隙間

いつもの散歩道。住宅街を抜けて、人気のない変電所を通り過ぎて、ぐるりと回ったらいつの間にか商店街に着いている。その商店街の総菜屋でコロッケを買って、温かいうちに食べながら帰るのが常だ。その道程の隙間に、今まで気が付いていなかった隙間があった。分かれ道ではなく、隙間が。
隙間は明らかに厚みが無く、不自然に風景に溶け込んでいる。覗き込むと真っ黒くて、ところどころに白く瞬く光が見える気がする。生まれてこの方実際に見たことはないが、宇宙とはこんなものなんだろう。
足を踏み入れたら落ちてしまうだろうか?好奇心は湧くが、この中に入りたくはないな。仕方がないので写真でも撮ってお茶を濁そうとしたら、
「あっ」
食べかけのコロッケを落としてしまった。思わず覗き込む。重力を感じさせるスピードで、半分のコロッケが暗闇に吸い込まれていく。一個50円、およそ25円の損失である。
がっくりと肩を落とす。これでは総菜屋のおばちゃんに申し訳が立たないな。しょぼくれながらも顔を上げると、隙間はいつの間にか消えていた。まさか隙間に散歩の楽しみを取られるとは思いもしなかった。
「味わって食えよ」
とうに消えてしまった隙間に対し捨て台詞を吐いて、仕方なくその場を去った。見物料がコロッケで済んだだけ安いものだ、そう思うことにしよう。

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