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小高パイオニアヴィレッジ5周年記念イベント後編:第二部 トークセッション レポート

さる3月2日、小高パイオニアヴィレッジ5周年トークイベント「地域の創造性と建築〜小高でなぜ連鎖的プロトタイピングが起こるのか〜」が開催されました。
本記事はそのイベントレポート後編 第二部 トークセッション 編になります。

第一部のまちあるき偏のレポートはこちら

はじめに:OPV5周年の御礼

小高パイオニアヴィレッジは2019年にオープンした、コワーキングスペース・ゲストハウス・ガラス工房を複合した拠点です。

地域の起業家を中心とした事業創出の拠点としてはじまり、現在は外から相双エリアに来る人の交差点のような場所として活用されています。

構想や立ち上げの段階から現在に至るまで、地域内外問わず本当に沢山の方に応援いただき、この度5周年を迎えました。

改めてありがとうございます。感謝感激雨霰です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

イベントの背景:5年間の足跡を振り返り、これからの構想を生み出す

今回は、改めて小高パイオニアヴィレッジのそしてできてからのインパクトを棚卸しするために開催いたしました。

登壇者は弊社代表の和田智行、一社パイオニズム理事但野謙介さん、建築家の藤村龍至さんです。

この建物がどのような思いのもと構想され、過程を経て生み出され、未来を創造するのか。
本イベントレポートにてハイライトでお伝えしていきます。

第二部:トークセッション 地域の創造性と建築〜小高でなぜ連鎖的プロトタイピングが起こるのか〜

左から、弊社代表和田、小高パイオニアヴィレッジの設計を担われた藤村さん、OPV設立に尽力いただいた但野さんです。

第二部トークセッションは日が落ちた18時代にスタート。
会場には30人、オンラインでも10人のかたがご参加くださいました。

第一章:和田さんと但野さんの起業家人生を紐解く。

和田さんは東京の大学卒業時に、インターネットの隆盛と、就職氷河期が重なります。
家業は継がないため、地元に戻るためにIT領域で起業。
起業家人生の始まりはあくまで「消極的対応」だったと語ります。

他方、但野さんは社会に問題定義を投げかける報道記者となります。
その後、公共領域のコンサルタントを経て、地元に議員として戻ります。
地域の電力産業への依存に危機感を感じた彼は、産業の転換による雇用経済の維持という、数十年がかりの難題に身を投じようと決意しました。

自分の生業を作る和田さんと産業転換に挑む但野さん。
一見すると全く異なる二人と藤村さんの出会いは、震災後に発起した「福島第一原発 観光地化計画」構想がきっかけになります。
広島やチェルノブイリなど「負の遺産」から学びを得る「ダークツーリズム」を軸に、数十年後の福島について議論する場を南相馬で開きたい、と但野さんに依頼が舞い込みます。
地域も未だ非常事態で、なおかつ依頼内容は非常にデリケートなもの。
現地での唯一の協力者として、シンポジウム開催まで漕ぎ着けました。
そこで構想メンバーの藤村さんは和田さん・但野さんと、出会います。

第二章:小高パイオニアヴィレッジの構想は、当時の復興政策に対するアンチテーゼだった。

時は2014年、和田さんは小さなコワーキングスペースを開きます。
PC一台で働き、既存の仕事や組織、地域を変える人が集い、被災地の閉塞感を打破することを狙いました。
日中のみ活動できる復興の初期段階では、他にもガラスアクセサリの事業、仮設スーパー、食堂の立ち上げなど、「マイナスをゼロに」する事業を次々と立ち上げます。

避難指示の解除も行われ、「ゼロからプラスへ」の段階に移行すべく、南相馬市が復興拠点 「小高交流センター」の設立を計画します。
意見交換の際、和田は「多世代交流施設」に見合うようコワーキングスペースの整備を主張したものの、蓋を開ければ端に小さくあるのみ。
担い手世代が重視されてないと感じ、自らで拠点づくりを決心したそうです。
このエピソードに会場は笑いに包まれますが、行政担当者の方は思わず苦笑い。

但野さんは除染、賠償、巨大なハコモノなど近視眼的な復興政策に異を唱え、和田さんと共に地域の未来を創る起業家のための拠点を構想します。

コワーキングスペースをより拡大したい。外から来る人が泊まれる機能がほしい。工房機能がほしい。キッチンは絶対必要。イベントができるようにしたい。交流をメインの価値に。建物は地域の変化に適応できる造作にしたい。
和田さんと但野さんはほしい機能、やりたいこと、地域のビジョンを全て藤村さんにぶつけます。
藤村さんも全てを受け止め、共に模索を重ねていった結果、2019年に小高パイオニアヴィレッジが産声をあげます。

特徴的な雛壇。人の集う場として活用されます。

第三章:OPVを取り巻くコミュニティの価値とは。

藤村さんはOPVを「起業家のたまり場」と表現し、自分が出がけた建築物の中で一番「いきいき使われている」と高く評価しました。

和田はそれに対し、起業家支援のプロでなくとも、起業家同志のコラボレーションや切磋琢磨ができる魅力的な「コミュニティ」の重要性を説きます。
OPV、ないし小高は”フロンティアを開拓する”というコンセプトに人が集まっているので、価値観を共有しやすいとのこと。

但野さんも、自身の鎌倉での創業経験を元に、起業家が集う生態系づくりこそが、補助金よりも時に有効であることを振り返ります。
その証拠に、起業家たちの挑戦により暮らしが豊かになった結果、移住者や誘致した事業者の定着率が良くなっていると但野さんは述べていました。

和田さんはローカルビジネスを生み出し、但野さんはスケール性のあるスタートアップを生み出す。
一見真逆の取り組みはこの地域での暮らしを豊かにする点で通底しているのです。

第四章:連鎖的プロトタイピングの再現方法

イベントもいよいよ終盤へ。
復興の出発点、地域の拠点、支援制度等、さまざまな変数がある中、成功要因の抽出を試みます。

和田さんは、10年活動した上での方程式として「コミュニティ」x「暮らしの豊かさ」x「創業支援の質」を上げました。
一般的に日本では難しい「自己実現」が一番できるフィールドが小高であり、OPVであると主張。

但野さんは、能登半島沖地震の際の南相馬市行政の迅速職員派遣を例に、官民どちらもまず動き、学習し、改善するサイクルを回す風土が醸成されている事に着目します。
小高パイオニアヴィレッジも「プロトタイプ」の考えで作られており、ここから飛び出るプロジェクトや起業家の取り組みにも思想として影響しているると分析しました。

その話を受け、藤村さんは小高パイオニアヴィレッジの名称について言及します。
当初、OPVが「ヴィレッジ」から一般的に想起される言葉とはだいぶ異なる雰囲気になった事に対し、和田がこの1か所で完結せずどんどん広がっていって、どんな村になるのかも予測がつかないから、「これがいいんです」と評価いただいたことを回顧します。

コワーキング、宿泊、工房。
用途も利用シーンも異なる利用者が回遊し、混ざり合う「境界が曖昧な建築」偶発的な組み合わせが生まれ、素晴らしい仲間と出会える。
そして更なる連鎖的プロトタイピングが生まれゆく。

小高に生まれた、小高パイオニアヴィレッジという建築がもたらす創造性の価値が、再認識されたと藤村さんの締めくくりでトークセッションは幕を閉じました。
ゲストの藤村さん、ご参加いただいた皆様、そして今までお力添えをくださった皆様、本当にありがとうございました。
これまでも、これからも、末長く小高パイオニアヴィレッジをどうぞよろしくお願いいたします。

編集後記

司会を務めました野口です。 
改めて、和田さんや但野さんから語られる小高パイオニアヴィレッジにまつわるエピソードは胸を打つものがあります。
それだけでなく、藤村さんが当初の国の政策や建築的な潮流も解説してくださり、この建築物の意義に関し、会場の皆様の解像度も高まったかと思います。

この場所は公共施設とは異なり、意思ある方々の利用料により維持されています。
改めてこの熱量を絶やさず、さらに多くの人と共有できるよう、邁進いたします。
皆様、これからもどうぞよろしくお願いいたします。

なお、前後の文脈を補足し大幅な加筆・修正を加えております。
フルバージョンに関してはこちらのアーカイブ動画をご覧ください。


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