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はじめに

今日は朝番だった。勤務時間は七時から十五時三十分の七時間半労働の訳だ
が、朝番の1番の大仕事は七時までに店に辿り着くという事である。
規定時間内に店の鍵を開けた僕の表情は、退勤する時の表情と全く同じ顔をしているはずだろう。決められた時間内に店に辿り着くためには、朝の五時半に起きなくてはならない。本当は五時四十五分でもいいのだが、最近かけたパーマが寝癖を後押しするといった事が多々あり、その場合はお風呂に入り髪をセットし直さなくてはならない。そのためお風呂と髪セット分の時間を十五分として、五時半に目覚ましをかけているのだ。
それにしてもパーマというのは非常に難しい。自分のパーマと寝癖がいい具合にあいまって綾野剛よろしくになる時もあれば、その逆もまた然りで茂木健一郎先生よろしくになってしまう事もある。
そして1番良くある寝癖パターンが、綾野剛と茂木健一郎の中間である。パーマは毎回同じようにセットができないので、お風呂に入り髪の手入れをした所で必ず綾野剛になれる訳ではない。髪をセットして綾野剛になれるのであれば、毎日三時に起きたっていい。幸いな事に髪をセットしても必ず茂木健になる訳でもない。髪をセットして健一郎になってしまうなら永遠に眠りから覚めなくてもいい。
つまりこの綾野剛と茂木が両端にいて、その真ん中に自分が立っている場合、風呂に入らず寝癖を活かしながらセットする事で、綾野剛に行ける時もあれば、風呂に入らなかったために茂木に成り下がってしまう事もあるのだ。また、茂木に足場を固めたまま、かなり綾野剛よりに行きたがっているパターンなど、書けばキリがないのだが脱線気味なのでここまでにしよう。まあつまり朝番は大変だよってことだ。

 そして今日。どこかの脳科学者みたいな髪型で家を出て、駅まで歩いて向かう。朝は道に誰もいないので、どうしても目覚めの歩きタバコをしてしまう。ぷかぷかタバコを吸いながら歩いていると、ランニングをしている大人に怒鳴られしまった。イヤホンをしていたので、何て言われたのか分からなかったのだが、とにかく怒鳴られてしまった。これは僕が本当に悪い事をしてしまったと思った。朝っぱらから、気持ち良くランニングをして長く生きらえる事にこだわり、歩道を走っている方に対して、本当に申し訳のない事をしたと思う。早朝からアクティブにダッシュされる事は僕にとっては副流煙のようなものだし、絶対に自分が正しいと思ってる人の怒りに満ちた顔は笑ってしまう程滑稽だけど、彼がそれ程に健康に対してマジなのだからそれもまた仕方がない。

これを機に歩きタバコをやめる事にした。

 そしてなんとか店に辿りつ着き、鍵を開け、業者から運ばれてきたおにぎりを並べている時に俺は、こんな所で何をやっているんだろうと思った。
 初めて思った。
芸人を目指すと言って、親に内緒で銀行員を辞め早二年。俺は何をやってきただろう。パーマに悩み、いい年して大人に怒られて、何をやっているんだろうと。何を必死でバイトをしているのだろうと。

 肩を落としながら帰宅している途中、この二年間は明らかに無駄な二年間だった事を素直に認めた。だが無駄だった痕跡はせめて残したい。
何か書き残しておこうと半ば決意じみたものを胸に秘め、俺はコンクリートにそっと火のついたタバコを押し付けたのだ。


落合諒です。お笑いと文章を書きます。何卒よろしくお願いします。