乗り気ではなかったが人から誘われて行った・やったことの一覧

 小さな頃から、人からの勧めや誘いは、できるだけ断らないことをモットーとしてきた。私は基本的に内向的な性格で、好きな飲食店の条件が「券売機のある店」または「セルフレジの店」だったりするのだが、食事や飲み会の誘いはどうしても行けない場合を除き、二つ返事でOKする。マラソン大会とかも、休めそうな日に誘われればだいたいエントリーする。
 なぜそうしているかというと、自分の興味関心の中だけに世界が閉じていくのを恐れているからだ。SNSのエコーチェンバーに支配される現代ではなおさら、他人の価値観に思い切って相乗りすることが、閉塞感を切り開くための数少ない手段となっている。
 そこで、この機会に「乗り気ではなかったが人から誘われて行った・やったこと」を回想してみることにした。ただし、以下に列挙するのはチケット代や参加費を自分(または自分の親)が支出したものに限る。

三枝夕夏 IN dbのライブ

 中学生の頃、年上の従兄弟に誘われた。三枝夕夏は、名探偵コナンの主題歌を歌っていた女性歌手。「三枝夕夏 IN db」はバンド体制での活動名義で、「IN db」は「インデシベル」と読む。同じレコード会社の先輩にあたる倉木麻衣や愛内里菜が美人お姉さん系だったのに対し、三枝夕夏はアイドル系の可憐なビジュアルをしていた。
 ウィキペディアのライブDVD情報を見るに、この時の会場は恵比寿LIQUIDROOMだったようだが、9割以上の観客が成人男性だったので、体感ではキャパ600人くらいの、もう少し狭い会場だったように記憶している。160センチ台の私は、背伸びしてようやく演者の頭が見える状態だった。
 今も鮮明に覚えているのは、「ジューンブライド~あなたしか見えない~」という曲を演奏する前に、三枝夕夏さんがウェディングドレスに着替えて登場したときのこと。ステージに戻る彼女を迎える声は、歓声ではなく「どよめき」だった。9割男性の観客の間に流れる空気が、瞬時に張り詰めるのが分かった。
 あの時少なからぬダメージを受けた人たちは、20年近く経った今、どうしているだろうか。三枝夕夏さんはメチャクチャかわいかった。

Sound Horizonのライブ①

 高校の頃、オタッ気のあるクラスメイトにALI PROJECTの新しいアルバムの話をしたら「アリプロが好きなら絶対聴いてほしい! ライブもあるから良かったらどう?」と、驚きの速さでアルバム『Moira』を布教された。
 CDを一巡した時点ではいまいち気乗りしなかったものの、ライブは同作の楽曲をミュージカル風に構成・演出したもので、ゲストボーカルを務めた宇都宮隆が出てきたりして、見どころが多く楽しめた。陛下・Revo様の意外と親しみやすい人柄にも好感を持った。庶民的な話ぶりと作品世界とのギャップが人気の理由のひとつなのだろう。
 ただ、友人含むほとんどの観客が、Sound Horizon Kingdomの「国歌」を歌詞を見ずに歌い上げる様子には、内心かなり動揺していた。帰りに執事と令嬢風(?)の、独特の手のつなぎ方をしているカップルを見て、この人たちは一体どんな生活をしているんだろうと思ったのも印象に残っている。

Sound Horizonのライブ②

 上記と同じ友人から誘われた。今回は『Moira』のような形式ではないと予告されたが、この頃、別の友人がカラオケで「Ark」のセリフパートと歌唱パートを上手に歌い分けるのが面白くて気に入っていたので、「Ark」が聴ければ良いかと思って行くことにした。
 しかし、彼らの紡ぐナラティブにそれほど惹かれていなかった私は、Sound Horizonのディープな歴史(当時すでに10年近く活動していたらしい)に打ちのめされる結果となった。歌や演奏の上手さが魅力のグループではないので、楽曲に愛着がないと楽しめないのである。
 しかも、直前にあった部活の大会で疲労困憊だった上に、まさかのアリーナ最前列。途中、Revo様がMCで「皆さーん、まだまだ元気ですかー? なんか、元気ない人もいるようですけど(笑)」と私信(自意識過剰)を送ってきたことが今も忘れられない。演者にも他のファンにも本当に申し訳ない気分だった。
 友人とはその後クラスが離れて、卒業後は連絡をとっていない。何年か経って、紅白歌合戦に「紅蓮の弓矢」で登場したとき、母が「なんとかホライズンって、あなたが最前列でヘトヘトになったライブの人でしょ?」と言い出したのには笑った。

高校の同窓会

 友人から「OBから同窓会で楽器を演奏するよう頼まれたが、一緒に演奏するメンツに話し相手がいなくて辛いから来てほしい」と懇願された。
 私は高校が望む種類の進学先に行けなかった、いわば失敗作の大学生だった。高校の公式サイトの進学実績のページで「その他の私立大学」にカウントされた人が、同窓会に参加した例が未だかつてあっただろうか。在学中にたくさんの友達がいたとか、部活で活躍したとか、そんなことも全然なかった。人に誇れる点がなにひとつない私には、この上なく気が重い誘いだった。
 結局、友人は演奏仲間と普通に談笑していて、その他の私立大学生はひとりで肩をすくめていた。各界で活躍するOBたちから多数の名刺を受け取った後、かような輝かしい人脈の中に自分が入ることは永遠にないのだろうと思い至り、だいぶ惨めな気持ちになった。

伝説巨神イデオン(全39話)

 出会い系で知り合った人が「ぜひ見てほしい」と、頼んでもいないのにDVDを全話分貸してくれた。ガンダムをはじめとする富野由悠季監督作品を一度もちゃんと観たことがなかったので、良い機会だと思って視聴を決めた。
 ストーリーの大要は、地球人と異星人が戦う宇宙戦争もの。序盤は物語のテンポの遅さと主人公たちの幼い言動に苛立って、10話まで進むのに3ヶ月近くかかったが、シリアスな人間ドラマが描かれるようになった中盤からは、続きが気になって毎晩少しずつ観られるようになった。
 ラストは打ち切り感というかヤケクソ感がすさまじかった(実際に打ち切られており、最終回は劇場版で補足された)が、名作と呼ばれる所以は理解した。堅物の女性学者と敵対勢力の異星人との恋愛描写と、彼らの凄惨な顛末が特に印象に残っている。子供向けロボットアニメの体裁維持との葛藤が随所に表れていて、そういう面でも面白かった。
 そうはいっても、全39話は長かった。今から教養をつけるために観るなら、劇場版だけで十分だろう。


 今のところ、思い出せて、かつ公に書けるネタは以上である。他にも思い出したり、新たな体験をしたりすれば加筆するかもしれない。

いいなと思ったら応援しよう!