#0054 COP28から思う:脱炭素政策と釧路湿原保護の調和
昨日、日本では自民党の裏金問題や内閣不信任決議などのニュースでいっぱいでしたが、世界は脱炭素化への大きな一歩を踏み出しました。産油国であるUAEで開かれたCOP28で「化石燃料」からの脱却が明確にされたことは、人類の未来にとって非常に重要な進展であるニュースです。
しかし、この歓迎すべき変化は、平地が少なく急峻な山が多い島国での太陽光発電所の無理な開発に拍車をかけることにも繋がりかねず、私たちの貴重な自然環境、特に釧路湿原のような奇跡の自然にどのような影響を与えるかを考慮しなければなりません。今日はCOP28のニュースから釧路湿原を守ることを考えたいと思います。(2676文字)
○ニュース要約
日本経済新聞の記事を箇条書きでまとめると以下の通りです。
・28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)は、アラブ首長国連邦(UAE)で開催され、重要な成果文書を採択した。
・この文書では、約10年間で化石燃料からの転換を目指すことが盛り込まれた。
・2030年までに再生可能エネルギーを現状の3倍に拡大する方向性が明記された。
○日本の地理的制約
日本の国土は「山地」と「丘陵地」を合わせると約7割を占めています。特に、標高500m以上の地域も国土全体の4分の1を占めており、これは日本が山地や起伏の多い地形で構成されていることを示しています。
一方でフランス、ドイツ、イギリスでは、標高500m未満の平地が広大に広がっています。
地図で両者の高速鉄道(新幹線・TGV)を追っていくとわかると思いますが、新幹線は特にトンネルが多い。開発中のリニアもかなり高度な技術を必要とする大規模なトンネル工事を要します。
・太陽光発電所の適地が少ない
基本的に太陽光発電所は平地に開発する方が合理的ですが、山がちな日本では森林を伐採して斜面に設置するといった開発行為が増加しています。数年前に熱海市で発生した土石流も太陽光発電所の開発が引き金になっていたはずです。
・風力発電所の適地も少ない
風力発電所の設置に適した土地も限られています。風力発電所の設置には、平地または遠浅の海域と安定した風況が必要ですが、日本の国土の多くは山地や丘陵地で占められており、山や丘陵、建物の影響を受けて風況が安定しないため、陸上風力発電所の適した土地は少ないです。
さらに、風力発電に適した遠浅な海域も限られています。日本の周辺は深海が広がっており、浮体式の洋上風力発電技術が注目されています。この技術は、深海域での設置が可能で、視界への影響を減らし、強風の恩恵を受けることができます。
これらの事情から、日本における風力発電所の設置可能な場所は、他の国々と比較して限定的であると言えます。特に、陸上風力発電の場合、地形的な制約があり、海上風力発電についても、深海域に適した技術の開発が求められています。
このように太陽光発電所や風力発電所を整備するのに適した土地が少ないという状況をまずは理解しておく必要があると思います。
○奇跡の自然:釧路湿原
釧路湿原はもともと海でしたが、6千年前から海が後退して西港から大楽毛にかけての海岸に砂丘ができ、次いで湿原ができました。
通常、湿原は徐々に陸地化して乾燥し、なくなってしまいます。釧路湿原には湧き水が多数あり、川は高低差がなく、蛇行を繰り返しています。川の水かさが増すと蛇行部分から一面水浸しになり、土砂が溜まって湿原ができます。時間が経てば陸地化するのが一般的ですが、釧路湿原は植物の根や葉が分解されずに残ってできた泥炭質(10年で1cm堆積し、4000年が経過した現在は4m)で形成され、大量の水分を含んでいるので、陸地化しにくいのです。
釧路湿原は、屈斜路湖から流れる釧路川、摩周湖からの伏流水、阿寒方面から毛細血管のように流れる小川、釧路湿原内には水のループができています。泥炭で川の流れが変わりやすいため、陸地化しようとすると木々はすぐに湿原に戻ってしまうのです。
釧路湿原には年間に100日以上、霧が発生します。釧路沖で暖流(黒潮)と寒流(親潮)がぶつかることが原因です。霧で覆われるため釧路湿原は気温が低く(夏でも20度を超えることは滅多にない)、天然の冷蔵庫になり、釧路湿原では高山植物のような植生を見ることが出来る貴重な環境なのです。
このように人間が一朝一夕では作りこむことが出来ない資産が釧路湿原なのです。
○環境保護と脱炭素政策のバランス
しかし、この唯一無二の自然は、現代のエネルギー政策の波に飲み込まれつつあります。太陽光発電所の開発は、クリーンエネルギーへの移行を加速させる一方で、釧路湿原のような貴重な自然環境に影響を与えています。私たちは、環境保護とエネルギー政策をバランスさせなければならないという新たな問題を抱えているのです。
○なぜ霧の多い釧路に太陽光?
霧の多い釧路で、なぜ太陽光発電所の開発が行われるか。
まず、まとまった広い土地が低価格で購入できるので、かつてあった固定買取制度(FIT)で開発して、プロジェクトファイナンスで資金調達すれば、比較的容易に資金収支計画を立てることができます。雪が少ないので、除雪コストも嵩みません。
更に冷涼な気候が太陽光パネルにとって好都合という事情もあります。太陽光パネルの最適な動作温度は、パネルの表面温度が25℃のときとされています。この温度を超えると発電効率は低下する傾向があり、特に結晶シリコン系の太陽光パネルでは、1℃の上昇につき発電効率が約0.4%から0.5%低下します。夏の気温が30℃を超えると、太陽光パネルの表面温度は70℃から80℃に達することもあり、このような高温状態では発電効率が大幅に低下します(砂漠に太陽光発電所が少ないのはそのため)。
○まとめ
釧路湿原には100日以上霧が発生しますが、この自然の冷蔵庫は、珍しい生態系を育てています。この豊かな生態系は、私たちが簡単に再現できるものではありません。脱炭素化の進展は歓迎すべきですが、釧路湿原のような貴重な環境の保全を無視することはできません。
脱炭素政策と自然環境の保護は、相反するものではなく、共存するものでなければなりません。釧路湿原の保護は、単に自然環境を守るだけでなく、私たちの文化と歴史の一部を守ることを意味します。このバランスを見つけることが、真の持続可能性への鍵なのではないのかと考えています。