eスポーツを活用した地域活性化 ~小田原市の取り組みに関して~
小田原市のeスポーツの取り組み
こんにちは。
今回はeスポーツと地域活性化について書いてみようと思います。
はじめに小田原市のeスポーツを活用した取り組みについていくつかの記事を参考にしてみていこうと思います。
以前から小田原市はeスポーツを活用したイベントを行っていましたが、2022年11月12日に小田原eスポーツ出陣式が開催され本格的に取り組みが始まっています。
小田原市は、小田原城を中心とした歴史観光を主流としていますがそれらは中年層から高年層向けであり、若年層に対して魅力的な観光資源が乏しいことが課題です。そこで若者層に求心力があり年齢、性別、障がいの有無関係なく多くの人が 参加可能であり、新たな産業の創出の可能性を秘めているeスポーツに着目しました。これまでの観光資源とeスポーツを融合させることで新たな観光資源を創出し、教育や福祉などにも拡大させていくことを視野に入れ、今後はeスポーツ練習場の無料開放や体験会などのイベントを開催し、中長期的な視点で定着と発展を目指しています。
既にeスポーツを活用して地域活性化に取り組んでいる市に横須賀市があります。横須賀市は2019年から取り組みを始め市内の高校に高性能PCの貸し出し事業を中心に、eスポーツ文化の長期的な定着を目指しています。今年で3回目となる大会を開催して、地元のPR活動としての場だけでなく若者のコミュニティや活躍の場としても機能しています。
小田原市、横須賀市ともにeスポーツの持つ特性を活かして短期的な地元のPRを目的としているのではなく、長期的に求心力の持つ新しい観光資源の発展に力を入れ、特に高校生などの若者に対しての教育を重要視していることが分かります。
eスポーツに関する先行研究について
eスポーツに関する学術的な研究を少しですが調べてみました。eスポーツに関する研究について、10月15日に神奈川工科大学で「eスポーツシンポジウム2022」が開催され、eスポーツの発展と地域活性化が議論されました。シンポジウムでは、音響工学を専門とする情報メディア学科・上田麻理准教授が「eスポーツにおける聴覚情報の役割」と題し、講演を行ないました。また、情報ネットワーク・コミュニケーション学科の岩田一准教授は、「eスポーツの操作におけるネットワーク遅延の影響検証」について報告しました。
どちらもeスポーツに関する理系的なアプローチですが、僕は文系人間なので社会的な側面からの先行研究をまとめます。
まず、eスポーツを活用するメリットとして地域経済やコミュニティの活性化があげられる。侘美(2021,pp87-89)はeスポーツを活用したまちづくりの事例を取り上げており、例えば、富山県高岡市の事例では、ゲーム好きのオーナーがバーをオープンして地元の声に後押しされ最終的に「富山県eスポーツ協会」の会長になった事例や、岡山県岡山市の人手不足の商店街がイベントを主催し再び活気づいた事例を紹介している。過疎化に悩む地域がeスポーツを活用することでコミュニティの活性化や若者に対するアピールにつながると述べている。また、侘美はeスポーツの「サードプレイス」の機能に着目している。「サードプレイス」の特徴は、家族や会社の同僚など濃密で時に義務的な人間関係とは異なり、 趣味や娯楽などの共通点でつながる多様な人々との気楽な交流にある。家庭や職場を離れて「人生の義務や苦役からの逃避と束の間の休息」を提供してくれるだけでなく、それよりはるかに重要な「仲間」や「人間関係」というものを得ることができる。高等教育でeスポーツを取り入れるならば、この機能も活用できるだろう。
伊藤(2021,pp43-45)は、eスポーツイベントにおける重要なことを統計をもとに考察しており、マーケティングの面では、スポーツマーケティングの理論と類似したスタジアムに足を運び観戦を愉しみたいと考える因子と、子供や自分自身が実際にeスポーツに参加したいと考える層が存在するのではないかと主張し、それぞれに即したサービスの提供が必要であると主張している。また、イベントに使われるゲームタイトルについて、客の世代や日本のゲームの歴史から、PC プラットフォームの e スポーツイベントを開催するよりも、すでにブランディングが形成されている家庭用ゲーム機器を活用したeスポーツイベントの方が地域住民の関心度は高いと結論づけている。
一方、eスポーツの利用にはいくつかの課題が残されており、侘美(2022,pp59-61)はそれを5つにまとめている。
1つ目は著作権などを含む「法的な問題」である。賞金付きの大会やお酒を飲みながら行われるeスポーツイベントを主催するときには、著作権、 景品表示法、風俗営業適正化法、刑法の賭博罪など法律上の問題をクリアにする必要がある。
2つ目はゲームソフト、ハード、プレイヤーのレベルなどの「マッチングの問題」である。どのソフトを使用するのか、成熟したプレイヤーがいるのか、プレイヤー間のレベル差などの課題である。
3つ目はFPSをはじめとする「殺戮、流血などの残虐行為のあるゲームの取り扱いについて」である。過激なシーンが多いシューティングゲーム等は若者の支持が厚いが、全年齢向けではない。一方で競技性が高く複数人での同時プレイが協調性を育む機会を与えると考えられる。その使用目的によってタイトルを変えることが重要である。
4つ目は「eスポーツプレイヤー」のプレイ過多による「健康面への悪影響」である。ゲームの長時間のプレイが、身体的にも精神的にも悪影響を及ぼすことは否定できない。eスポーツのメリットだけでなくデメリットにも目を向けるべきである。
5つ目は、「地域のeスポーツへの理解度」についての問題である。現代日本のゲームに対しての一般論は「良くないもの」と考えられることが少なくない。特に若いころゲームに触れてこなかった高齢の世代ではその傾向がある(伊藤,p43)。しかし、昔と比べてゲームは多様化しており教育や福祉などの方面にも活用できるものが増えているため真摯な説明をすることで地域の理解を得ることができる可能性が高まる。
eスポーツのもたらすメリットとデメリットを考えながら取り組むを行う必要がある。
考察・提案
ここからは僕が思うことを書いていこうと思います。
まずeスポーツを広めるために行われるPCの貸し出しについてです。横須賀市も同じ取り組みを行っていたり、小田原市も最近小田原イノベーションラボにおいて貸し出しを始めました。僕はこのような取り組みをさらに大きくするべきだと考えています。先述した事例にもあるように、現在数少ないゲームカフェのような事業は珍しく、話題性があると思います。特に若者にとっては魅力的な場所になると考えられます。小田原市では週1回4時間のスペースの開放を行っていますが、これからその時間を増やすべきだと思います。ただ、行政が行うにしても個人が行うにしても、その時に起こる運営方法、場所、法律、お金の問題は課題です。このような課題があるから規模を大きくできないと僕は思っています。場所という点に関しては、小田原市民会館跡地の活用というのはどうでしょうか?
次に教育の視点です。この視点からはサードプレイス論が有用だと感じます。例えば不登校の子供がゲームを通じて仲間ができ改善されることはあり得ることだと思います。また、侘美(2022,p61)は、学生が地域のゲームイベントの運営側になることによる学生への教育的効果に言及しています。この事例は、今後eスポーツイベントが広まることで現実的・実用的に行えると考えられます。
次に福祉の視点です。この視点では既に多く述べられているように認知症の予防に活用できたり、高齢者と若者の交流が行われる可能性があったりすると思います。ほかにも、高齢者のゲームプレイ・実況は、ギャップによる話題性があり地域活性化に活用できると考えます。ただ、高齢者の理解、実際に行ってもらう人がいるのかという点で非常に難しいと思ってます。
次に使用タイトルについてです。先述したように地域活性化では既に有名で、多くの人がプレイできる環境があるタイトルの使用が良いと考えられます。小田原市では「ポケモンユナイト」を主としており、「ポケモン」のブランドや多くのデバイスでできることで広い世代に受けていると思います。しかし、20代くらいの若者を集めるには過激なタイトルも必要だと考えてます。特にPCでできるタイトルが魅力的で、ヴァロラントやApexは人気です。
世代によっていくつかのタイトルを使い分けることが重要だと思います。
最後に、これからの小田原eスポーツの取り組みについての案を考えてみました。
eスポーツに否定的な人たちの理解を得ることができるような施策を行う(多くの人は肯定的だからそこまで大きな課題ではないと感じる)。
観光資源各地や商店街での大会開催(小田原城杯とか)。
賞金付き大会を開催し、賞品を市内で使える商品券にする。
eスポーツに限定せず、ボードゲームやカードゲームもやってみる。
市職員の中でレベルの高いプレイヤーを育成する。その職員との対戦会を開催し、勝利すればいいこと(ex小田原城入場無料とか)がある。
四天王みたいな職員のPR 。話題性を得る。
高齢者とゲームを通じたイベントを開催。
学生がゲームイベントの運営をする。
以上、実現可能性を考慮していないただの素人学生の提案です。eスポーツの特性は、場所を選ばないことや誰でもできることがありますが、観光行動につなげるとなるといろいろな場所でイベントを行うことが効果的だと思います。そういう味ではボードゲームやカードゲームは適さないかもしれません。商品券に関しては地域経済活性化を意図してますが、法律やお金の課題があると思います。
終わりに
調べる前はすぐにいろんな場所でイベントをすれば盛り上がると思っていたのですが、認知・発展には時間が必要でじっくり進めることが必要なんですね。小田原市が今後どれくらい力を入れて取り組むのかや内情はわかりませんが、僕はかなり面白い魅力的な取り組みだと思っています。政策でも確かだれ一人取り残さないデジタル化社会を目指すようなことがあった気がしますからそういう意味もあるんでしょうか。
はじめはこんな長く書くつもりはなかったのですが、結構長くなってしまいました(*^_^*)。読みづらい文章だったと思いますが、
ここまで見てくれて本当にありがとうございました。
参考文献・資料
伊藤慎一・臼木智昭(2021)「地方創生を目指した eスポーツイベントにとって重要となる因子の分析 ~地方創生をめざしたゲームイベントの開催理解について~」『秋田大学高等教育グローバルセンター紀要』(2021),39-46
侘美俊介(2021)「地方都市における「eスポーツ」を活用したまちづくりへの試論 ~「サードプレイス」論を手掛かりに~」『稚内北星学園大学紀要』22,81-99
侘美俊介(2022)「地方都市における「eスポーツ」を活用したまちづくりの可能性 ~稚内北星学園大学「eスポーツ部」の実践を事例に~」『稚内北星学園大学紀要』23,45-66
岡安学(2022)「eスポーツで観光を盛り上げる? 小田原市が若年層リーチ狙う施策でいざ出陣」『マイナビニュース』(オンライン)2022年12月20日アクセス
<https://news.mynavi.jp/article/20221115-2513889/>
伊藤綾(2022)「eスポーツが地域活性で果たす大きな役割とは? 神奈川工科大学でシンポジウムを初開催」『マイナビニュース』(オンライン)2022年12月20日アクセス
<https://news.mynavi.jp/article/20221114-2500346/>
BCNeスポーツ部「eスポーツを横須賀の文化に【前編】【後編】 市主導の観光プロジェクトで地域に根付く高校eスポーツ」『BCNeスポーツ部』(オンライン)202212月20日アクセス
<https://esports.bcnretail.com/highschool/220817_000720.html>
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