「Mank」を見てから体験する、映画「市民ケーン」
映画「Mank マンク」を見たので、そのまま世界映画史上ベストワンと評されることも多い「市民ケーン」を見てみた。
「Mank マンク」を見てから見て良かった……!
多分、この映画をなんの予備知識もなく見たところで「なんでこの映画が傑作って言われてるの???」ってなってしまうところだった。
要は当時の人にとってみたら、この映画って、私が初めて「ダークナイト」を見た時の「なんだこのカメラワークと音楽の融合……」とか、初めて「シックスセンス」を見た時の「なんだこのシナリオの構成は……!」っていう感動を一気に味わったっていうことなんだと思う。
「市民ケーン」が当時の人に刺さった要素は、
・フラッシュバック(物語の進行中に過去の場面を組み入れるモンタージュ手法で市民ケーンの中では、謎解き要素に使われている)
・超クローズアップ、クレーンショット、パンフォーカス、ローアングル、ハイ・コントラストなどの撮影技法
・オーソン・ウェルズが25歳から70歳までのケーンを見事に演じた特殊メイク
そして、実在の人物とスキャンダルを描いたというそれこそゴシップ的な要素。
おっ、これ技術は上がってたけど「Mank マンク」でも使われてた手法じゃん!と気付いたときに、あぁ、見といて良かったな。と思った。
逆にまっさらな状態で見たら、「いや、何にも目新しくないし何で世界映画史上ナンバーワンなんだ???」って、当時の人の気持ちにまで想像が及ばなかったと思う。
あと、「Mank マンク」を見たときに「なんだこの映画全然わからない……」ってなって時代背景と、ケーンのモデルになったウィリアム・ランドルフ・ハーストのことを調べたことも、「市民ケーン」を面白く見れた一因だと思う。
【ハースト】は新聞の購読者数を増加させるために、キューバの暴動に関する記事を多く掲載したり、真実を伝えるものよりも市民感情を煽るショッキングな記事を採用した。例えば、スペイン軍がキューバ人を強制収容所に入れ、彼らが疾病と飢えで苦しみ死んだなどという捏造記事やでっち上げ記事で民意をコントロールし、スペインとの戦争(米西戦争)までを引き起こすきっかけになったとか。(マジかよ……SNSの無い時代はメディアが戦争まで起こせたのかよ……)
「市民ケーン」の中の最初の方で描かれていた。
【ケーン】の二番目の妻になる歌手は、「Mank」にも出てきた女優のマリオンだなってすぐにわかったのも大きかった。
マリオンは50代の【ハースト】にひと目で気に入られて、【ハースト】は彼女のパトロンになって、マリオンのためにわざわざ映画制作会社(コスモポリタン社)まで設立したとか。
「市民ケーン」の中では歌手のためにオペラ座を作ってしまう【ケーン】になるほどなぁ、うまく脚色してるなと。
【ハースト】は、強引にマリオンを映画女優に仕立て上げデビューさせただけでなく、自社の記事で彼女を大々的に宣伝したんだけど、その露骨なすぎる売り出し手法は大衆をおおいにしらけさせる結果となったのも、市民ケーンで描かれてた。
そりゃあ、ハーストもマリオンも映画差し止めようと圧力かけるわ……なるほどなぁ……って「Mank」の解像度も上がった。
「市民ケーン」は確かに1941年の人々に衝撃を与えたんだろうけれど、2022年を生きる私への衝撃は無い。
代わりに過去の時代の解像度をものすごく上げてくれて、きっとこの先古典を見るときに大いにこの経験が役立つんだと思う。
それにしても、この前見たフェリーニの「甘い生活」もそうだったし、よくよく考えたらフィッツジェラルドが1925年に発表した小説「グレート・ギャツビー」もそうだったんだけど、金や権力を持った男が愛に飢えて死んでいくのは、当時普遍的なテーマだったんだろうか……。そんな作品結構多いよね……。