【SRPGStudio】実効命中率は用量用法を守って使いましょうという話

 こんにちは、『SRPGStudio製ゲーム何も考えずに実効命中率を採用するな委員会』の者です。今日も元気にSRPGStudioでゲームを作っていますか?

 さて、表題の通り、我々『SRPGStudio製ゲーム何も考えずに実効命中率を採用するな委員会』は、ファイアーエムブレム(以下FE)シリーズで採用されてるし、なんかよさそうだからとりあえず入れておこうぐらいの雑な理由で導入された実効命中率システムを厳しく取り締まる活動を日夜続けております。

 無論、スクリプトひとつひとつを熟考の上で導入している紳士淑女の皆様におかれましては、明確な意図を持ったうえで実効命中率システムを導入するか否かを決めていることと思いますが、なぜ実効命中率を採用するのに一考が必要か、啓蒙のためにnoteに書き連ねておきたいと思います。

 この記事が皆様のより良いゲーム製作の助けになれば幸いです。


1.そもそも実効命中率って何


 まず、実効命中率とは何かについて、おさらいしておきましょう。
 実効命中率とは、FEシリーズで採用されたり、されてなかったりする、表示されている命中と、実際の命中率が異なる仕様のことです。
 具体的には、攻撃の命中判定の際に、「0~99の乱数を2回振って、その平均値を表示されてる命中の値と比較する」という仕様らしいです。伝聞のため、細かい数値などが異なっている可能性はあります。

 ここでのポイントは、命中が50より大きければ実際の数値よりも当たりやすくなり、命中が50よりも小さければ実際の数値よりも外れやすくなること。
 例えば、表示の命中が80だった場合、本当の命中率すなわち実効命中率は92.20%ほど。逆に表示の命中が20だった場合、実効命中率は8.20%ほどになります。
 結構差があるのが、おわかりいただけるでしょうか。

 さて、何でこんな仕様があるかというと、人間の体感と、実際の確率には乖離があるがゆえに、「AIはズルをしている!」とクレームを入れる人が出てきてしまうからなんですね。

 例えば、命中率80%を1回でも当てれば倒せる敵がいたとして、2回とも攻撃を外す可能性は4%しかないわけです。
 あぁ、おっしゃらないで。
 闘技場で敵の必殺率が4%もあったら即座にキャンセル。4%とはそういう数字。もちろん私は分かっておりますとも。
 ですがフリーゲーム、インディーズゲームとは、えてして厳しい意見をぶつけられがちです。プレイヤーが不運にも低確率で最悪な出目を引いてしまったとき、感想欄などに「味方の80%の攻撃を2回とも外した挙げ句に敵の30%の攻撃にあたったせいでユニットをロストして、そこでやる気が無くなって投げてしまった」みたいなコメントを残されてしまうものなのです。
 そして、あなたのゲームをプレイする人が増えれば増えるほど、そういった低確率で起きる不運な展開というものの発生頻度は上がっていきます。

 ですが、実効命中率のシステムを入れておけば、命中80(実効92.2%)で2回とも攻撃を外す確率は0.61%ほど。不運な目にあうプレイヤーの総数を減らせるわけですね。
 これについて、実効命中率の有用性について調べた論文があり、『数学的確率に対する主観確率の誤認知に関する研究』(日本デジタルゲーム学会(2015) 西條由起、遠藤雅伸)では、"実効命中率は理想的な誤認知を起こす"として、実際の数値よりも実効命中率のほうが、プレイヤーの満足度が高いことが示唆されました。

 おお、なんて素晴らしい仕様なんだろう。これは入れなきゃ損だ。
 本家だって採用してるし、これは批判するやつがおかしいよね。

『SRPGStudio製ゲーム何も考えずに実効命中率を採用するな委員会』は、その風潮に「待った」をかけたいのです。
 おそらくFEシリーズは、様々な要素を吟味し、リスクを踏まえたうえで、あえて実効命中率の仕様を組み込んだと思われます。
 つまり、あなたのゲームには、実効命中率の仕様は不向きな可能性があるのです。

 ではここからは、実効命中率の問題点について説明していきましょう。


2.実効命中率の魔法はとうに解けている


 FEシリーズにおいて実効命中率が有用なのは、この仕様がコアなファンにしか広まっていないからだと言えるでしょう。
 実効命中率は、表示の命中率から処理を捻じ曲げて、体感の命中率に近づけたもの。
 すなわち、実際の命中率を知らないからこそ、体感の命中率と実効命中率が近づくのです。
 本当の数値を知っていれば、今度は「実際には命中率92.2%なのに、ずいぶん外すな……」という不満が発生します。この問題については、先に挙げた論文の中でも指摘されています。
 つまり、実効命中率は、その存在を知らない相手にのみ通用する接待なのです。

 ところで、フリーゲームやインディーズのSRPGをプレイする層って、どういう人達なんでしょうね。
 もちろん初めてのSRPG体験がフリーゲームになる人もいるとは思いますが、実効命中率の仕様を知っているコアなSRPGユーザーも大勢いるでしょう。むしろSRPGStudio製のゲームで遊ぶ人たちは、そういう「もうFEは何周もしたよ」って人たちのほうが主流なのではないでしょうか。
 そしてそれほどのコアなファンなら、実効命中率のことを知っていてもおかしくはないはずです。

 あなたのゲームのメインターゲットがどういう層なのかにもよりますが、ヘビーユーザーには実効命中率の魔法は通用しないと思ったほうがよいと私は考えています。

 バレてる人は実効命中率の有用性について理解してるだろうし、ユーザーフレンドリーのためにも実効命中率を入れておいていいんじゃない?
 そう思う方もいらっしゃるでしょう。
 もちろん、最終的な判断について私が口を出す権利はありません。
 ですが、実効命中率を採用するデメリットも踏まえた上で、採用するか検討したほうがよいと考えています。

 では次に、具体的なデメリットについて説明していきましょう。


3.実効命中率は、つまりは嘘命中率である


 悪意のある表現をすれば、実際の数値と表示されている数値が異なるのは、システムが嘘をついてることになるのではないでしょうか。

 これは個人的な体験談になりますが、FEシリーズにおける実効命中率の仕様を最初に知ったとき、私は結構ガッカリしました。
 ああ、”また”表記と内部処理が違うシステムをやったのか、と。

 また、というのは、トラキア776において、追撃必殺係数と初撃の必殺率上限という、ゲーム上でどこにも表記のない隠しデータが仕込まれており、それを知っているかどうかで戦略難易度が変わるという苦い経験を過去にしているのです。
 どういう仕様か軽く説明しておくと、「1回目の攻撃は表記された数値に関わらず、25%を上限とする」「追撃時はキャラごとに設定された追撃必殺係数(0~5)の数値をかけ合わせたものが実効必殺率となる」といったものです。

 例えば、こちらが必殺率50%で、追撃を含めて1回でも必殺を出せばボスを倒せる状況があっとしましょう。何も知らずに追撃必殺係数が0のキャラで攻撃を仕掛けた場合、初撃の必殺率が25%、追撃の必殺率が0%となるため、まあボス撃破を狙った攻撃はたいてい失敗するわけです。

 この必殺まわりの仕様は、知っていれば逆に「やっつけ負け対策で追撃必殺係数0のキャラを壁にする」などの運用が出来るのですが、通常のプレイではまず知り得ない情報であることを理由に批判されることが多い印象があります。

 もちろん、「トラキアの仕様は悪意が多いけど、実効命中率はプレイヤー有利にするための接待でしょ?」という意見もあるでしょう。
 ですが、表示されている数値と、実際の数値が違うというのは、悪い言い方をすれば、数値を信じたプレイヤーを騙す行為に他ならないのではないでしょうか。

 この手の嘘の表記は、一度手を付けるとプレイヤーに不信感を抱かれる原因になります。つまり、「他でも何かズルしてるんじゃないの?」と疑われる原因になるわけです。

 こういった言説については、「いや、プレイヤーが有利になるように、善意でやったんだよ」と反論してもよいかとは思います。
 ただ、必ずしもプレイヤー有利になるとは限らないことは、知っておかねばなりません。

 次は実効命中率の有無によって判断が分かれるケースを、具体的に見てみましょう。


4.実効命中率の有無によってバランスが変わる


 よく言われているのは、単純な実効命中率(GBA形式)だと、回避型のキャラが有利になることです。具体例を出して見てみましょう。

・命中25の敵の攻撃を4回受ける位置にユニットがいる。そのうち3回当たると死んでしまう。安全をとって後ろに下げるべきだろうか。

 SRPGでよくあるシーンですね。
 では、実際の死亡率がどれくらいあるのか、実効命中率ありなしで比べてみましょう。

 実際の確率pの攻撃を4回受けたときに3回以上当たる確率:
  実効命中率なし(p=25.00%):約5.08%
  実効命中率あり(p=12.75%):約0.75%

 どうでしょうか。
 もちろん場面によってゴリ押すかどうかの判断は変わるとは思いますが、私でしたら死亡率が5%を超えてるなら安全をとってユニットを下げます。
 ですが、1%にも満たないようなら、強引に押してしまうことも多々あるでしょう。敵の必殺率1%の攻撃を1回受けるようなものですから。

 もう少し極端な例にしてみましょうか。

・迎撃で10体の敵部隊を殲滅できそうだ。だが命中10の攻撃を10回浴びることになり、2回当たれば死んでしまうだろう。無茶をさせても大丈夫だろうか。

 これもSRPGでよくある、強ユニットでの地雷戦術ですね。
 たぶんソードマスターとかでしょうか。

 では、こっちも実際の死亡率がどれくらいあるのか、実効命中率ありなしで比べてみましょう。

 実際の確率pの攻撃を10回受けたときに2回以上当たる確率:
  実効命中率なし(p=10.00%):約26.39%
  実効命中率あり(p=  2.10%):約  1.77%

 どうでしょうか。
 まさに桁違いの死亡率の差といってもいいんじゃないでしょうか。
 私だったら、このような状況のとき、実効命中率があるゲームかどうかで判断を変えます。

 ここまで差があるとなると、育成計画から変わってきてしまうでしょう。
 防御の高いアーマーナイトなどを育てるよりも、回避の高い剣士やトルバドールを育てて森とか山に放り込んだほうが楽そうです。 
 このあたりが、実効命中率があると回避型が有利になるといわれる理由ですね。

 ちなみにifなどの最近の作品は実効命中率の仕様が変わっており、50%未満の判定の場合は実効命中率を使わなくなっているそうです。
 そうすることで、回避型のほうが強い問題を解決してるんですね。

 さて、実効命中率の有無は、攻撃面にも影響があります。
 こちらもちょっと見てみましょう。

・命中85で攻撃が2回とも当たれば倒せる敵がいる。それよりも弱い武器なら命中100になるが、それだと一人では倒しきれない。
 けれども、命中100のほうの武器でしっかり削れば、別のキャラと協力すれば、その敵は撃破できそうだ。命中85のほうの武器は1回でも外したら別キャラと協力しても倒せない。別キャラは他にやらせたいことがあるんだ。さて困ったぞ……

 SRPGやっていて楽しい瞬間ですね。
 たぶん一番弱い鉄の武器と、それよりは強いけど命中がちょっと下がる鋼鉄系の武器のどっちを使うかで悩んでるのでしょう。
 ではまた比較。

実際の確率pの攻撃を2回したときに2回とも当たる確率:
  実効命中率なし(p=85.00%):約72.25%
  実効命中率あり(p=95.65%):約91.49%

 どうでしょうか。
 この設問、周囲の状況によって選択が無限に変わるとは思うのですが、個人的には72%が成功するのを祈るのは、ちょっと運を絡めすぎだと思うんですよね。でも、91%なら、失敗するとキャラロストする状況でもなければ、試してみていい気がします。
 あなたなら、どうしますか?

 で、ここからが問題なのですが。
 例にあげたように、実効命中率の有無によって最適解が変わる、そこまで言わなくても、判断基準が大きく変わることがあるのです。
 実効命中率の仕様が入っているゲームだと知らずに、律儀に書いてある数値を信じて遊んだプレイヤーに対して、「いやーごめんごめん、どこにも書いてないけどさぁ、実効命中率の仕様を入れてるから、あの命中10の敵の群れに突っ込ませても全然大丈夫だったんだよね。あと、アーマー育ててくれたみたいだけど、回避キャラ育てたほうが楽だったんだよ」みたいなことを言って、はたしてそのプレイヤーに許してもらえるでしょうか。
 きっとそのプレイヤーも、事前に知っていればプレイ方針を変えたことでしょう。

 プレイの判断基準となる情報を偽るとは、そういうことです。
 SRPGの面白さの一つに、見えている情報から、出来る限り正しい選択を探す楽しさがあると私は思っています。
 見えている情報を偽るとは、極端に言えば、SRPGの楽しみの一つをプレイヤーから奪っているようなものではないでしょうか。

 もちろん、「うちのゲームは手数がかつかつで常にギリギリのところを要求するので、作者としても命中80で2回も攻撃を外されると困るから、実効命中率を採用しよう。このゲームの肝は攻撃が当たるかではなく、ユニットの運用の仕方だから、プレイヤーはそっちに集中して欲しい」などの、明確な意図がある場合は問題ないかと思います。


5.最後に


 長々と述べましたが、あらゆる仕様は他の要素と絡んできます。
 例えば命中85は実効命中率が95.65%あることを考えると、「基礎の武器よりも威力は高いが、命中が低いデメリットがある」といった武器が、プレイヤーが使う分にはほとんどデメリットを受けずに使うことができます。
 その特性をどう使うかは製作者の腕の見せどころでしょう。

 また、今回批判的な表現になってしまったGBA3部作も、「ハードモードは敵のステータスが高く、かなり計画的に行動しないとそもそも敵の命中率をそこまで下げられないし、味方の命中もそこまで高くはならない」といった基本的な設計があるからこそ、実効命中率の仕様がうまく働いている印象があります。
 命中50を命中30に下げるだけで、数値以上に劇的に攻撃を避けられるようにしたかったからこそ、このシステムを取りれたのではないでしょうか。

 以上、自身の作品の特徴を考慮して、実効命中率を採用するか総合的に判断するべきであり、盲目的に入れると想定外のところであなたの作品の長所を消してしまう危険性があるという話でした。

 お付き合いありがとうございました。
 よき創作ライフを。


本記事の作成にあたり、以下のサイトを利用させていただきました。
実効命中率一覧:https://dic.nicovideo.jp/a/%E5%AE%9F%E5%8A%B9%E5%91%BD%E4%B8%AD%E7%8E%87%28%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%83%A0%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%A0%29
確率計算:
https://dskjal.com/statistics/chance-calculator-jp.html

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