武器を磨き続けて【FOCUS ON:阿部翔平】
明治安田生命J1リーグから数えて「J8」の東京都社会人サッカーリーグ2部に所属しているTOKYO CITY F.C.。渋谷区をホームタウンに活動するクラブには、いったいどんな選手が在籍し、どんな思いを胸に秘めてプレーしているのだろうか。選手1人ひとりのパーソナリティに焦点を当てる連載企画「FOCUS ON」がスタート。第10回は名古屋グランパス時代にJリーグ優勝経験を持つDF、背番号21の阿部翔平に迫る。
市船進学で見えてきたもの
僕のサッカー人生における最大の転機は、市立船橋高校への進学だったと思います。
地元の少年団から横浜フリューゲルスのジュニアユースに入って、3年間プレーしました。実はフリューゲルス時代の途中に、「市船に進みたい」とクラブに伝えたことがありました。でも、その時はコーチたちに「お前は高校サッカー向きではない」と言われて、そのままユースに昇格する予定だったんです。
ところが、僕がユースに上がる直前のタイミングでフリューゲルスが消滅することになってしまって。それが判明したのが10月末だったので、もう有力な高校などの試験は終わっていました。
それでも、周りにいた人たちが自分のことを推してくれて、同期でフリューゲルスのユースに昇格が決まっていた選手のうち何人かは市船に進学することができました。
いざ市船に入ってみたら、とにかくきつかった。どこから来たのかは関係ないし、自分がどういう立場なのか、そんなことを考える余裕もなかったです。まずは布先生(布啓一郎=現松本山雅FC監督)についていくしかありませんでした。
特に高校1年生から2年生にかけては凄まじかったですね。上級生にはJリーガーになる選手が何人もいて、「この高校ヤバい…この人たちには敵わない…」と思いながら、毎日生きるのに必死で頑張りました。
そういう日々を2年間続けて、ついに3年生になった時に、ようやく他の高校のことなども冷静に見られるようになってきて、自分やチームの立ち位置を自覚できるようになってきたことが自信につながっていきました。
Jリーグを離れる決断
高校3年生で迎えた全国高校サッカー選手権大会には背番号10のキャプテンとして出場することができました。そして筑波大学で本格的に左サイドバックに転向し、名古屋グランパスに加入したのが2006年のことです。
あれから13シーズンにわたってJリーガーとしてプレーすることができました。2018年限りでヴァンフォーレ甲府を契約満了になった後も、もしかしたらJリーグでプレーを続けることができたかもしれません。
でも、35歳を迎えて、Jリーグにしがみつくのではなく、大きな視野でサッカーを見てみたいという思いもありました。年齢的にもより高いレベルやカテゴリを目指すのは難しくなってきますし、現役選手としてのキャリアを終えた後の人生をどうしていくかも当然考えます。
そういうタイミングでTOKYO CITY F.C.からお話をいただいて、家族とも相談したうえで加入を決めました。
実際にCITYでプロ契約を結んでいない、いわゆる「アマチュア選手」と一緒にプレーして見えてきたこともたくさんあります。やっぱり「プロ選手」は仕事してサッカーをやっている一面があるけれど、「絶対にやらなければいけないこと」に縛られていない選手たちがどのような感じでサッカーを楽しんでいるのか、改めて知ることができたのはすごくよかったと思います。
例えば、ノム(#8 野村良平)のように高いレベルでの経験が豊富な選手は、ある程度完成された自分なりのサッカー観を持っていて、僕から特に言うことはないんです。サッカーに正解はないですから。
でも、そういう選手ばかりではないですよね。自分なりのサッカー観があったとしても、試合の中で適切に実力が発揮できていない場合も多くあります。やっぱり自分のプレースタイルや能力を深く理解していることはすごく大事です。
自分の武器をいかに使うか
プロだと自分の武器を完璧に理解していないと、自分自身の良さを活かしていくことができないですし、監督の求めるものに寄り添って応えていくこともできない。それくらい自分の特徴をしっかり把握していないと、ただ自分がやりたいプレーだけをやってしまい、成長の機会を逃してしまいかねません。
多様なバックグラウンドを持ったCITYの選手たちとのプレーやサッカースクールなどを通して、草の根レベルの感覚を知ることで自分の指導などに活かせると感じています。もちろん教えることも上手くなるだろうし、僕が以前から持っていた「日本のサッカーのレベルを上げたい」という思いを形にすることにも近づけるのではないかと思っています。
特に自分の武器であるキックのノウハウを整理して、一般の人が見てもわかるくらいに落とし込んでいきたいですね。キックが苦手でうまく蹴れない子どもを、しっかりしたロングキックを蹴れるまでに成長させたいっていうのもあります。今年はそのための基礎づくりをしたいです。
カテゴリは下がりましたし、Jリーグ時代のように毎日練習できるわけではないですが、CITYでの日々はすごく楽しいです。妻からもよく「楽しそうだよね」と言われます。今まで苦手だった頭の中で整理した自分の考えをしゃべって伝えるようなことも、CITYに入ってからかなり成長したと思います。とにかく充実していますね。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で試合や練習ができなくなり、苦境に立たされているプロ選手たちのことも考えると、サッカーをプレーするだけではなく、他の面でリードできるものを生み出していかないと、スポーツ選手としての立場が危ぶまれるのではないかとも感じます。
こういう状況でどんな力を発揮し、いかにして自分の武器を活かして価値を提供できるか。周りの人たちとも協力して、考えて、自分やCITYの将来のためになるものを生み出していきたいと思っています。
note、YouTubeではキックの解説をしています。
note:Abe Shohei
YouTube:阿部 翔平/Abe Shohei