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3D対応プロジェクターの話

 先日、我が家にプロジェクターがやってきた。エプソンのEH-TW5650という、フルHD画質の3D対応モデルだ。7年ぐらい前のものだけど、その辺の映画画質オタクよりかは4KやHDRに興味がない(ただフルHDは絶対条件)ので、これで十分すぎる。これでBlu-rayを再生すると、ちょっとしたミニシアターぐらいの迫力がある。

 大画面で観る映画というのはやはり全然違う。「見る」のと「見渡す」のは視覚情報の脳処理のテンションが違う。繰り返し繰り返し観てきた映画でも初めてプロジェクターの大画面で観るといろんな発見がある。

 そしてこのプロジェクターは3D映画も観れる。ただ、3D映画を観るには専用のメガネが必要だ。これが本当に厄介だった。このモデルはアクティブシャッターのBluetooth/RF方式という3D形式のもの。

 3D上映方式には大まかに3種類あって、ひとつがアナグリフ方式(赤青メガネのやつ)、もうひとつが偏向方式(今の映画館の3Dは大体これ)、最後にアクティブシャッター方式。

 アクティブシャッター方式は、上映デバイスと3Dメガネが連携して、超高速で右目映像、左目映像がシャッター式に交互に投影されて、右目映像の瞬間はメガネの左目の窓が閉じて、といった具合で右目に右目映像、左目に左目映像を見せる。この方式は(諸説あるが)何より映像の品質が劣化しない。

 そして、この上映デバイスと3Dメガネの連携の通信方式がまた何種類かあって、デバイスとメガネの通信方式が一致しないと3D映像を楽しむことができない。方式は3種類、IR(赤外線)方式、DLP-Link方式、Bluetooth/RF方式である。

 最初IRとRFの違いがわからなくてキレていた。それぞれ主流だった時期が違うのでリアルタイムで知ると明らかに別物なのはわかるんだろうけど、2024年現在、初めて知ろうとする無知の人間にとっては「同じ無線じゃね?」としか思わない。
 更にしんどいのが、Bluetooth/RF方式の3Dメガネは大体がバッテリー充電式、かつ純正品は全て10年ほど前のものなので生産終了しており、中古品のほとんどはバッテリーが死んでいる。ホームメディアとしての3D映像の需要は2024年現在ほぼゼロなので当然新品の互換品なども国内生産はない。

 紆余曲折を経て、なんとかBluetooth/RF方式、かつボタン電池式の3Dメガネを入手し、いよいよ3D映画を楽しめる。そう思った矢先だった。

 物凄くクロストークが目立つのだ。クロストークとは、簡単に言うと映像のダブりだ。実際は物凄くというほどではなく、特に鑑賞に支障をきたすレベルではないにせよ、ドルビーシネマやIMAXレーザーGTの3Dに目が慣れてしまっている今、どうしても気になってしまう。

 家庭用プロジェクターの限界か? そう思ってネットで調べてもクロストークのことをごちゃごちゃ言っている人は案外少ない。というか家で3D映画を観ている人なんか今ほぼいない。仲間がほしい。

 調べていくうちに、アクティブシャッター方式の3Dのクロストークの量とリフレッシュレートに因果関係があることを知った。どうやらリフレッシュレートが高いほど左右映像のシャッター回数があがるので右目映像に食い込む左目映像を阻止できるらしい。説明書を読み直すと、1080pのリフレッシュレートの限界が24hzで、1080iや720pなら60hzまで出るらしい。

 じゃあHDMIコードに何らかのコンバーターとか取り付けるなどして3DBlu-rayのフレームパッキングデータを720pに落としたら60hzでて、3Dメガネもその通信に対応して60hzシャッター開閉し、理屈上はクロストークが減るのか?でも60hz出ているらしいサイドバイサイド方式の3D投影時もクロストークはやはり出ていたから違うんだろう。

 そもそもこのメガネがET-TW5650から出ているシャッタースピード情報と連携がとれているのかもわからない。エプソンの純正品を買えよという話だが、エプソンのメガネはバッテリー充電式である。

 そこで画質を少しいじってクロストークが出にくいポイントを探ることにした。家にある3D Blu-rayで一番クロストークが出やすい『ガフールの伝説』で調整。

 まずガンマをあげると黒が浮くのでクロストークが減る。そしてメガネの明るさ等やコントラストも下げて……といった風に調整していくと、どんどんクロストークは目立たなくなっていくが「これ何の映画?」というぐらいルックが変わってしまう。

 人生もそうだと思う。日常にもたくさんのクロストークがある。気にはなるけど別にいいや、というレベルのものから、これは流石に対処しないと、というレベルのものまで。それで、対処し始めると「完全にゼロにしたい」という願望が生まれ、気持ちの悪いメンタルの渦に飲み込まれてしまう。

 そのようにして人生のクロストークを目立たなくしていっても、クロストークは目立たないだけで存在はしている。そしてクロストーク軽減のために調整しまくった人生の画質は、気が付けば当初のオリジナルのルックからはかけ離れたものになっている。映画を、人生を、ただ純粋に楽しみたかっただけなのに。
 クロストークのある人生とどう折り合いをつけ、むしろクロストークを楽しむぐらいの気持ちで日々を挑む。そうすることで初めて3D映画を心から楽しむことができるのかもしれない。

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