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『インターステラー』IMAXレーザーGT版 感想

『インターステラー』のIMAXリバイバルを観た。4年前のIMAXリバイバル以来の鑑賞。大阪エキスポシティのIMAXレーザーGTで当時初めて観て、映画観がガクッと変わるほど感動して、ブルーレイを買ったけど「どうせ1.43:1サイズで観れないし、音も環境的に2chだしなあ」と思って観返さずに4年も経っていた。
 IMAXフルサイズでの上映が実施される1.43:1画面サイズの映画はたくさん観てきたけど、未だに『インターステラー』を越える映画はないと思う。『NOPE/ノープ』もそういう意味では相当すごいけどストーリーがつまらない。今回、あらためて池袋サンシャインのIMAXレーザーGTで観返して、本当に本当に、心から実感した。

 くだらない映画レビュー系インフルエンサーが「観ないと人生損してる」とか「本当に○○に行った気分になれる」みたいな定型文をよくSNSに垂れているけど、実際に1.43:1の『インターステラー』は本当に「観ないと人生損してる」し「本当に宇宙に行った気分になれる」と思ってしまいますよね。恥ずかしいんですけれども。本当にそう思う。

 当たり前だけど「宇宙船に乗ったら宇宙に行ける」という情報を知っているのと、実際に宇宙に行くとでは感覚が違う。観たことのない人は何を言っているのかわからないと思うけど、本当にそういう感覚になる。ブラックホールに吸い込まれる時の、自分という生命体が分解されていく、あの「自分という存在そのものが問われる」ような感覚。探査して行った惑星が生命が住めない惑星と知った時の景観の無情な美しさ。
 特に初めて宇宙に旅立つ時のロケットの轟音が本物すぎる。もちろんロケットの轟音なんか実際に聴いたことないけど、あれは本物。誰が何と言おうと私はロケットの轟音を聴きましたし、宇宙に行きました。
 理系の知識が追いついてないんで理屈では説明できないけど、マコノヒーの体験ひとつひとつが「鑑賞体験」ではなく人間として「経験」する3時間弱。たかが映画を観ただけなのに人生が1周終わる感じ。映画はここまでやれる。皆さん、忘れているかもしれませんが、映画ってここまでやれます。

 こういう話をすると大抵嫌われるし「良い環境で観たマウント」だと受け止められる。でも、そんなみみっちい話をしているわけではない。配信でしか『インターステラー』を観ていない、シネスコでしか、通常IMAXの1.90:1サイズでしか観たことない人を責めたいわけではない。でも実際問題として、リンゴとリンゴジュースは違う。仮に100%果汁ですらないとしたらもはや別物だ。
「映画にはそれぞれの楽しみ方があるから」というのはすごく良くわかる。家でまったりネトフリで観る『インターステラー』が誰かにとってかけがえのない3時間になるのも理解できる。理解はできる。

 ただ、ひとつ事実なのは、その『インターステラー』はクリストファー・ノーランの『インターステラー』ではないということ。それはインターネットで配信された"『インターステラー』っぽい映像"である。すみません。でも本当にそう思う。勝手にそう思っているだけなので怒らないでください。

 ノーランは別に好きな作家じゃないけど、幼少期に70ミリで『2001年宇宙の旅』を観たノーランはきっと「これが映画だ」と度肝を抜かれたはず。そんな単純な話ではないと思うけど、凡そノーランはそのピストルで心臓を撃ち抜かれたような原体験を現代の観客にも味わってほしくて、自分の人生を狂わせた"映画"というものの正体が知りたくて『インターステラー』を作ったんだと思う。今の観客は逆立ちしたって「公開当時の『2001年宇宙の旅』」を観ることはできない。
 それは70ミリ上映がないからという意味合いの話でもあるけど「こんなにネット上にあらゆる映像媒体が溢れ、VFX大作が公開されまくる中での何十年も前の凄い映画」というバイアスがかかりまくっているから。
 そういう意味で我々は本当の意味での『ジュラシック・パーク』を観ることはできないし『ターミネーター2』を目撃することはできない。でもまだ『インターステラー』は観れる。

 サブスクでも観れる映画に2800円も払って3時間弱も暗闇で観るという行為は確かに常人の沙汰ではないかもしれない。でも、本当にそれだけの価値がある。「宇宙ってこうなってるんだ」「愛する人との別れってやっぱ悲しいよね」レベルの思考では収まらない。収まってはいけない。ノーランが幼少期に心臓を撃ち抜かれて出た血の量は、そんなもんじゃない。
 本当に身ごと未知なる宇宙に旅立ち、自分や自分の家族のことではなく人類の未来を思案し、自分がこの世に生まれてきた意味、運命について、愛について考える。『オッペンハイマー』は本当につまらなかったけど、ノーラン、『インターステラー』を作ってくれて本当にありがとう。

 やっぱり4年前ほどは感動しなかったけど、確実に自分の人生経験として刻まれた『インターステラー』を胸に、自分はどう映画を作っていけばいいんだろう。こんな姿、ノーランが見たら何て言うんだろう。そんなことを考えているとどんどん映画作りが苦しくなっていくので、このターンに入った時は最近はとりあえず『ビートルジュース ビートルジュース』のことを思い出すようにしている。バートン、1秒でも多く長生きしてください。

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