角刈り少年とフレンチブルドッグと真顔な奴ら
信号を待っていた。
目の前に角刈りの青年がフレンチブルドックを抱きかかえている。
訳も分からず、お前らめっちゃいいな、と思った。
青年の隣にママチャリに乗った、品の良い女性がいた。
彼女はフレンチブルドッグに釘付けになっていた。無類の犬好きなのだろう。ラーメン好きの友達が、ラーメンが目の前に運ばれて来た時と同じ瞳を彼女はしていた。
フレンチブルドッグは、どこも見ていなかった。
青年は、女性が自分の犬を見ていることを知っているからこそ、赤の信号をひたすらに見ていた。今日の赤ちょっと薄いかな?とかそんなことを本気で考えていたのだと思う。
それから40秒程経過した時、彼女は青年に何かを言った。
青年は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに真顔に戻って、淡々と何かを話していた。
僕はイヤホンをしていたので、話の内容は分からなかった。二人が話始めた時、左のイヤホンを咄嗟に外してしまったのだが、すぐに戻した。
青年はとにかく真顔で、「説明」をしていた。自分の犬のことを聞かれた時にする一般的なリアクションとはかけ離れていた。
それがお前らめっちゃいいなの大きな要素であると思った。
何もかもが自然だった。
フレンチブルドッグもまた、どこも見ていなかった。
すぐに青になった。話し始めて15秒した頃には青になっていた。
もっと早くに話しかけるべきだったのではないかと、僕とその青年は思った。
僕の横に立っていた、おかっぱ頭の生真面目なメガネをかけた真緑のTシャツを着た女性が目を引ん剝くようにして、二人の会話を聞いていた。
もうとっくに青になっている。
我々が一歩も身動きを取れなくなっているのは、犬好きの彼女のせいであった。
少ししてから、僕の横を彼女が自転車に乗って追い抜いて行った。
彼女の顔には表情がなかった。
落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。