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機械も回路も光学もソフトも設計できない電機メーカー開発職の処世術

概要
筆者は一般的な設計スキルである機械も回路も光学もソフトのいずれも設計できません。そんな状態で電機メーカーで開発職を5年続けているが、一体どんな仕事をしているのか?
開発部署には技術的知識を要する雑用が山ほどあるというのが結論。
そんな電機メーカーに勤めている(将来的に勤めるつもりだ)が自分のスキルに不安を抱えている人に向けた記事


前置き | 自分の環境について

この記事は機械、回路、光学、ソフトのような具体的な設計スキルを持たない自分の体験談です。
ひとつの個人的な例ではありますが、似たような境遇の方やこれから就職する方、転職する方と体験を共有できればと思い記事にしました。

記事に入るまえに前提となる自分のバックグラウンドを簡単に説明すると…
普通科の高校を出て、国公立大(非宮廷)の物理学科に進学。
そのまま内部の大学院に進学して、2年かけて修士取得後に電機メーカーに就職。
開発系の部署に配属されて勤務歴5年になるのアラサー。
自分で言うのもなんですが、理系大学生の辿る王道ルートかと思います。

会社は関東近郊の田舎にある従業員数千人程度の中堅電機メーカー。
自分の勤務地は主要生産拠点の一つとなる千人程度の従業員を持つ工場。
典型的な日本の電機メーカーかと思います。

前置き | 社内にいる開発者たち

私が学部生くらいのときにやんわり抱いていた電機メーカーの開発職のイメージは
■機械
 CADでモデル作ったり図面書いたり。賢い人は熱計算とか強度計算とかもできちゃう。
■回路
 CADでモデル作ったり図面書いたり。賢い人は回路シミュレータとかもできちゃう。
■光学
 なんか難しそうな専用ソフト(?)で設計とかする。
■ソフト
 制御用プログラムばっか作っている。

というお粗末なものですが、そんなに外れていない気もします。(怒らないでね)

自分が所属している開発を受けもつ部署は100人程度の人員ですが、上記のような機械、回路、光学、ソフトの設計スキルを持つ人は半分くらいというイメージです。
これは思ったより少ないという印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
これは私の部署に限ったことではなく、割と似たような会社は多いかと思います。

そもそも、人員のうち10%くらいは管理職で開発業務は全く行いません。
そうすると残りの40%がこの記事が対象にしているような即戦力技能であるところの機械、回路、光学、ソフトの設計を行っていないわけです。
しかも彼らは別に落ちこぼれとか仕事がないとか、出世コースから外れるということも特にありません。
彼ら(私も含む)は一体どんな仕事をしているのでしょうか。

私(たち)の仕事

ここからが本題です。
なんとなく開発現場は機械、回路、光学、ソフトの設計者+管理職がいれば回っていきそうな気がしますが、現実はそうでもありません。
実際私が受け持っている幾つかの事例を紹介しながら説明していきたいと思います。

私(たち)の仕事 | 1. 企画をまとめる仕事


開発という仕事は基本的にはプロジェクトを複数人のチームで進めていくことになります。
そのときにプロジェクト全体をまとめるような役割が絶対に必要になります。もちろんそれは管理職の役割なのですが、そこまで面倒を見切れないことがほとんどです。
だからいって、例えば機械設計の人に設計に加えてそんな仕事を与えるかというと、あまりそんなこともありません。何より彼らは設計業務が常に山積みになっていて、それを順番に片付けていくことで精一杯です。

ということで、割とふらふらしていて、何となく全体のことを知っているような人が欲しくなります。
こういった仕事を与えられた人は、必要に応じて設計者の人工を集めてきたり、各設計者の間を取り持ったり、プレゼン資料を作ったり、スケジュールを管理したり、予算を調整したり、、、そういった雑用重大な役割を担うわけです。

私(たち)の仕事 | 2. 企画を立てる仕事

企画立案は企画部の仕事です。が、実際には弊社では開発部署からの立案が全体の半分程度を占めます。
マーケティングや顧客要求を元に立案する企画部に対して、開発部署からは最新の技術動向や、別企画で確立された新技術のスピンアウト企画なんかが立案されます。

こういった新しいテーマを探して、練り上げて、立案まで持っていくには、やっぱり割とふらふらしていて、何となく全体のことを知っているような人が欲しくなります。
そして、だいたい立案してそのまま取りまとめも任されて、というのはありがちなパターンです。

私(たち)の仕事 | 3. 開発で設計に付随する仕事

1の企画をまとめる仕事で"雑用"というような言い方をしましたが、他にもっと設計以外の仕事というのはいっぱいあります。

例えば開発に付き物の特許。設計者もまとめ役も、開発している技術については詳しくても特許については素人に毛が生えた程度というのが常です。
どのように特許を出していくのが効果的か、他社からはどんな特許が出ていて侵害の可能性はないのか、というところを調べるのは大変に骨が折れる仕事です。
場合によっては、知財を専門とする部署が仕事を受け持ってくれる幸運なこともありますが、そのときにも専門部署や弁理士さんとの綿密な打ち合わせが必要になります。

開発している物は当然製品化して市場に出ていくのですが、そのためには各種法規制や規格を遵守している必要があります。こういった仕事は膨大な書類を作る必要があり、結構みんなから敬遠されがちなんですが、誰かがやらないといけません。

私(たち)の仕事 | 4. マイナーで専門的な知識が求められる仕事

”機械も回路も光学もソフトも設計できない”と自虐的なタイトルを付けたのですが、一応私も物理修士を取っており、汎用性は低いですが、どこかでは役に立つ知識を持っています。稀なケースですが、その知識が活かせる仕事というのもあります。
これは勤めているメーカーと自分の専攻との相性次第というところでしょう。
超電導材料の物性研究や恒星の赤外発光スペクトルの測定とかが役立つ場面は、機械設計に比べて圧倒的に少ないことは確かです。。。
あまり多くの機会はないかもしれませんが、本当はこういった仕事がしたくて自分はメーカーにいるのかなと思います。

とはいえ、自虐的にならずに自分の武器を磨いておくことは大変有用なはずです。特に物理学科の学生は学部生の勉強内容は電機メーカーにおいては活躍の可能性が十分にあると思います。
もうちょっと電磁気学を勉強しておけば、製品からの電磁ノイズ低減の話が分かったのに…とか、
粉末冶金の検討をするときに熱力学で習ったギブスエネルギーの知識が役だったりとか、、、

少なくとも開発職に就く人は最新の技術に強い興味がないと(適性がないとまでは言いませんが)あまり面白い仕事はできないんじゃないかと思います。
そして私たちがターゲットにする最新の技術というのは基本的に大学の研究の範疇を抜けて産業化されようとしている技術です。どの技術が産業化の可能性があって、どの研究が工業的に価値があるのか、を見出すには物理学や化学の基礎的な知識が不可欠になります。

理系学生は研究室入ってからがナンボ。3年生までの勉強は単位取れてればOK。みたいな風潮がなんとなく私が修士のときにはありました。
これは割とアカデミックな立場からの見方な気がします。実際に社会に出てからは、どちらかというと広く浅い知識が必要な場面が多く、学部のときはギリギリで単位を集めていた自分は悲しい思いをすることが多いです。
社内外問わず、色んな人と技術的な話ができるようになるだけでも収穫は多いです。
学生さんはぜひ勉強がんばって欲しいなと思います。

結論

色々書いてきましたが、結論としては
「設計ができなくても仕事なんていくらでもあるよ!」です。
雑用みたいな仕事はいっぱいあるのですが、専門的知識を要する雑用だというのがミソなのかと思います。
設計者間での伝言ゲームを受け持つみたいな雑用はとてもよくあるのですが、そのときにも大体でいいから設計知識は必要です。
企画を立てるときには、その製品の設計はできなくてもいいですが、設計難易度くらいはなんとなく把握できないといけません。

そういった仕事は機械屋さんとか電気屋さんにもできるのでしょうが、彼らはそういったことはあまりやりたがらないし、他の専門的仕事を与えられがちです。
そのおかげ(?)で私みたいな人間が働くことができている。というのが多くの国内電機メーカーで見られる光景なのかなと思います。
というわけで、設計スキルというのは素晴らしく役立つものだというのは間違いないですが、開発者に必須ではないというのが実感です。機械屋さんは電気もソフトもできないし、ソフト屋さんは機械がチンプンカンプンだったりします。その中になにもできない人がいても、案外なんとかなるんですね。

個人的な意見ですが、スキルをもってバリバリ設計する人より、その合間で人間関係を取り持っている人のほうが偉くなりやすいのが日本の会社だとも思います…

以上、他の畑の方や学生さんには想像しにくいであろう、設計できない開発者の存在についてなんとなく感じていただければ幸いです。
特に学生さんには私みたいになりたいのか、なりたくないのか、一つのサンプルとして参考にしていただければ、駄文を書いた価値があったかなと思います。



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