”株式投資型クラウドファンディング”の活用方法
調達企業にとってエクイティファイナンスは不可逆であり、どこに株を持ってもらうか、とても悩むところです。
その新しい手段として、”株式投資型クラウドファンディング(以下、ECF)”は生まれました。
ECFは、2015年5月の金商法の法改正によりできた第一種少額電子募集取扱業により可能になりました。
(出典:https://www.fsa.go.jp/news/26/syouken/20150213-3.html)
2017年4月より、一号業者の運営するFUNDINNOで、日本で初めての同業法の公募増資が行われました。
それから約四年弱、累計131社・43億円超の調達実績(2021年1月25日現在)を積み上げ、活用法と傾向が見えてきました。
できれば事例と結びつけたいのですが、当該企業への許可も必要になるので、まずは大枠でご紹介させて頂きます。
【事業ステージ】
FUNDINNOでこれまで扱ったことのあるステージで、採択されやすい、もしくはされにくい、どのような活用方法があったか等を紹介させて頂きます。
(*それぞれのビジネスモデルによって、正確にどのステージと言い切れないところがあるため、具体的な社数の記載は控えさせて頂きます。)
[シード]実績:少ない
これまでシードの採択事例は少ないです。
なぜならば、審査機関として判断、評価できる材料に乏しいからです。
ビジネスの良し悪し以前のところで、言っていることは素晴らしいが本当にできるのか、『蓋然性』を見ています。
ECF業者は立場として、シードVCのようにビジョンや人にかける、リソースも投資する、ということができないです。
審査機関の立場であり、最終的な投資決定は投資家の方が行う、という特性があります。
そのため、何か問題があった場合、説明がつかないところは扱いにくいです。
(今後の展開次第で変わる可能性もあり、あくまで現時点での実績の話です。)
結論、シードの判断材料としては、代表とビジョン、ビジネスモデル(課題解決、ターゲット等)、メンバーになります。
・代表はどういう経緯(またはトラックレコード)で今回の事業構想に至ったのか?それを実現するバックグラウンドはあるか?
・(今後変わる可能性があると理解した上で)ビジネスモデルは理に叶っていて、マーケットに受け入れられそうかどうか?
・開発や初期のマーケット獲得を補えるメンバーがいるか?
他にも個別案件ごとで評価される点はありますが、主にこれらを総合的に判断しています。
積極的に支援したいものの、事業ステージとしてはもう少し進まないと投資家としても判断するものがないため、もう少し事業が進んだ方が相性が良いです。
[アーリー(preA)]実績:最も多い
FUNDINNOの事例では最も多いです。
『少額電子募集』のルール上、一億円未満の募集になりますので、1プロジェクトあたりの調達平均は約3300万円(ボリュームゾーンは2-5000万円)になっています。
事業内容によりますが、金額感としても相性が良いところが多かったです。
また、先述の『蓋然性』も高まってきます。
文字通り、シリーズAにしてはもう一息だけど一押しあれば次に進める、ようなステージです。
・大手や事業展開が期待できる提携先ができている。
・事業展開が期待できる有望なキーマン(メンバー)を獲得できた。
・販路が概ね見えており、且つ試作機があり、金型ができると量産・販売ができる。
・既存の収益事業に関連するソフトウェアのアルファ版ができており、調達資金でベータ版を開発する。
・クローズドベータを運用しており、今回の調達でローンチできる。
このようなところが調達しています。
ECFは株主が増えることが特徴です。
リスクと書かれることもありましたが、支援者(株主)が増えることのメリットを得られる企業が良いです。
これにはよく『カゴメの株主戦略』の説明をします。
(参照:https://www.recruit.co.jp/meet_recruit/2020/01/kagomefan.html)
FUNDINNOの投資家層は経営者や管理職の方も多いため、イメージしやすいtoCではなく、寧ろtoBやBtoBtoCの事例の方が多くなっています。
ご自身の会社との連携や販売協力、スポンサーなど、様々な取り組みがありました。
また、SNSやクチコミで拡散した事例(toB・toC共に)もありました。
この延長線で、業界しやメディアに拾われてブレイクした企業もあります。
調達企業と投資家の距離感、放出割合としても、現状ではバランス良くなりやすいという実感があります。
[シリーズA]実績:あり
・既にローンチしており、採用やマーケ等、実績を増やすための一押ししたい。
preAとも同じような活用を期待できますが、シリーズAでは企業の成長戦略として分岐点があります。
・IPOを目指すかM&Aを目指すか?
・独立系でいくか、色をつける(資本業務提携をする)か?
まずは前者、これは株価に影響してきます。
M&Aのエグジットを想定している場合、買い手が買いやすい価格設定(メガディールもあるので一概には言えませんが、、、)を考慮する必要があります。
買収する側としては、1・3(5)・10億円で決済のラインが引かれていることがあります。
例えば1億円未満なら部門決済、3億円(5億円)までは取締役会、10億円までになると第三者委員会、超えると計画的買収、などです。
つまり、シリーズAで株価が上がり過ぎるとエグジットできる可能性が低くなる場合があります。
IPOの場合は株価を高めていくので、放出比率も考えて株価設定をしていきます。
IPO、もしくはM&Aと聞くことがありますが、絶対にできないということはありませんが、成長戦略として異なるので両睨みはここで分かれるケースが多いです。
株価設定も影響しますが、大手企業の色をつけて戦略的に広げるという考え方と、独立系で中立的に展開していくのか、分かれるのもシリーズAが多いです。
前置きが長くなりましたが、この流れでFUNDINNOを活用するとなると、一億円を超える調達を目指す先が多いです。
そのためECFの制度上、金額面で非力になってしまうことがあり、諦めたこともあります。
シリーズAで活用する場合はデットや補助金も含め、他の調達方法も一緒に検討されると良いかもしれません。
[シリーズB以降]:実績:最も少ない
シリーズBはPMFができており、資本投下によってスケールさせる、というステージです。
そのため、マーケ費用で数億円以上で調達するケースが多いです。
金額面でも非力ですし、ECFのマーケティング効果と違ったレベルでの集客を目指しているためにメリットを受け難くなります。
過去の実績としては、公募増資の特性である『公募価格』を決める(バリュー形成)ために使った事例があります。
これまでは相対取引が一般的だったので、お互いの合意さえあれば成り立ちましたが、見る人によっては価値が異なります。
例えば同じ事業でも、A社にとっては価値が高いものでも、B社にとってはそこまで高くない、ということがあります。
事業シナジーの高い先は株価を高くつけるが、他からの出資も検討する際に目線感が合わない、ということも起き得ます。
最悪のケースは外的要因などで思ったように事業進捗せず、他から出資を募ろうとした際にダウンバリエーションになってしまうことです。
(ECF(公募価格)でももちろん起きる可能性はあります。)
中にはここまで100%オーナーやそれに近い状態でくる先もあります。
この場合、これまでの基準がないため、相対だと出資する側に有利な株価を設定されるリスクもあります。
そこで、公募価格で何百人の方が「この株価で買った」株価を抵抗線にする、という活用法ができました。
ただし、調達金額としては物足りないので、他からの調達か事業自体で潤沢なキャッシュをつくれる状態にしておくことはセットになります。
[最後に]
最近は減りましたが、 ECFは『VCから調達できなかった先』と言われることがありましたが、そういうことではありません。
それぞれ相性があります。
VCであれば満期があるので、出資するタイミングやビジネスには制約がつきます。
一方で、ECFの普通株の場合は満期がありません。
そのため、Jカーブで垂直立ち上げするモデルでない、着実に売上を伸ばしていくビジネスも採択できるようになりました。
着実な会社は悪い会社か、否、稼ぐ力のある会社は社会のニーズのある良い会社です。
比較してミドルリスク・ミドルリターンと言えるかもしれません。
調達企業としても、出資者としても、この世界観が広がることによって、これまでエクイティでの調達が難しかったビジネスモデルや出資の機会を得られなかった投資家の方、いきなり夢100%のエンジェル投資はできない、というニーズを結びつけることができます。
そのため、ECFを検討される方は今回記載させて頂きました判断軸を参考にして頂き、堂々と胸を張って選択して頂ければと思います。
大事なことは「対外的な良し悪し」、ではありません。
自分達が『何をしたいか』です。
ビジネスや状況によっては、必ずしもECFが正解と限りませんので、まずは参考になりましたら幸いです。