沼ってしまって何も見えない
今ハマってるものは?
「BTS!」「今更ポケモンGO(笑)」
「ヨガ始めた!」「料理かな〜」
えっ…?私??
私は…「沼」かな??
…「セフレ沼」。
またもや、友だちに言われた。
「それ、完全に沼だね。」
まさか、私が?そんなはずないよ。
しかし、そう断言する友だちは、
1人や2人ではなかった。
ーーー
遡ること1年前。憧れの人にご飯に誘われた。
歳が近く、面倒見の良いその人は、
社会人なりたての私には甘すぎる猛毒だった。
周りから頼られ、人気もある。
それでいて何かと私のことを気にかけてくれる、
そんな人を、好きにならずにいられなかった。
初めてその人の家に泊まりに行った時、
同じベットで寝たのに、何も起こらなかった。
翌朝起きると、おでこにキスをされ、
「おはよう」と笑いかけてきた。
その日の帰り道、
「おでこ キス 男性 心理」
で検索をかけまくったことが懐かしい。
それから、初めて身体の関係を持ったのは
ほどなくして、私が誘ったからだった。
「ねぇ、友だちになってよ、セフレ。」
今でもその台詞を覚えているし、
もしやり直せるなら、ここからと決めている。
あーなんであんなこと言ってしまったんだろう。
その時は、そうでもしないと、
この人の側にいられない気がして、
咄嗟に出てしまった言葉だった。
それから、何回か直接家で会うようになって、
飲みに行ったり、カラオケに行ったりしたが、
会って、セックスをしなかった日はなかった。
私たちは正真正銘の立派なセフレになっていた。
沼らせることが得意な彼は、
音信不通になったり、急に連絡してきたり、
「可愛い」と言ったり、抱きしめてきたり。
セフレではあるけど、自分がこの人にとって、
特別な存在である気がしていた。
そんなある日、私は占いに行くことにした。
彼がどう思ってるか、見てみましょう。
そう占い師が言うと、
一枚のタロットカードが捲られる。
カードは「悪魔」だった。
悪魔のカードには、鎖で繋がれた
裸の男女が描かれている。
タロットを全く知らない私でも、ひと目見て、
これは良くないことを示してるな、と察した。
「完全に、相手は身体目的だね。」
「それ以上でも、それ以下でもない。」
「その人と関係を持っている間は、
次の出会いはないよ。」
あーそうですか。わかってはいるよ?
それに、友だちにも何人にも言われてたし。
それから占い師はこう続ける。
「今は、ベンチに2人で腰掛けてる状態。
でも、お互い背中合わせで座ってる。
背中に、彼の温もりを感じてるから、
寂しく感じてないだけ。」
うん…なるほど…。
「本当は寂しいんだよ。
もっとちゃんと、寂しがって、
悲しくなってもいいんだよ。」
「彼が自分のことを見てないことを、
受け入れなければいけない時が
いずれ必ず来るよ。」
…ちゃぷん。
心が、沼から少しだけ引き上げられた音がした。
自然に目頭が熱くなってくる。
今日は、2週間前に振られた友だちの
付き添いで来ただけなのに。
私、全然悩んでないのに。
なんで涙が…?
今まで、セフレに言われた心ない言葉たちを
できるだけ、思い浮かべた。
悲しかった。寂しかった。
なんでそんなこと言うの、と思った。
…ああ、そっか
私がセフレになろうって言ったからか。
そして、
しばらくは彼とは連絡を取らないようにした。
友だちも、未練たらたらな元彼に
連絡を取らないことを誓った。
でも、ダメだった。
「この新作みた?」
YouTubeのリンクと、
簡素なメッセージが送られてくる。
ああ、それね。
それ見た時に最初に浮かんだのは、
あなただったんだよ。感想聞きたかったよ。
その時は我慢したけど。
「もう見たよ〜!どう思った?」
いつも通り、明るく、
何事もなかったかのようにメッセージを返す。
ダメだな、私。
まだしばらくは、
この沼から抜け出せそうにない。