お米が炊けるのも待てない
彼女が死んだのは、とても暑い日でした。
夕方に彼女がバス停へ向かっていると、途中に不自然に立ち止まる人がありました。
バス停に着いて、しばらく立っていると、日差しが強く、肌が痛みます。
よく見るとバス停の先にも一人、先のとは別の人が不自然に立ち止まっておりました。先程の人のいる場所と、その2つの場所はバス停から最も近い、日陰なのでした。
ああ、みんな賢い。
こんな小さな田舎のバス停で、たった3人の中でもわたしというのは、最も頭が悪いのだ。
彼女は思いました。
そうして、その後は何も考えようとしませんでした。
借りっぱなしの本や、まだ果たしてない約束のことも。
駅の長椅子で、文旦飴を頬張りながら、行き交う人々の流れを身体で感じます。彼女は部屋の隅で皺になっていたワンピースを、裸に被っただけで、そこに、力なく座って居ました。
そうしていくうちに、彼女の身体はかき混ぜられ、文旦飴と共に、溶けてなくなってしまいました。
その、ひとより大きな身体の中には、恐ろしく弱い、もっとも穢れて、美しい、魂が、ありました。
彼女がそれを見たら、きっと死なずに済んだはずです。
だけれどそれを、彼女自身が肉眼で感じることはできませんでした。ただ、それだけのことなのでした。