コードブルーと球児
病院の売店でバイトをしている。
内線がかかってきたので電話を出て「あ、売店で~す」といった。
「あ、売店で~す」という言い方はかなり意識的にしている。
それは院内で我々だけが医療と全く関係のない存在だからである。それはコロナが蔓延している時に医療従事者に配布された給付金を、売店スタッフだけがもらえなかったという事実が証明している。売店スタッフなのだから当たり前ではないかと思うかもしれないが、実は院内の清掃スタッフはもらえているし、実際に病院の偉い人が「コンビニスタッフにも手当を」と国かなんかに打診してくれたのだが我々のみ却下されたという話を聞いた。
にもかかわらず、去年かなり危険なことを頼まれていて(ここら辺のこと詳しく書いてはいけなそうなので、あとで有料記事で書くつもり)めちゃめちゃイライラしたし、実際に俺1人で病院の人達と戦った記憶がある。
病院の上の連中は、我々にも「感情がある」ということを想像できていない。
「あ、売店で~す」と、緊張感と対極にあるリアクションをすることで、「普通のコンビニなのですが、医療のことで何か用ですか?」ということを俺は言いたい訳である。誰にも伝わってないし、それを一々伝えていたらやばいのでこれくらいの塩梅で納得している。
「あ、間違えました!」と看護師が言ってすぐに切られた。
その二秒後に「コードブルーコードブルー、院内入口付近、コードブルー」みたいな放送が響き渡った。さっき間違い電話をしてきた看護師の声だった。コードブルーは内線からかける。とんでもない間違い電話だなと思った。
その直後、売店の前を医療従事者達が通り抜けていく。全力で走っている人もいれば、ちんたら歩いている医者もいる。走れよ、と毎回俺はそれらを見ながら思っている。
「コードブルー解除、コードブルー解除」という放送が流れた。
ものすごい勢いで車輪が回る音がどんどん近づいてきて、俺は咄嗟に見ない方がいいと思ったんだけど、目に入ってしまった。
フルスピードで駆け抜けていく担架、その上に寝ているお婆さん、お婆さんに跨って心臓マッサージをする看護師、お婆さんの顔、なんか全部が焼き付いてしまった。
いつも思うんだけど、コードブルーが鳴った時に「もう人足りているだろうけど一応行くか」的な感じで、歩行よりも遅い小走りをしている医者を見ると、かなりの確率で自意識に苛まれているような表情を浮かべている。
あの顔を見ると毎回アウトが確定しているのに、ファーストまで全力で走る高校球児の姿を思い出す。
落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。