俺が明日他人の金メダルをかじるために考えたこと。


酒を飲みながら、我が国の選手が金メダルを獲るところを見た。明日この画面の中のメダリストと直接お会いできるのかと思うと、メダルをかじりたくて仕方がない。もうこの段階からメダルをかじりたいと思ってしまっているのだから、明日メダルを目の前にした途端かじってしまうと思う。
どうしてスポーツ選手はメダルを獲得した後にかじるのだろうとこれまで疑問に思っていたのだが、その理由が今ではなんとなく分かる。ハイボールに合いそうでだからである。ハハハ。

しかしどうだろう、公衆の面前で他人の金メダルをかじっていいのだろうか。酒に酔っていても若干の躊躇いがあるのだから、素面の状態だと中々難しいのではないかと思う。
如何にして当事者や世間から、「おかしい」と思われずにメダルにかじりつくか、その作戦をこれから立てなくてはならない。俺は負けない。

まず一般常識と照らし合わせて考えてみると「他人の金メダルを噛む」という行為は非常識にあたる。つまり「噛んだ」瞬間に私は世間的にOUTな人になってしまう。それは誰しもが「この人はメダルを噛まない」と思い込んでいるからである。
公衆の面前の前に登場した瞬間から、私は人々から「メダルを噛まない人」という云わばレッテルのようなものを貼られてしまっている。このレッテルが貼られたままの状態で「メダルを噛む」から非常識だとされてしまうのである。ならばメダルを噛む前にまず、人々が私にラベリングした「メダルを噛まない人」から「メダルを噛みそうな人」にまで持って行く必要がある。つまり徐々に「噛まない」から「噛みそう」までグラデーションをつけていくことによって、最終的には「やっぱり噛んだ!!」というところまで行けば、「案の定」まで持って行けさえすれば、人々はそう騒ぎはしないと考えられるのである。

なので最初は溢れるばかりのメダル噛みたい欲をなんとか抑え込み、適当な挨拶を交わしたところで「一回メダルを首にかけてもいいですか?」的なことを言う。我ながらこれはいい手だと思う。何故なら「他人がメダルを首にかける」行為を断るのは相当な勇気がいるからだ。断りでもしたら、「金メダリスト、金メダル渡さず!!」みたいなタイトルが付けられたネット記事が瞬く間に拡散し、世間から「メダリストなのに器が小さいんじゃね?」とか散々なことを言われてしまうリスクがある。なのでひとまず私の首にメダルがかかることは間違いがない。そして更にこの作戦の素晴らしいところは「噛みそう」へのグラデーションの第一歩となるところにある。選手の首にぶら下がっているメダルにかじりつくより、自分の首にかかったメダルを噛んだ方がいくらかマシなのだ。
そして私は自分の首にぶら下がったメダルを手に取り、どうする。どうしたらいい。こっから口に運ぶまでのアプローチがあまりにも怖すぎる。モーションとしておかしい。しかもだ、その時私はマスクをしているに違いない。どのタイミングでマスクを外せばいいのだろうか。ここは妥協してマスク越しに噛むしかないのか。ダメだ、確実にじかで噛みたい。直でいきたい。でもどうだろう、メダルを首にぶら下げて「重いですね~~」とか言いながらマスクを下げ「あ~いいですね~」みたいなことを呟きながら、メダルを口の方へ持って行くモーションがあまりにも食事すぎるではないだろうか。もしかしたらマスクに手をかけた辺りで勘のいい奴だったら気付くのではないか。できるだけ私がかじる瞬間まで「かじった!!!」と思われたくないというのが本望である。


ああ、どうしよう、果たせないかも、とかなんとか考えている内に次々と不安が募っていき、最終的には知覚過敏なんだけどどれくらい染みるのか、とか銀メダリストに会った時にしようかな、とか一層自分で金メダルを獲った方がいいのではないかとか、訳の分からないことを考えている内に朝になって、あれよあれよと時間が進んでいき、気が付けば私はメダルをかじっていた。
かじって分かったのは、金メダルは自分で獲って初めて美味いということである。お野菜みたいなんか。とか思った。


落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。