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奢れる者も久しからず
お店を手伝うようになって、お酒をご馳走になる機会には恵まれるようになった。
「〇〇でメシを食う」活動のため、ギャラはメシ(お酒含む)で頂いているし、お仕事中に「よかったら一杯どうぞ」と言われることもあるので、二重でゴチになっている。
「よかったら一杯どうぞ」と言ってくれるお客さんの中には、見返り無くご馳走してくださる方もいる。
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私を酔わせて得することなんてないのに、表面的でさえ見返りを求めない時点で、かなり粋だと思う。
実世界にいるカオナシ
ご馳走してくださる人の中には、周囲にマウンティングしはじめ、ダークサイドに堕ちてしまう人もいらっしゃる。あんなに気前良さそうな人がどうして?…と意外に思っていた。
昔に観た「千と千尋の神隠し」にカオナシというキャラクターがいる。自分から店に入れないくらいの小心者(?)が、気を引くために金品をチラ付かせて、チヤホヤされるうちに肥大化して迷惑客になるという流れ。
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当時は、なぜそんなキャラクターを出すのか意味が分からなかった。今となって思うのは、現実世界にいる迷惑客のリアルな描写だったんだ。
贈与論っぽく捉えてみる
お客さんが生ビールを注文して、お店に500円を払う。このやり取りは、お客さんが価値を認めた上でなされる等価交換だ。
お客さんから500円の生ビールをご馳走されるのはどうか?…仮に、お姉さんが横に付いてくれるタイプのお店だと、接客サービスと「1杯よろしいかしら」の相殺までが織り込み済みなので、依然として等価交換かもしれない。
でも、そういうサービスは提供していないお店の場合、商品取引だけで等価交換が完結しているのに、さらにご馳走されるのは贈与だと感じる。しかも、そう頻繁にご馳走されないお店だからこそ「有り難み」がある。
店員の立場からお返しすることは難しい。せいぜい「ありがとうございます」「ごちそうさまでした」とお礼を言う程度。施しを受けた店員から見て、無礼をされても強く言いにくい心理は働く。
なぜそんな事をするのか?…きっと対等な人間関係の築き方を知らないんだろうというのが私の考察。招き入れてもらえるまで自分から店に入れず、借りた言葉でしか表現できず、贈与でしか関係性を築けないカオナシのように。
奢れる者も久しからずや
平家物語に出てくる「驕れる人」は、人を見下してわがままになる人を意味していた。飲食店でビールをごちそうする意味での「奢れる人」が「驕れる人」へと堕ちることは、何らかの関連を感じる。
「驕り」と似ているものに「誇り」があります。ともに「自分が優れていると思う気持ちを外に出すこと」を言いますが、「驕り」はさらに一歩進んで、それを「当然だと思う」ことを言います。
奢ることは、「自分が優れていると思う気持ちを外に出すこと」を「当然だと思う」ことができる手っ取り早い手段だ。清盛も財力で地位を買ったし、カオナシも金品で人を惹きつけたけれど、どちらも久しくは続かない。
程度の違いはあれ他人事には思えない。誰しもが承認欲求を持っていて、程度の違いはあれど優位に立ちたい気持ちは理解できる。それだけに、カオナシ的に振舞う人を見るたびに「明日は我が身よ」とも思う。
その裏返しで、奢っているのに驕らない人はめっちゃ尊い。どこか別の立場でお会いする機会があれば、その人のお役に立ちたいと思う。
ちょうどよい中庸があるはず
そんな話題について飲食関係の方とお話していたら、「奢りもせずに驕ってくる人は山ほどいるので、奢ってくれるだけマシ」と言っていた。なるほど、下には下がいる。
正反対のケースとして、スナックでもないのに奢ることが当然になるという状況もどうかと思う。隣町だとカウンター越しの大将に「1杯どうぞ」と言うのが当然になっている。感謝を示す儀式的に強要されるのは、チップのある文化国に旅行するくらい気が重い。
お客さんからすると実質の支出が増えるので、財布に余裕がない時は足が遠のく。これはお店の持続可能性としても、久しからずではなかろうか。
両者の間くらいに粋な奢り方・奢られ方があるんだろう。実のところ、私は驕る立場に安易に身を置くことに違和感があり、あまり奢らない人ではある。いつかスマートに奢れる人になりたいという憧れはある。
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