寿司とガンプラが示唆する、新時代の“欲望”と“矛盾”
先日、思い立って近所の寿司店に足を運んだ。なにげなく注文した大トロの値段が、以前と比べて妙に高い。ここ数年でじわじわと感じていた変化だけど、あらためて「こりゃ本格的に高級化が進んでるな」と確信した瞬間だった。
同じタイミングで目にしたニュースは、「ガンプラの海外需要が爆伸びして、国内のショップでは在庫枯渇状態」という話。欲しいキットは軒並みプレミア価格になり、もはや定価で手に入れるのは至難の業だという。
寿司とガンプラ。一見関係なさそうな二つの象徴が、なぜこうも同時に“手に届きにくい存在”になりつつあるのか? 背景には、日本文化の世界的評価の高まり――もっと言うならば、世界中の人々が「日本発の本物」を欲しがる時代になった、という事実が浮かび上がってくる。
欲しい人が殺到すれば、値段は上がる。たったそれだけの話。
まず寿司。日本に住んでいると当たり前のように感じるかもしれないけれど、海外では「寿司=ハイエンドな食事」というイメージが定着している。ちょっとオシャレなパーティーに呼ばれて出てくるのが寿司、みたいな世界観だ。そこに本気を出した海外勢が参入して、最高級ネタを獲得しようと競りに参加するようになったらどうなるか。そりゃあ値段が跳ね上がるのは当たり前だろう。
一方のガンプラも同じ。ガンダムは日本を代表するアニメ文化だけど、今やNetflixなどの配信プラットフォームを通じて海外ファンが急増中。しかもSNSで自作のガンプラ写真をアップすると「いいね!」が山のようにつく。国内で遊んでいた“おもちゃ”は、世界的に見れば高い芸術性とテクノロジーが結晶した“サブカルチャーの宝石”みたいな扱いになっているわけだ。欲しい人が爆発的に増えれば、当然ショップの棚からキットは消え、オークションサイトではプレミア価格がつく。
世界のどこでも手に入る時代の矛盾
僕は日頃から「ローカルの最先端」を見極めるために、可能な限り移動を続けるスタイルを実践している。国内外問わず、面白いものや新しい流れがある地域には、サクッと足を運んで現場を見る。そんな生活を続けていると、これまで“東京や日本でしか手に入らなかったもの”が世界各都市でも手に入る一方で、「日本にいても手に入らない」なんていう逆転現象にもしばしば出くわす。
要するに、こんなにもテクノロジーが進化してグローバル化が加速したにもかかわらず、欲しいものは“取り合い”になる。世界の誰もがネットを使ってサッと購入できる時代だからこそ、レアなものや本物には圧倒的なプレミアがつく。これってある種、21世紀型の“モノ不足”なのかもしれない。
歴史を遡ってみると、いつだって追いかけるのは“幻の逸品”
寿司だってもともと江戸時代に登場し、庶民が手軽に食べるファストフード的な要素もあった。ところが時代が進むにつれ、ネタの希少性がステータスになり、今や“幻の魚”だの“限定何本”だのといったプレミア合戦が繰り広げられている。
ガンプラも1980年代には、子どもが夏休みに作るおもちゃだった。だが大人が本気を出してカスタムし、イベントに出展しはじめたあたりから、「プラモデルは芸術だ」なんて言われるようになって、今ではSNS発信による海外からの参戦が加速。気づけば世界中のガンダムオタクが日本のガンプラを買い漁っている。
歴史を見れば、常に“希少なものを求める欲望”がドライブになる。江戸でも明治でも令和でも、欲しいものがみんなに狙われれば、それだけ値段が上がるのは必然だ。
持続可能性とテクノロジーの行方
それでも、未来はそう悲観することばかりじゃない。
寿司ネタの高騰を抑えるために、国内外で養殖技術が驚くほど進化している。完全養殖クロマグロや、陸上養殖でサステナブルに供給する仕組みが普及すれば、今の狂乱価格も落ち着いてくるかもしれない。
ガンプラの世界でも、3Dプリンタでパーツを自作するようなユーザーコミュニティが広がれば、バンダイ公式の生産ラインに頼らない新時代のモノづくりが当たり前になるかもしれない。すでに海外のガレージキットや独自改造パーツなんかも活況を帯びているし、これはこれで面白い進化だ。
結局は「需要が高まる→価格や希少性が上がる→新しいテクノロジーや仕組みで問題を解決する」というサイクルこそ、人間の歴史そのもの。寿司もガンプラも例外じゃない。むしろそこにこそ“まだ見ぬ可能性”が眠っているように感じる。
結論:手に入りにくいなら、新しい道を探ればいい
世界中の人々が日本の寿司とガンプラを欲しがる時代に生きているのは、悪い話ばかりじゃない。自分たちが楽しんできた文化がグローバルに認められ、それが新たなビジネスチャンスやテクノロジーの発展を促すのであれば、こんなに刺激的なことはない。
もちろん、値段が上がったり品薄になったりして「手が届かない!」と嘆きたくなる気持ちもわかる。しかし、自分が手に入らないなら、海外の人がどうやって手にしているのかを調べてみるとか、新しい入手ルートや一歩先行くテクノロジーに触れてみるとか、方法はいくらでもある。
人間が“本物”を求める以上、こういう激しい奪い合いは今後も続くだろう。でもそこにめげずにアクションを起こすヤツが、次のイノベーションを起こす。もしも寿司とガンプラがきっかけで、新しい時代の扉がまた一つ開くなら、こんなに面白い話はないと思わないだろうか。