2023.9.10 TWAオーストリア
2023年9月10日(日)、オーストリア・コイチャッハはピラミデンコーゲルでステアクライミング大会が開催されました。
木造建造塔として湖畔に聳え立つ光景は美しく、外観を楽しむも良し、登って湖畔を眺めるも良し、全空間を一挙に味わえる素晴らしいコースでの大会「Pyramidenkogel Turmlauf」の様子をお楽しみください。
大会概要
【会場】Pyramidenkogel 【高さ】70 【階数】12階 【段数】441段 【参加人数】160名 【参加国】オーストリア、イタリア、スロバキア、ポーランド、スロベニア、ドイツ、クロアチア、チェコ、フランス、ノルウェー、日本など
1人ずつ60秒ごとのウェーブスタート。スタートから160m(高低差約6m)のアプローチを経て階段へ入る。
大きく円を描くように緩やかな螺旋階段を登る。8.5階(340段付近)を過ぎると木の香り漂う室内へ入り、細かく切り返しながら屋上エリアへ。
出場選手
この大会はTWA(Towerrunning World Association)のワールドツアーに位置づけられている。地元オーストリア選手に加え、世界ランク上位のヨーロッパの強豪選手たちがエントリーした。
イタリアのFabio Ruga選手は歴も長く、昨年の世界選手権でも3位入賞した古豪。苦手な距離がなくどんな距離でも必ず上位に入ってくるオールラウンダーの印象が強い。7月のTWAフランクフルト大会では渡辺良治選手に先着している。
スロバキアのStefan Stefina選手は6月のTWAブラチスラバ大会で渡辺良治選手を破り優勝し、短距離での強さが際立つ。オーストリアのJakob Mayer選手は大会記録者で2019年に2'04"38を記録し、どちらも今回の優勝候補筆頭。
ヨーロッパの強豪たちが揃う中、日本選手たちも強敵。言わずもがな、階段王になる男・渡辺良治選手が最大のライバル。そして2021年に初参戦してから小山とは4勝4敗と五分の対決をしてきた加藤浩選手は今回もまた接戦の予定だ。
更には24歳で勢いのある高橋海輝選手、スケートと階段で二足の草鞋を履く戸取大樹選手がエントリー。一筋縄ではいかない、小山孝明のTWAワールドツアー初入賞をかけた戦いが幕を開ける。
作戦
もちろん目標は優勝。あわよくばコースレコードも視野に入れて、毎度のことながらコース状況とコンディションを併せてペース配分や通過タイム想定を行う。
このレースの特徴は160mのアプローチがあることと、規則性のある緩やかな螺旋階段だ。
160mのアプローチといってもただの舗装路ではない。高低差約8mで最大斜度は10%を越える区間もある。この区間の走り方によっては大きなダメージを残して階段区間へ入ることになるし、スローな展開だとシンプルなコースが故に後半区間で時間を取り戻すことが難しくなる。
ぶっちゃけ階段区間は規則性があるから早い段階でリズムを捉えれば最後まで勢い殺さずに登れる。最後の細かく切り返す区間はさほど気にせず考えた作戦がこう↓
◎アプローチは余力を持って通過
◎8階通過1分32秒前後
◎残り体力次第でスパート
アプローチは楽に入っても32秒程度で通過できる試算。4階までは2段抜かし、以降はピッチに切り替えて1段抜かし。おそらく全部走り切れるだろうから、段抜かしの切り替え時にどれだけ脚が残ってるかがポイントだと考えた。
後半の粘りが効くか否かは毎度出たとこ勝負ではあるが、今シーズンは比較的長時間のトレーニングを積んできたこともあり、持久力に磨きがかかっている。既にその成果は実証済みで、6月の東京タワー階段競走では自身3度目の優勝と、590段を走り通したことで後半の粘りにも自信があった。
前半の無駄を省きタイムを稼ぎつつ、かつ省エネで最後までスピードを維持したい。
①スタート〜階段入口
②階段入口〜8階
③8階〜フィニッシュ
分かりやすく3つのセクションに分けて、いつもながら心の声とともに解説する。
①スタート〜階段入口
高橋海輝→戸取大樹→加藤浩と続々と日本選手団が出走していく。フィニッシュした選手のタイムが順位と共に掲示される。
渡辺良治が後ろに控える中、何か喋りかけてくる。レース前だったのでいつもの如く右から左へ受け流したので何を喋っていたか覚えていない。
3・2・1・GO
聞き慣れた合図でスタートした。前日試走の感じそのままに気持ち良く軽快に疾走することができた。階段入口の手前、ちらっと時計を見ると「32秒」の表示。
◎スタート→階段入口 32"53 (全体9番)
②階段入口〜8階
予定通り2段飛ばしで進む。身体の動きが良いせいか、前日試走と比べて踊り場が詰まる。1.2mほどある踊り場の接地を0歩か1歩で迷ったが、欲張らず1歩置いて進むことにした。
1階あたりにかかる時間は7〜7.5秒というところ。さほどスピードもあげずに登っているが、いつ潰れるか分からない怖さと戦う。調子が良いからといってペースを上げることが、返ってマイナスに働く傾向がある。経験則からここはぐっと我慢して、あくまで予め決めたペースを貫く。
当初の作戦通り、4階を過ぎて10段あたりで1段飛ばしに切り替えた。一気にピッチが上がり、脚の負担よりも呼吸の乱れを感じた。
ここまで来ると乳酸も溜まり、徐々に動きの鈍りを感じ始める。それでも精一杯のペースかと聞かれれば、決して辛いペースではない。
◎階段入口→8階 1'04"22 (全体6番)
③8階〜フィニッシュ
8.5階を過ぎるといよいよ室内に入る。20段程度での細かい切り返しが続き、乳酸の溜まった脚に追い討ちをかけてくる。
はずだった。
余力が異常なまでに残っていたのは誤算だった。4階から1段飛ばしに切り替えたことで脚へのダメージが少なくなったのだと思う。
とにかく出し惜しみはしたくないので、残り数十秒のラスト区間は出せるものを出した。もちろん最後の計測マット通過は、チップの撒かれた左脚を出した。このコンマ数秒の足掻きが順位に関わることはこれまでのレースで何度も経験してきたので、予め計算していたフィニッシュだ。
結果
2分10秒58 総合4位
タイムは悪くない!欲を言えばもう少し前半突っ込みたかった。
区間ごとのタイム
①スタート〜階段入口 32"53(全体9番)
②階段入口〜8階 1'04"22(全体6番)
③8階〜フィニッシュ 33"83(全体7番)
念願叶って初のワールドツアー入賞でした!
自分のレースの振り返りよりも先に、渡辺良治のタイムに感服。この超短距離レースでこれだけ差をつけられるとは思わなかったわけだが、今回のレース内容を考えると決して届かないタイムではない。
各区間のタイムそんなに速くないけど、「総じてタイムを落とさなかった」のが良かった。
後半失速もせず、なんなら少し上げられたのは持久力がついたとも言えるし、前半アグレッシブに攻めることができなかったとも言える。良くも悪くも「らしさ」が出なかったのは少々悔やまれる。
この光景は何度見たことか。僅か0.11秒差に戦友、加藤浩。1人ずつのウェーブスタートは見えない敵と戦うわけだ。これも面白さであり難しさ。
今回の遠征は7名の大所帯。前日はみんなで同じ家に泊まって買い物いったりご飯作ったり。ひとたびスタートラインに立てば睨みを効かすライバルたちだけど、いいよね、こんな関係も。
次戦は中6日でドイツ・ロットヴァイル!
高さ232m、決して得意とは言えないレースに挑みます。
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