たな気持ちにもなります。私たち専門職が日々勉強していないと、制度も扱えない、改善を提案できない、クライエントに良い支援を提供できない=何も出来ません。
以下の書籍、私は何回も読み返しています。お勧めです。