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ショートショート 『砂時計』
砂時計は「時」を可視化できる。
よくできたものだ。
こだわりのカフェで紅茶を頼むと、紅茶の入ったポットと一緒に砂時計も来る。
薄ピンク色をつけた砂が上から下へと落ちて行く。砂がガラスの中で落ちる様子を眺めていると、サラサラと砂の音が聞こえる気がした。
「水の低きに就くが如し」
それは孟子の言葉で、水が低い方に流れるように自然の成り行きは止められないという意味だ。
私の地元には大きな川があり、川を見る機会が多かったので、「水の低き」はリアルに見てきている。
「川も高いところから低い方に流れる」
孟子の言葉を深堀したいのではなく、自然の理りとして、ただそうだなと思っていた。
高いところから低い方へ……
砂時計の狭窄部をじっと見つめていたら、自分も砂の一粒になって下に落ちて行くような錯覚を覚えた。
他の砂と一緒に受け皿に落ちた私は、次々に落ちてくる砂にまみれながら、ペッペッと口に入った砂を吐き出した。やがて砂は全部落ちたようで、上を見上げると小さな穴が見えた……
3分間を測る砂時計。
このガラスケースの下が過去だとしたら、狭窄部は現在だろう。では砂室の上部は「未来」?
いそいそとティーカップに紅茶を注ぐと、ダージリンの香りをまとって琥珀色の液体が真っ白のカップに流れ落ちる。
砂時計の砂室の上部が未来で、下部が過去だとしたら……
川の高いところ、源流が未来で、流れて行く先が過去だとしたら……
———未来は過去に流れる
そう、言えるんじゃないかな?
だって、その逆って考えにくいじゃない?
水は低い方から高い方には流れない。
川も海も、山の上の源流に戻らない。
砂時計も受け皿から上部には行かないし。
そもそも、時間の経過がもたらした結果が過去だから。
おっと、紅茶が冷めないうちに……今は紅茶に全集中。
———今、起きている現実は未来からきている
砂時計の底から見えた、私の『未来論』