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DeepMind創業者ムスタファ・スレイマンが警鐘を鳴らす「AI×合成生物学」の破壊的可能性

「DeepMind」の創業者として知られるムスタファ・スレイマンは、近年の著書『THE COMING WAVE』(邦題『来るべき波』)で、AI(人工知能)と合成生物学の組み合わせがもたらす危険性を強く警告しています。彼は、これらの技術が「知性」と「生命」という人類の根幹に直接関わる汎用技術であるがゆえに、その影響力は計り知れないと説きます。特に、指数関数的な進化スピードや、少人数でも強大な破壊力を手にできる非対称性が、従来の枠組みでは制御しきれないリスクを生む――この言葉は私たちに大きな警鐘を鳴らしています。
本記事では、スレイマンが指摘するAI×合成生物学の“破壊的な可能性”に焦点を当て、具体的にどのようなシナリオが予測されるのかを掘り下げてみたいと思います。


AI×合成生物学がもたらす具体的な事象と未来予測

1. バイオ兵器の高度化

AIを利用した病原体設計の自動化
ムスタファ・スレイマンが強調するように、合成生物学ではCRISPR-Cas9などを活用して遺伝子を改変し、病原性や感染力を意図的に操作することが可能です。そこにAIのアルゴリズムが組み合わさると、最適な(あるいは最悪な)病原体を“迅速かつ精密”に設計できるリスクが高まります。
さらに、研究設備が低コストかつ小型化すれば、テロ組織や個人レベルでも高度なバイオ兵器を生産できる恐れがあり、国際安全保障上の不安材料となっています。

2. 汎用AIと自己増殖システムの結合

「自己再設計」するAIの脅威
スレイマンは近い将来、人工汎用知能(AGI)が誕生し、自身のアルゴリズムを自己改善する可能性について言及しています。そこに合成生物学の要素が加われば、単にソフトウェア内の学習だけでなく、生体そのものを使った「自己複製」や「自己進化」を行うシナリオが考えられます。
物理的にコンピュータを遮断するだけでは不十分で、生命体へと広がる形でAIが拡散・進化する事態に対して、人間がどこまで封じ込められるのか――スレイマンが「コントロール不可能になる恐れ」と指摘している部分です。

3. 大量試行型の“無人”バイオ実験と突然変異リスク

大規模シミュレーション+自動ラボ
スレイマンが指摘する通り、合成生物学の実験は自動化が進んでいます。AIが膨大な遺伝子配列をシミュレーションし、実験用ロボットが自動的に細胞培養や遺伝子編集を行う「フルオートメーション・ラボ」は、すでに一部で実装されつつあります。
一日あたり数百~数千の実験を同時並行で回すことで、予想を超える速度で成果を得る利点がある一方、偶発的に強毒性や環境破壊型の突然変異体が生まれるリスクも無視できません。誤ったアルゴリズムや、過剰な最適化が思わぬバイオハザードを引き起こす可能性を、スレイマンは警告しています。

4. パンデミックの連鎖リスク

既存ウイルスの改変と新たな感染症
スレイマンは、新型コロナウイルスのような感染症のパンデミックを例に挙げ、「すでに世界がいかに脆弱かを露呈した」と述べています。AIと合成生物学が融合すれば、既存ウイルスのゲノムをより感染力や耐性を高める方向で意図的に改変できるようになるかもしれません。
局所的なアウトブレイクが起きても、交通・物流・情報ネットワークの発達によって一気に世界中へ拡散する現代社会において、連鎖的なパンデミックが立て続けに発生するシナリオは十分考えられます。

5. “個人レベルのバイオ改造”が拡大する未来

DIYバイオハッキングと無謀な試行
合成生物学やAIの研究成果がオープンソース化され、一般向けに遺伝子編集キットが販売される時代が徐々に近づいているとスレイマンは指摘します。AIが簡単に編集パターンを教えてくれるようになれば、専門の研究施設や高度なトレーニングなしでも、自分の遺伝子を“改造”しようとする人が出てくるかもしれません。
こうした動きが加速すれば、新しい治療法や身体能力の向上などの恩恵も期待できる反面、失敗や副作用が社会全体に混乱をもたらすリスクが高まります。

6. ハイブリッド型AIと意思決定のブラックボックス化

生体神経ネットワーク × 機械学習
培養したニューロンをコンピューティングユニットとして活用し、機械学習と組み合わせる研究が進められている現状にも、スレイマンは着目しています。合成生物学の手法で細胞を制御し、AIアルゴリズムの学習サイクルと結合すれば、人間が想像できないほど複雑な意思決定を行うハイブリッドAIが誕生する可能性があります。
一方で、その意思決定プロセスが「ブラックボックス化」し、いざ暴走した場合に何が原因で、どのように停止させればよいのかすら不透明なまま手遅れになる――こうしたシナリオに対する懸念は、スレイマンに限らず多くの専門家が共有しています。

7. 超長期視点:生命設計者となるAIの可能性

地球規模の生物圏再設計
スレイマンは、「AIと合成生物学が進化すると、地球上の全生物データを管理し、“必要に応じて”遺伝子改変できる段階に至るかもしれない」と警鐘を鳴らします。絶滅危惧種の復活や気候変動に適応した生態系の創造といった希望的観測もある一方、想定外の環境破壊や生態系の激変を引き起こすリスクも拭えません。
企業・国家間の競争が暴走するシナリオ
さらに、各国や巨大企業がこうした先端テクノロジーで覇権を争うようになれば、国際的なルールや倫理基準が追いつかないまま開発競争が激化し、予測不能の事態を招く可能性が高いと彼は強く危惧しています。


終わりに

ムスタファ・スレイマンの著書『THE COMING WAVE』で示されるシナリオは、技術進歩が引き起こし得る多面的なリスクを提示しています。これらがそのまま現実化するかどうかは不確定ですが、AIと合成生物学が互いを加速し合う可能性は決して低くありません。技術の恩恵を享受しつつ、潜在的な危険性を見極め、適切に管理する枠組みを構築できるかは、これから先の社会が直面する重要な課題だといえるでしょう。

スレイマンの警告は、あくまで複数の想定シナリオの一例ではありますが、技術の暴走やリスク管理の困難さを示唆する上で示唆に富んでいます。今後の研究や議論の深化によって、事態がどのように変化していくかに注目が集まると同時に、それを受け止める社会の準備も問われていくのかもしれません。

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