第23節 横浜F・マリノスvsセレッソ大阪 2019.08.17(完全マリノス視点)
留学生のマルコス君は悲しみに打ち震えていた。同郷の親友であり最大のパートナーであるエジガル君が諸事情により帰国してしまってからというものの、あの頃のような情熱的なサンバを踊れないままでいるからだ。
いつかまた、蝶のように舞い・・・蜂のように刺してえなあ・・・
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■ボール保持4-2-4-0
深さを作って・降りて受けて・決定力もあるエジガルの不在が致命的なのは、21節・22節の2連敗を見ても明らかだった。大津を前線に張らせ深さを作ろうと試みるも、マルコスは相手2CHの片割れに監視され、また(CBがCFとマンツーになることを恐れず)2CBの片割れがマルコスに寄せてくるために、思うように仕事をさせてもらえなかった。この習性を利用した畠中らの縦パスが刺さることもあるにはあったが、回数は多くない。大津はいい選手だが、本職のエジガルほどの脅威を相手には与えられないということなのだろう。そしてマリノスはビルドアップの安定のために後ろに重心をかけている分、マルコスを徹底的に監視されると攻め手に欠け、非常に苦しくなる。どうやらマルコスシステムと呼ばれていたものは、エジガルなしでは成立しない「エジマルシステム」だったようだ。
三好と山田康太がチームから去り、新戦力が起用できるようになった今節、ボス(ポステコグルー)は布陣を大きく変えてきた。遠藤渓太に代えマテウスを起用、中央はマルコスとエリキを並列に並べる4-2-4。セレッソの4-4-2に対してマリノスは4-2-4なので、システム的には噛み合うが、マルコスとエリキはインサイドハーフのような位置取り。4-2-4-0と表現した方が分かりやすいかもしれない。いわゆるゼロトップのため、21節・22節で主に大津が任されたような深さを作ることはせず、CH~CBの中間に2人配置することによってライン間で浮く形を取る。
こうすることによって、エジガル離脱後のマルコスシステムよりはいい形でマルコスに縦パスが入るし、前を向けるようにはなった。最終ラインにギャップができれば、ウイングやサイドバックやボランチがそこを狙っていく。確かに、能動的に相手を動かしてギャップを作る動きは乏しかったかもしれないが、それは今節だけではなくエジガル離脱後のマルコスシステムにも言えることだ。チームとして狙っていること自体は、4-2-3-1や4-1-2-3のときと変わっていない。いろいろな意見があるけれども、個人的には「ボスは全くブレていない」と感じた。
■ボール非保持4-2-4
相手のビルドアップ時は、4-2-4のまま前から同数プレスをかける。主にファーストプレスに行くのは勝手知ったるマルコスで、このやり方は思ったよりは機能したと感じた。前半は縦パスやサイドへのロングボールも狩れたし、後半も相手にロングボールを蹴らせ、ボールを回収することにも成功していた。シンプルに相手と噛み合わせた4-2-4の前プレは、新加入の選手にとって理解しやすく、やりやすかったのだろうと思う。
■マテウスとエリキ
マテウスは、キレのあるドリブルで対面を剥がせるし、クロスもたいへん素晴らしいものを持っている。彼のクロスは、GK~DF間に放り込むにはうってつけの球速と弾道だ。プレー選択が適切かどうかは置いといて、判断スピードも早い。それが突拍子も無いシュートやクロスに繋がるのだけれど、それと引き換えに相手に考える時間も与えない。最近のマリノスにはあまりいなかったタイプの選手なので新鮮だったし、どこか懐かしさも感じた。そして渓太は、マテウスの登場により「縦に抜ける」だけではないプレー選択の実装を迫られている。ここにきて、また新たな課題を突きつけられたのは間違いない。
エリキに関しては、ウイングの選手であるにも関わらず、ちょっと前までなら三好や天野がやっていたようなポジショニングを初戦でいきなり任されたのである。明らかにマテウスより戦術理解を求められ、難易度も高い(それならば大津や中川風希の方が良かったのでは?とも思うが、夏の補強の仕方から鑑みても、恐らくボス的にはここにウインガータイプを置きたい/置くしかない、ということなのだろう)。それでもこなれた後半は幾度となく見せ場を作り、唯一”お互いを知っている”マルコスへのアシストも記録した。77分20秒のシーンのように、実際にライン間で縦パスを引き出せるようなポジショニングもできていた。適応能力は案外高いのでは、と推測している。
ただ、チャンスでボールに触れることによってバイブスをみるみるブチアゲていったように(それに伴いプレーも右肩上がりに良くなっていった)、メンタル的にはムラがあるのかもしれない。自分を含むマリノスサポーターは、チャラいSNS系ブラジル人プレーヤーに良い思い出はないが・・・。
そして守備面。シーズン途中にコンセプトの全く違うチームに放り込まれてたった数週間で、既存の選手と遜色ない連動したプレス、撤退守備、それに準じたハードワークが初戦から遂行できるのなら、キャンプや練習は必要ないのではないか。仮にそれができる選手だとしたら、彼らの渡航先は日本ではなくヨーロッパだろう。今はもうシーズンの佳境なのだから、こればかりはやりながら覚えてもらうしかない。春先のティーラトンを思い出していただきたい。
■(質で)殴って何故悪いか
乱暴な言い方をすれば、左サイドのコンビネーションで守備ブロックを崩そうが、質的優位に頼ってサイドを蹂躙しようが、得られる結果は結局のところ同じなのである。というか1人で何とかできるなら、その方がいいに決まっている。1人で数人を引き付けることができるなら、その方がいいに決まっている。「マルコスに前を向いてボールを持たせること」「マテウスに仕掛けられる状態でボールを持たせること」「喜田のターンで相手2列目裏へ抜けること」はたまた「裏ケアをチアゴのスピードに任せること」は、いずれも質で相手を殴る為の有効な方法論であり、そこに線引きや差は存在しない。
エジガルが離脱してしまった今、「中央圧縮の4-4-2を崩すのは難しいから質的優位で蹂躙して相手の守備ブロックにギャップを作ろう」というアプローチの仕方は、マリノスの目指すスタイルから別段逸れてはいない。
■スタッツで見てみても
スタッツで見てみても、ボスが信念である”アタッキングフットボール”を放棄していないだろうことが推測できる。
前回のnoteで挙げた項目が以下。
○ボールを持たされるな
(支配率は高くても70%程度)
○ティキタカすんな
(パスの回し過ぎ注意・1試合650回くらいが限度)
○縦パスやロングフィードを狙いたくなる位置にいろ
(ロングパス40回以上が理想)
○勝ちたければシュートを16本ちかく打て
総シュート数のうち、6本は枠内に打て
総シュート数のうち、9本はエリア内に侵入して打て
○ドリブルに頼るな。相手を動かして崩せ
(ドリブル回数は15回くらいが限度)
○デュエルを回避できる状況を作れ
(デュエル勝利数は45回くらいが限度)
○ビッグチャンスを3回は作れ
これらの項目は冗談半分くらいで受け止めていただきたいのだが、21節・22節とは違い「今シーズン勝ってきた試合」とそこまで遜色ないスタッツを記録していたことは、頭の片隅に留めておきたい。
■まとめ
ポステコグルーは何も諦めてはいないし、別に心を乱してもいない。15年ぶりのリーグ制覇に向けて、逆転への道は着実に作られている。
To Be Continued
(名古屋戦へ続く)