「倍速視聴」について思うこと。時間のない人達は誰に時間を奪われているのか。
「倍速視聴」をしている人達が求めているのは「情報」だと思う。
そして俺が「倍速視聴」をしない理由は作品を見ている時の「時間」を重視しているからだ。
例えば一冊の小説を五分で速読した場合、最終的に得られるものはそこに書かれていることのあらすじや、構造などである。つまりは情報だ。
小説は小説を読んでいる時にのみヤバイことが起きる。当たり前のことを書いたけど、本当にそうだ。つまり重要なのは読んでいる時の「時間」にある。例えば作中に全く関係のない記憶がなぜか蘇ったり、自分でも予期していないような感情や価値観の変動が起きることがある。これは「経験」に近いと思う。作品に「くらう」というのはそういうことなのではないだろうか。
「倍速視聴」をする人達が全てのコンテンツを「倍速」で見ているかどうかというと、そうではないような気がする。恐らく予め「この作品にはくらわない」という作品を選んで見ているのではないだろうか。ではなぜ見るのかというと「情報」を欲しているからである。
倍速視聴をする人達にはそもそも時間がない。この人達の価値観や考え方に言及している人を多く見かけるけど、そうじゃなくて、彼/彼女達がどうして我々より時間がないのか、ということを考えた方がいいような気がした。
「この作品にはくらわない」ということがどうして分かるのかというと、見る前から「情報」を掴んでいるからである。
俺は高校生の頃より「つまらないもの」を見なくなった。それはサブスクのおかげで間違いない。
学生の頃はTSUTAYAに行って適当にジャケ借りをして、いざ蓋を開けてみたら超つまんなくても「250円無駄にしたくねえ」って思いで気合で観たりしていた記憶がある。
今は「おもしろいもの」を連続で見れている。これは偶然ではない。例えばTwitterを開けば「今おもしろいと話題になっている作品」が分かるし、制作側もSNSを使って様々な角度から「これはおもしろいですよ」という事前情報を配りまくっている。
「映画見放題券」を毎月約1000円で購入している。俺はちなみにHULU、ネトフリ、ユーネクスト、アマプラに加入している。
学生の頃より視聴する前から「おもしろいか否か」の判断をしやすくなっているし、見てつまらなかったら途中で辞めて他の作品を見ればいい。「250円無駄にしたくねえ」とはならない。
話は一瞬逸れるが、バイト先の近くのミスドが「一時間1600円でドーナツ食べ放題」を始めた。スタッフのおばちゃん達と「食べ行くか~」みたいな話をしていた時に多くの人が「1600円に到達するにはまずこれを食べて、それからコーヒー2杯飲んで」みたいなことを考え出した。俺はとても貧相な考え方だと思う。何が一番贅沢か考えた結果、「ポンデリングとフレンチクルーラーとコーヒー1杯」が最もよいという結論になった。
「普通の食事かよ!」と言われたが、多分それでいいのだと思う。
繋がりそうで繋がんね~。
で、どうして「倍速視聴する人達」の時間がないか、というと「事前情報」や「口コミ」制作側の「宣伝」に時間を奪われているからである。
彼/彼女達の時間を奪っているのは作り手側にあるのだ。
これは自分がYouTubeで映像コントやラジオを配信するようになってから、明確に気が付いた。例えば映像コントを作り始めた時、俺は自分が作りたいようにネタを書いていたのだが、グーグルアナリティクスを見ると最初の1
0秒とかでスキップされてしまっていたのである。
これは当然のことだ。無名の芸人が作った映像コントを見るくらいだったら、ネトフリにある作品を見た方が「時間を無駄にしない可能性が高い」に違いない。だから俺は自分がYouTubeを始めた時に生意気にも「サブスク」がライバルかつ同じ罪を背負った同業者だと思った。
飛ばされてしまったのではどうにもならない。まず見てもらわなければ話しにならない。ってことで、動画が始まった瞬間の「掴み」をかなり意識したり、うんたらかんたら、あ~でもないこうでもない、と数年間「飽きない構造を作り」もっと簡単に言うと「見る側の生理的な運動を気に掛ける」ということが「ネタを作る」という行為に自然と組み込まれていったのである。
でもこれをやっていくうちに舞台でのネタがウケるようになったから不思議だ。お笑いは「笑わせたら勝ち」だし、そもそも自分以外にもう一人「見る人」がいないと成立しないものだから「受け入れてもらいやすようにする」という作業に葛藤があまりない。
我々は例えば分かりやすい掴みを作るといってもそれを「言葉ではなく映像でやる」とか、なんだろうダサいことはしないというルールで突っ張ってやっている。それにしても映像コントはYouTubeとの相性も悪いしほんとうにコスパが悪い。でもやり続ける。よかったらプルサイ応援お願いします。
宣伝を挟んだところで、つまりなにかというと、「倍速視聴する人達」の時間を奪っているのはまさかの自分であった、という話である。それは言い過ぎかもしれないけど間違いなく加担はしている。
でもこれから確実に「長尺」の時代がくる。絶対にこれは間違いない。
俺はそのうち3時間のコント映像とか出すと思う。
「倍速視聴」をしている人はめっちゃ消費者だと思う。
俺はそれをダサいと思う。
低刺激な情報を浴び続ける状態は、思考停止しているのとあまり変わりがない。マジで見たいものだけ腰据えて見た方がいいよ。「倍速視聴」は「豊かさ」と対極にあるから。
フレンチクルーラーと、ポンデリングとコーヒー一杯が一番贅沢なように。
終わり。
落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。