レビヤタンシステム 第1講 Awesome Oscillator
はじめに
ビル・ウィリアムズとエリオット波動論を基にした手法について
何回かに分けて解説する。
Awesome Oscillatorからはじめて、Alligator、Fractals と回を重ね
最後にこれら3つを組み合わせた実戦的な戦略について書く予定だ。
ビル・ウィリアムズの市場哲学とトレード手法は3冊の書籍に詳しい。
・Trading Chaos: Applying Expert Techniques to Maximize Your Profits,1995
・New Trading Dimensions: How to Profit from Chaos in Stocks, Bonds, and Commodities, 1998
・Trading Chaos: Maximize Profits with Proven Technical Techniques, 2004
このうち2冊目のみ邦訳がある。
相場の達人―常勝のカオス思考 (2002)
3冊目は1冊目の第2版という位置づけだが、娘との共著であり
新しい内容が書き加えられていて、トレード手法そのものも
大幅にアップグレードされている。この講で解説するAwesomeも
次回取り上げる Alligator も開発されたのは1995年以降なので
1冊目の中ではそれらのもととなったインジについてしか書かれていない。
Awesome と Alligator の詳説は2冊目の New Trading Dimensions からだ。
このことから、もし日本語訳しか読んでいないとすれば
ビル・ウィリアムズのトレード手法に関する理解は限定的であろう。
ビル・ウィリアムズのインジケーターの成り立ちには
彼の市場哲学が深く関係している。それを知ることなく
彼のトレード手法を採用するのは片手落ちの誹りを免れない。
3冊の著作のいずれも半分かそれ以上が「マーケットとは?」
「トレーダーとは?」という実存的考察で占められている。
とは言いつつ、それを詳説する暇と根気は私にはない。
自分で調べることができるように、キーワードだけ紹介する。
ビル・ウィリアムズは、フラクタル幾何 Fractal Geometry と
カオス理論 Chaos Theory、非線形物理学 Nonlinear Physics で
マーケットの値動きの秘密を解明しようとしたパイオニアである。
フラクタル幾何やカオス理論が実証される以前の従来のテクニカル分析は
線形的(アリストテレス的、ユークリッド的、ニュートン的)であるから
マーケットを解明することができなかったという立場をとる。
この立場によると、相場分析はナンセンスである。
予想や予測は一切しない。なぜならそれは不可能であるから。
トレーダーがマーケットの動きとシンクロして一体化するとき
はじめてあるべき正しいトレードができるというのである。
優位性があり、勝ち続けることができるトレードということだ。
川の流れやダンスのたとえをビル・ウィリアムズはよく使う。
相場と戦うのではない、ダンスするのだ、と。
チャートの流れに身を委ねて、ゆったり流れてゆけばいい、と。
荒波や逆流に逆らって泳ごうとするのではない、一緒に流れるのだ、と。
Awesome Oscillator (AO)
第1版では、オリジナルなパラメーターを使うMACDだった。
さらに、Market Facilitation Index (MFI) を併用していた。
これもビル・ウィリアムズが開発したインジケーターである。
その後オリジナルMACDとMFIを統合し改良が加えられ
進化を遂げたのが Awesome Oscillator (AO) である。
期間 5 の単純移動平均線と期間 34 の単純移動平均線を使う。
MACDがEMAであるのに対しAOはSMAである。
いまひとつの相違点として、MACDのように終値ベースではなく
(高値+安値)÷2 で計算する。つまり、AOは、半値がベースである。
5 と 34 はフィボナッチ数列である。次回の講で改めて説明するが
ビル・ウィリアムズのパラメーターは全部がフィボナッチ数列だ。
5 SMAは、価格(ローソク足)にぴたりと寄り添って移動する。
34 SMAは、第2講で解説するAlligatorの顎とほぼ同じ曲線を描く。
Alligatorの顎をBalance Lineといって、ローソク足がこの上を推移するときは
買いが優勢、下にあるときは売りが優勢と判断する。委細は次講で。
つまりAOは、価格(ローソク足)がBalance Lineの上であればプラス圏
下ならマイナス圏であることを2色のヒストグラムで表しているのだ。
このように、AOは相場のモメンタム(勢い)を可視化する。
市場参加者が各自の判断によって買いと売りを決めるとき
カオスが生まれる。新たな状況とそれによる新たな情報と言い換えていい。
新しい情報は、出来高に変化をもたらす。
出来高の変化は、モメンタムのスピードに変化をもたらす。
モメンタムのスピードの変化は、モメンタムに変化をもたらす。
モメンタムの変化は、価格に変化をもたらし、価格は動く。
この一連の相場の流れをAOはひと目でわかる形で可視化する。
基本的な使い方
AOのゼロラインは、買いと売りのバランスが保たれている状態を示す。
マーケットがいわゆる ”fair price” (適正価格)に落ちついている。
よって、価格はほとんど動かない。一般的にレンジとか保ち合いという。
ゼロラインを挟んで勢いのないヒストグラムが推移しているあいだは
トレードを控える。カオス到来を待つべき局面だ。
カオス(=新たな情報)がマーケットに投入されるとその結果
AOはゼロラインをクロスしてプラス圏あるいはマイナス圏を移行する。
AOのヒストグラムがピークをつけて失速し始めると
プラス圏では緑色のヒストグラムが赤色に転じる。
マイナス圏では赤色のヒストグラムが緑色に転じる。
そのときのトレンドの状態によって2つのことを示唆する。
1.ポジション保有中であれば、そろそろ利確ポイントである。
2.比較的長いトレンドが続いたあとであれば、反転ポイントが近い。
物理学の観点から言うと
一方向への勢いが失速すると同時に反対方向への勢いが加速する。
勢い(モメンタム)は価格に先駆けて変化するので
AOがプラス圏あるいはマイナス圏で色変わりすれば
やがて価格が反転することの先読みである場合が多い。
よって、トレンド転換狙いの逆張りエントリーに使うことができる。
ビル・ウィリアムズのその他のエントリー手法
New Trading Dimensionsには、AOを使ったエントリー手法が
他にもいくつか解説されているが、私のレビヤタンシステムでは
それらを使わないので、ここでは省く。興味があれば
「Awesome Oscillator Twin Peaks」「Awesome Oscillator Saucer」で
ググってみることをおすすめする。例えば、以下がヒットした。
● Awesome Oscillator By Bill Williams - Best Strategy Guide
● Top 3 Best Awesome Oscillator Trading Strategies
● Top 3 Awesome Oscillator Strategies
【追記】
のちに書いた以下の記事を参照されたい。
客観的エリオット波動カウント
ビル・ウィリアムズの手法ではないが、AOを使って
エリオット波動を瞬時に客観的にカウントする裏ワザがある。
これについては、以前に記事を書いた。そちらをお読みいただこう。
そのとき書かなかったことをここでひとつ補足する。
エリオット波動を1波から5波までカウントするには
最低でも100本のAOのバー(つまりはローソク足)を要する。
これはいま開いているチャートの時間軸で100本という意味だ。
日足なら100日、1時間足なら100時間、1分足なら100分。
言い換えれば、日足でエリオット波動を1から5まで追いかけると
3ヶ月以上、1時間足でトレードするなら1週間ほどのスパンになる。
別の視点で考えると、1時間足における2本連続陽線(120分)は
1分足に落としてみれば、エリトット波動1~5を形成しているはずだ。
Awesome Oscillatorは「ウォールストリート・ジャーナル」の朝刊を
1日早く読むに匹敵する、というのがビル・ウィリアムズの口癖であった。
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